17
フレイヤの仕事ぶりをこの目でも見ることにすると――私はすっかり農業にも興味をもってしまった。
だって、種を蒔いたらすぐに芽が出て成長し、翌日にはたわわな実がなっているのだ。数ヶ月分を早送りをして見ているようで、1日中育ち続けていく植物を眺めるだけでも楽しかった。
もちろん、フレイヤは成長が早い分、手入れを素早く行う必要があるのでほぼ1日中忙しなく畑の隅々を動き回っていた。
そんな情景を目にしていると、自然と私もやってみたい、フレイヤの手伝いをしたいと意欲が湧いてくる。
フレイヤに私も手伝いをしたいので、植物を育てる魔法のコツを教えてくれないか頼んでみると、彼女は快く手をとめて私に指南してくれた。
「主、植物を鑑定してみて……そして少し魔力を流し込んで」
「うん……」
鑑定と同時にその植物の生命力を感じることができる。
「その植物の命の流れをいくつか感じることができるだろう?」
「うん……」
茎の中でいくつかの流れを感じることができる。中学校の理科で学んだ記憶が微かにあるが道管と師管だろうか。そこまではフレイヤの言っていることが実感を伴って理解できた。
「そこの中で、この流れはもっと実に送った方が良い味が出ると思うものと逆に遅くした方が良いと思うものがあるだろう?」
「なにそれー!?」
そこから先にフレイヤが言っていることが全く理解できない。これもセンスの問題なのだろうか。
「その速くしたほうが良い流れを速くして、流さない方が良い流れを遅くしたら丈夫な茎が育ち、美味な実をつける」
「……私はおとなしく労働でフレイヤの手伝いをするわ」
魔法は感覚によるものが大きい。どうやら私は農業に関する魔法の感覚には恵まれなかったらしい。対するフレイヤはその才能に特段に秀でていた。
それから試しに1株育てやすいと言われている野菜を育ててみたが、フレイヤの物よりも大きく成長させることは簡単にできるが、あの絶妙な甘みには遠く及ばず、なんだか水っぽい物ができてしまった。魔力が高いだけではチートは生かせないようだ。
「その分、私も頑張って肉体労働でフレイヤを手伝うわね!」
「あああああ!! 主、それはわき芽ではない! 大事な枝になるところだ! 摘み取るな!!」
見よう見まねでフレイヤが手入れをする予定の枝を手伝おうと手を伸ばすと、今までにないくらいの声で制止された。
「……おとなしく私は薬草を作っておきます」
人には得手不得手がある。前世の詩人も言っていた。みんな違ってみんないいのだ。私がいくらチート持ちだからと言って、全ての才能が全人類より優っているわけではない。だから私は得意分野で輝けば良いのだ、この森の奥深くでひっそりと。
「なんか、ちょっと落ち込んできた」
「師匠! 師匠が元気を出せるような美味しい食事を作っておきますから、師匠は回復薬作りを頑張ってくださいね! みんなが得意分野で頑張れば良いのですよ」
「アレン……!」
最近はすっかりマスコット的ポジションとしてアレンに癒されている。
「でも、フレイヤ! 私にも畑仕事を何か手伝わせて!」
「主に任せられること……うーん………あ、雑草でも抜いてくれるか?」
「ええええ!!」
悩んだ挙句にフレイヤから提案されたのが草抜き。まさかこのチート魔力の持ち主の私が完全に雑用係にしかならないとは! しかし、何らかの形で畑仕事に関わりたいので、その立場を甘んじて受け入れることとした。
農業って楽しい。いや、フレイヤのチートを使っているからなのだけれども。
前世の日本の農家の人が聞いたら、そんな楽なものじゃない! と怒られるかもしれないが、とにかく楽しいのだ。
フレイヤの育て方が良いようで、毎日面白いほどの量の野菜や果物が収穫できる。私は回復薬作りと同様に、頑張れば頑張った分だけ、手間をかけたら手間をかけた分だけ結果が出るものには精を出すタイプなのだ。
そして、あれからフレイヤは、草抜きだけではなく、徐々に収穫の手伝いと、植物たちへの水やりを私に任せてくれているのだ! 私は大人しく草刈り機と水道の蛇口係に徹し、余計なことは一切せず、フレイヤの言われた通りに動いている。
そして、それをアレンが美味しく調理してくれる。うまくバランスのとれた3人組なのではないだろうか。
しかし、ここに新たな問題が生じてしまった。
