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美味しいご飯が待っていると思うと仕事も大変捗った。いや、フレイヤの今までの食事も美味しかったのだけどね。アレンの料理の腕前が天才級と言っても過言ではないだけであって。
「今日も美味しかったわ!」
「ありがとうございます!今日はフレイヤさんがとってきた猪肉を使いました」
「あら、フレイヤもありがとう!」
「大したことではない」
あれから二人は平和にこの家の台所を守ってくれている。アレンが主に料理を作り、フレイヤが手伝いをするという役割分担となった。最初フレイヤはアレンの料理の手際を見て覚え、同じようなやり方で同じ料理を作ってみたが、どうもアレンのものには敵わなかったらしい。
「全く同じ要領で作ったはずなのだが、アレンの方が味に深みがあるのだ。アレンが魔力を込めているようにもみえないから、きっと料理にも才能というものが関係しているのだろう。案外、奥深いものだな」
それ以降フレイヤは未練を見せることもなくすっぱりと台所の主導権をアレンに譲り渡した。
その代わり、フレイヤは手伝いに加え、ご飯のための食材を調達してくるようになった。森で獣を狩ることもあれば、アレンの要求で町へ出て調味料や食材を購入して帰って来ている。
「あのね、アレン。お願いがあるのだけど……」
アレンが用意してくれる食事に不満はない。だが、アレンなら前世の食事もより美味しい状態で私に提供してくれるのでは、と淡い期待を抱いて彼に思い切って前世の料理に作りをお願いした。
「どうでしょう、師匠……」
見た目、匂い共に最高に食欲を刺激してくる。
「いただいでもよいかしら?」
「はい、ドキドキします……。どうぞ召し上がってください!」
「「「いただきます」」」
3人で手を合わせて、私ははやる気持ちを抑えながらスプーンを手にとる。
「……!!!!」
「主!なんだこれは……美味すぎるにも程があるぞ!」
「本当に美味しいですね。師匠が言われた通りの味が再現できているかは分かりませんが」
「美味しいわ……! アレン。完璧よ! むしろそれ以上だわ!」
アレンに作ってもらったのは、前世の私の大好物だった親子丼だ。アレンは見事に私の期待に応えてくれて、日本の和食屋さんで出されたものと言われても納得してしまうような、全く味に違和感のない親子丼を作ってくれた。
それからアレンは私の適当な言葉を頼りに、醤油やみりんに近いものまでを作ってくれた。元々酒や砂糖はこの世界にもあったので、あとは味噌さえあれば前世のほとんどの料理が再現できる。
「出汁が効いているわ。懐かしい……出汁は大事なのよ!」
懐かしい味に思わず涙がこぼれそうになった。
「だしとは、主が小魚や海藻を調達してこいと言ったことと関係しているのか?」
「師匠の言われた通り、煮て干した小魚と昆布を水に入れて数分煮込んだあとの汁を活用して料理を作ったら、味が格段に良くなりました」
「そうよ! それを出汁というのよ! フレイヤもありがとう! これからは私が食べたい物の作り方をアレンにも教えるから、どんどん色々な料理を出してきてちょうだい!」
「はい! 僕も師匠秘伝のレシピが知られるのは嬉しいです!」
親子丼を始めとして、カツ丼、うどん、炊き込みご飯、ハンバーグ、オムライス――とにかくありとあらゆる前世の和食や洋食をどんどんアレンに作ってもらった。そしてどれも舌がとろけるかと思うほど美味しかった。
アレンがこの家に来てくれて良かった。名実ともにアレンはこの家になくてはならない存在となっていた。
「主、相談がある」
「どうしたの? フレイヤ」
最近は仕事を頑張ったので、今日は1日ゆっくりしようかと言っていた日。朝食をとり終わったら神妙な顔をしてフレイヤが相談を持ちかけてきた。
「私は今この家の買い出しを担当しているが、買いだめをすると食材の痛みが早い。それに、同じ食材であっても生産者によって味に違いがあることが分かった」
「ふむふむ」
「それで、私は自分で野菜や果物を育てたいと思い始めた」
「僕も手伝うつもりです! 僕も村で色々と育てていたので、多少は農業の知識があります」
