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何度目になろうとも料理の試行錯誤を重ねて、初めて実食するときはいつも緊張で思わず息を呑む。味は再現されているのだろうか。
「「「いただきます」」」
口いっぱいに甘味と、卵の旨みが絶妙にマッチした美味しさが広がる。
「美味しいーー!! プリンよ! まさしくプリンの味よーー!!」
プリンは作るのが簡単そうに見えて、その実かなり苦労した。作るからには完璧にしたいという気持ちから、なんとかバニラビーンズに近い植物を探すのに非常に骨が折れた。しかし、手をかけただけの美味しさがそこにはあった。
今までは前世の主食やおかずなどの食事ばかりアレンに作ってもらっていたが、私の10歳の誕生日に、二人からケーキを用意してもらって祝われたことをきっかけにスイーツ作りにも取り組むことにしたのだ。
『主、アレンから聞いた。人間は誕生日にケーキを食べる習慣があるそうじゃないか』
フレイヤは相変わらず、私が人里から離れて暮らしていることで一般的な感覚がなくなっていくのが嫌なようで、アレンから普通の家庭の習慣やイベントを聞き出しては我が家にもどんどん取り入れている。
『師匠! 誕生日おめでとうございます!』
そう言って、二人はサプライズでアレンの村の誕生日の定番ケーキを出してくれた。それは、ホットケーキに近いもので甘さ控えめのものであった。
ちなみに、フレイヤはもう私の年は知っているからおいておくとして、アレンには年齢非公開は継続中だ。
アレン作のケーキももちろん美味しかった。何より、二人の気遣いもとても嬉しかった。しかし贅沢を言えば、私はケーキといえば甘いクリームやフルーツを使った物が好みであったし、前世の誕生日はいちごのショートケーキを毎年(一人でね……)買って食べていた身であった。誕生日をきっかけに前世のケーキの味も恋しくなってしまったのだ。
いきなりショートケーキはハードルが高いので、スイーツ作り第一弾はプリンから始まった。そして、見事に大成功を収めた。
これを機に様々なスイーツ作りにもどんどん挑戦していきたい。来年の誕生日までにいちごのショートケーキを完成させるとして、作って欲しいものはまだまだたくさんある。クレープにヨーグルト、エクレアや和菓子も食べたい。アイスクリームやシャーベットも懐かしい。
どんどん浮かれていたのに最後まで食べきって、何かが足りないことに気付いた。
「ああ、カラメルのことをすっかり忘れていたわ……」
「からめる?」
「いいえ、何でもないわ。また今度プリンを作ってもらうときにお願いするから……」
そして、なぜか急に虚無感に襲われた。
プリンなんて前世でコンビニに行けば200円もあればすぐに手に入るものではないか。そんなものをこれだけ苦労して作って、こんなにはしゃいでいるのがなんだか馬鹿馬鹿しくなってきた。
私はなんて愚かな願いを神様にしたのだろうか。今更ながら強烈な後悔が湧き上がってきた。
別に恋をするもの、美しい容姿をもって生まれるのも、場所は日本で良かった。ちやほやされたいのであれば、有名俳優と有名女優の子どもとして生まれたいとでも願えば良かったではないか。第3次世界大戦は回避されたし、治安も良い、欲しいものは多少のお金があればすぐ手に入って、交通の利便も良い。義務教育があるから友達もできる。インドアな私でも楽しめるインターネット、漫画や小説など娯楽も充実している。
味覚によって鮮明に日本を思い出してしまうと、懐かしくてたまらなくなり、でもそれを手放したのは自分であることが悔しくてたまらなくなり……気が付けば、私の頬を止めどなく涙が流れていた。
「し、師匠、ごめんなさい! 今度はそのからめるをきちんと入れますから!」
「主! どどどどどうしたのだ!? 辛いのか!?」
「帰りたい……帰りたいよおおおお!!!!」
そのまま幼児のように泣きじゃくってしまった。
決して今の状態が不幸ではない。不幸であると言ったならフレイヤやアレンに失礼だ。
でも、日本で暮らしていたときの方が、毎日が充実していた。信頼できる家族や友人がたくさんいたし、周りの人間を不信に思うこともなかった。それに日本はこんな4歳で森の奥に引きこもる選択をするような世界ではない。
事故に遭う前に戻りたい。
神様を恨みたくはないのに、自分の運命を捻じ曲げたことに対してほの暗い感情が胸の奥からくすぶってくる。
「主、主。そんなことを言わないでくれ……」
「いや、嫌よ! 帰りたい。お父さんやお母さんに先に逝ってごめんってちゃんと謝りたい! 友達にも会いたい!!」
「主……」
ずっと泣き喚く私をフレイヤはずっと強く抱きしめてくれた。アレンもおろおろしながらも、ずっと私が泣き止むまで傍で見守ってくれた。
その温かさに甘えて、私は駄々っ子のようにワガママを大声で叫びつつけた。
あの日から私はずっと腐っていた。
ろくに部屋から出ずに、ベッドの上で窓からの景色をぼーっと見つめて1日が終わることもあった。食事だけはアレンが腕によりをかけたものをとることはできたが、外出をして何か行動を起こそうという気力が全く沸いてこないのだ。当然、仕事である回復薬作りも、あれだけ楽しく行っていた農業の手伝いも放棄している。
今日ももうすぐ太陽が南に昇るというのに、私は一歩も起き上がれずにいた。
このまま脳がとろけるかと思うほど堕落した生活を送っている。そして日本に帰りたいという思いは日々募る一方だった。いつまでこの気持ちを引きずることになるのか終わりが一向に見えてこない。
(死んだら……)
天井を見つめながら、暗い考えが頭を過る。
(また死んだら日本に戻れるのかなあ……)
かつての両親のもとでなくとも、我が子に愛情を与えてくれる日本の家庭に生まれ直したい。この際、容姿を始めとするチートなどもいらない。
あの日から、涙腺が決壊したようで、少しでも日本を思うと簡単に涙がこぼれ落ちる身体になってしまい、頬を濡らして1日の大半を過ごしていた。