「師匠たち……もうこれ以上野菜を持ってこられても、もう保存ができませんー!!」
「アレン、とにかく調理して冷凍保存すれば良いだろう」
この家は、私が作った氷を継ぎ足すことによって中の物が冷やされている簡易な冷凍庫がある。その中に作ったおかずを魔法で凍らせてから保存するのがいつものやり方だ。
「いえいえ、それにも限りがありますよ。それに、1度冷凍保存をしたらどうしても味が落ちます。現段階で1週間後の食事も毎食できてしまいました。今それ以上先のおかずを作るのは得策ではないですよ」
「うーん……」
そこで、私は新たに収納魔法に手を出すこととした。
試みから1週間後――
「どうかしら、1週間前に収穫したマトの実よ」
「おお……!」
二人から歓声が上がった。見た目は収納した時と変わらない、採れたての状態だ。
「お腹を下すときは皆一緒よ……! さあ、食べてみましょう!!」
収納魔法に内部の時を止めるように付加をかけたが、魔法は感覚的なものなので、私の意向とは外れている可能性がある。
覚悟を決めて、3人がそれぞれ1週間前に収穫して私の収納魔法に入れておいた実を恐る恐る口にすると、いつもと変わらない、採れたてのマトの実の味が広がっていく。
「これは……! 成功じゃないですか、師匠!」
「本当ね!」
それから、フレイヤは腐らせるかもしれないという心配から解放されて、野菜果物作りにより一層精を出すようになった。
私は蛇口係に加え、貯蔵庫係にも任命されることとなった。
「うわー、今日も大量ね、フレイヤ」
「そうだろう、特にランドが豊作だ」
ランドとは、とうもろこしのような野菜で、煮て良し、スープに入れても良し、採れた状態で丸かじりをしても良し、の万能野菜だ。
「師匠、フレイヤさん。こんなにたくさんランドの実があるのでしたら、少し僕の村に送っても良いでしょうか?」
「もちろんよ、ついでにご両親に近況報告をすれば良いわ。優秀な料理人として頑張っているって」
「母さん達、そこにも驚くでしょうね」
そして、アレンはランドの実は甘くその汎用性の高さから人気のある野菜ではあるが、しかし美味しく育てるためには大量の肥料や膨大な手間が必要となるため、価格も非常に高い野菜であると教えてくれた。
「これだけのランドの実を売れば……僕の村の相場ですと、1年は宿に寝泊りできる程の値になると思います」
「そんなにすごいの?」
「しかも、フレイヤさんのランドの実はまた極上に美味しいですからね。より高額に取引させると思いますよ。ディエランのところに持ち込んでみたいほどです」
「ふん、当然だな!」
フレイヤは誇らしげに胸を張っている。
外の作業に夢中ですっかり小麦色に焼けた彼女であるが、それでも本来の美しさに加え、健康さや艶やかさが加味されて、それはそれで魅力的な女性となっていた。
「本当に今までの野菜や果物が相当な量になってきているわねえ」
冷蔵庫係として在庫のチェックを行うと、既に私たちが一生をかけても食べきれない程の莫大な食材たちが収納されている。これからも増える一方であるならば、この野菜たちはどこかに手放すことも考えないといけない。
「あ、ねえねえ。私たち3人でレストランを開くのはどうかしら?」
もちろん、シェフはアレンだ。
「え、僕の料理を売るのですか? それは緊張しますね……」
「それで、私は野菜の皮むき機や食器洗浄機になるわ! フレイヤがウエイトレスさんで接客係ね」
どんどん家電と化していく私。でも家電は便利だから良いのだ。
「いや、主。私の方がアレンの助手として手際よく働ける。主が接客をすれば良い」
「えー……」
食材には困らない、そして味も一級品のレストラン。流行らないわけがないが、そこで出迎えてくれるのが、怪しいフードを被った人物。
「……やっぱり良いわ」
その場面を想像したら、レストラン開店の案は即却下であった。当然、素顔を晒して接客をするつもりも毛頭ない。
(でも、この食材たちはなんとかしないといけないなあ……)
せっかくフレイヤが愛情を込めて育てた野菜たちだ。捨てるのは忍びないし、かと言って大量に売却するとその野菜や果物の価格を暴落させることになり、現地の農家に迷惑がかかる。
とりあえずは、アレンの村に結構な量の野菜を送り、少しでも在庫を減らすことにした。