聞くと、二人とも良い野菜を育てている農家にコツを聞いたり、本が貴重なこの世界で植物の育て方の本を購入して読んだりしたらしい。
「そこで、主には私の畑の土台を作ってもらいたい」
「もちろんオッケーよ!」
フレイヤがこうして何かお願いごとをしてくるのは珍しい。
私たちは早速外へ出て、畑を作る概算を話し合った。
「できるだけ家の近くに作った方が良いわよね?」
「師匠、これだけ土地があるのですから無理に畑を近づける必要はありませんよ。虫が沸くこともあるので、多少距離をとっておきましょう!」
「う……虫は嫌だわ。分かった。では、この辺から作るのでよいかしら?」
家からおよそ20メートル離れたところの少し平地になっているところを提案すると、二人共快諾してくれた。
「じゃあいくわよー!」
周囲に小動物がいないことを確認して、私は一瞬で森を切り開き、畑ができるであろう平地を作り出した。
「さすが主だ。ありがたい。ここから先は自分で土を育てたり土地を耕したりする。主は当初の予定通りもう休んでくれ」
「……うん、師匠は本当に規格外ですよね。フレイヤさんもそうかもしれませんが、師匠も十分厄災級ですよ」
アレンが何だか遠い目をしている。
「師匠もフレイヤさんもここで力を眠らせたままにしているのが、なんだかこの世界の宝を封じ込めているようで、勝手に罪悪感を覚えてしまうのですけれど……」
確かにもったいないのは否めない。アレンは知らないが、力だけでなく、私は可憐な容姿の持ち主でもあるのだ。フレイヤとともにそこも眠らせているのはもったいないが、アレンの呟きは聞こえないふりをした。
フレイヤは元々アレンの発言を全く気にしていないようで、早速黙々と畑仕事に取り組んでいる。
新鮮な野菜は、より美味しいはずだ。アレンの料理の美味しさがさらにグレードアップするに違いない。私はフレイヤの健闘をこれでもかというほど祈って、その日は家でゆっくりと体を休めた。
その3日後。いつものように目覚めてすぐに朝食を3人で食べる。ちなみに朝食は毎回パン、サラダ、スープであるが、アレン料理長の気分によってその内容が変わるので今日のパンは何パンか、どんなスープなのか、毎日の楽しみである。
「え、今日のサラダ、いつもよりすっっっごく美味しいのだけど」
「主、本当か!? わざと黙っていたのだが、主は今までの野菜より私の育てた野菜の方が美味しいと感じるのだな!?」
「はい!? 育てたって……まだあれから3日しか経ってないじゃない!?」
「ああ。3日で育てた」
「……」
私があまりの常識はずれに絶句していると、アレンがフレイヤをフォローしだす。
「師匠! フレイヤさんの言っていることは本当ですよ! フレイヤさんが魔法をかけながら育てたら、あっという間ににょきにょき芽が出てきて、茎や葉がぐんぐん伸びて、実もぷくぷく大きくなっていました!」
「確認だけど、この野菜、普通は育つのにどのくらいかかるの?」
「普通はだいたい種まきから2ヶ月後ぐらいですね」
“普通は”の部分を強調してアレンが教えてくれた。一般的な植物の成長は私が想定したように前世とあまり違いがないのだろう。
「それって、簡単な魔法だったりする……?」
「えっと、簡単だったらもっと野菜の値段も安価になってとても助かりますよね。でもそんな魔法があるなんて聞いたことも見たこともありませんでした」
つまり、フレイヤはとても稀少な魔法が使える希少な魔法使いなのだ。
「そういえば、フレイヤって厄災級の力の持ち主なのを忘れていたわ。かなりの異才をここぞとばかりに発揮しているのね」
「師匠~。こんなにすごいフレイヤさんの力を忘れる人なんて師匠ぐらいですよ~」
アレンにあはは~と脳天気に笑われてしまった。
「なんだか僕、ここにいると一般的な感覚が鈍ってしまいそうです。でも師匠! これで想像の斜め上を行かれたときの人の気持ちが少しは分かったのではないでしょうか。普通の人が師匠の魔法を見せつけられたときはそれ以上の衝撃なのですよ……」
「ええ。それは少し学べたわ」
まさか、長い付き合いであるフレイヤからそんな衝撃を受けるとは思ってもみなかったが。




