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そんな日々もある日突然変貌を遂げる。
フレイヤが緊張した表情で私の部屋に入ってくるなり新たな客の到来を告げた。
「主……主にお客だ。どうする?」
「え?」
私はすぐに結界の無事を確認したが、森に張られた結界には何の異常もない。
再び、奇妙な来客が現れたようだ。
「客って、どんな人?」
アレンの例もあるし、以前ほど相手に警戒心は抱いていない。
「おそらくは、30代ぐらいか。男性だな。着ている服はそこまで粗末なものではない。大きな特徴として、アレンの父であるフォードよりも身体能力は格段に高いと見受けた。だが、戦闘に入っても私なら勝てるはずだ」
アレンには失礼だが、彼とは違い今度は強い人なのか。
「私への用件は?」
「それも、“森の魔女様に話す”と言っている」
「……」
正直に言ってしまえば、このままお引き取り願いたい。何か頼みごとをされても、今の私は何のやる気も出ない。むしろ、私の方が助けて欲しいぐらいの状況なのだから。
「フレイヤ、悪いけど……」
『ししょーー! お会いしてみましょうよ! なんか事情があるみたいですよーー!!』
「主、私もアレンの件もあるし、ここに来られる人間に会ってみて損はないと思う。見た感じ、敵意も感じなかった……話だけでもどうだろう?」
『そうですよーー! 話だけでも聞いてみましょうーー!! ししょうーー!! 出てきてーーーー!! お願いですーーーー!!』
断りの返事を出そうとしたら、アレンが扉の外から大声で遮ってきて、フレイヤもアレンに乗っかるように来客に会うように勧めてくる。
二人とも来客の依頼云々をだしにしてとにかく私に立ち上がって部屋から出てもらいたいようだ。フレイヤは身の回りの世話をしてくれているので一応毎日顔を合わせているが、アレンには私の部屋の立ち入りを禁止しているため、あれから全く会っていない。だから特に彼は私の健康状態を心配しているのだろう。
「……じゃあ、少しだけ」
アレンに私が生きていることを確認させるために、という理由をつけて私は来客に会うだけ会うことにした。
アレン以外にも私の結界を越えてここまで来る人間に対して好奇心がないわけではない。健全な状態であったら戸惑いもなく確実に会っていただろう。警戒心もわずかにあるが、敵意を向けられたとしても私は負ける気がしない。それに、今ならその客に殺されたとしても私は素直に受け入れることができそうだ。
久々にローブを纏うと、少し重く感じた。それだけ私の体力が落ちていたようだ。心配したフレイヤに手をひかれて、客が待つ居間へと足を運ぶ。
「し、師匠!!」
久々に会った私を見て「良かった…! 生きていた…!!」と感動しながら大きな瞳をうるうるさせている。そんな変わらないアレンを見ると、少し吹き出して力が抜けてしまった。
そんなアレンとは対照的に彼の側で緊張した面持ちで立っているのが――見た目、壮年の騎士。
「噂を訪ねて藁にも縋る思いでここに来た。森の魔女よ。私はラシアスと申す。私の願いを聞いてほしい」
あまりに切羽詰まった様子で迫られ、思わず引いてしまう。まあせっかくここまで来たのなら話を聞いてみよう。本当に聞くだけで受けるつもりは現段階では全くないが。
「まずは話を聞くだけ聞いてみよう。私に何を望む? ラシアス」
こちらが上位であると相手にも思わせるために敢えて威圧的な態度で話す。顔が全く見えない、声は幼さがあるがそれがまた逆に妖しさを醸し出している魔女を前にして少し相手もひるんだ様子を見せたが、少しずつここへ来た経緯を話しだした。やはり、ラシアスもアレンのときと同様の噂を耳にしてここを目指したらしい。
「結論から言う。私の主のために、ビリアエ伯爵に囚われているリカルドという青年を助け出して欲しい」
「その青年を助けることがなぜあなたの主のためになるというの?」
「リカルドは、我々にとってなくしてはならない重要な人物なのだ。だから、私の主はビリアエ伯爵よりも上の立場の人間――公爵家や王族の褥に入り込んで権力者に取り入ってでも彼を取り戻そうとしている。事実、現状私の主にはそういったことしか武器はない……。だが、私は主が身を穢そうとしているこの状態に耐えられずに……なんとかリカルドを救い出す力を得ることができないかここへ参った」
「……」
「主はもうこれしか方法はないと割り切っているようだが、一度身を堕としてしまえば、あとはもう周りからそういう色眼鏡で見られて更に堕ちていく未来が待っているに違いない。主を虎視眈々と狙っていた色欲魔は他にも多数いたのだから……」
ラシアスの主はよっぽどの佳人であるようだ。
「魔女殿、何卒、何卒主を助けていただけないだろうか。私に支払える報酬などたかがしれている。しかし、私が差し出せるものは全て魔女殿に明け渡すと誓う」
そうしてラシアスは土下座せんばかりに頭を床に擦りつけて懇願してくる。
「師匠! これはもう、依頼を受けるしかありませんよね!?」
「ああ。主、準備ならいつでも良いからな」
二人は何とか私に依頼を受けさせようとしている。このままラシアスを帰したら私が今までと同様に、ベッドへの引きこもり生活に戻るだけであることを察しているようだ。
「えー……」
「師匠が行かないのでしたら、弟子である僕が師匠の代わりに行きますよ!? そうしたら、“森の魔女”の評判はガタ落ちです! それでも良いのですか!?」
「そうだぞ、主。主の名誉のためにも、アレンを代理人として派遣するわけにはいかないだろう!?」
なんという可愛い脅し文句であるのだろうか。不意に顔がほころんでしまった。
……女性が大事な人を助け出すために、好きでもない男に我が身を差し出そうとしている。知ってしまったからには、この状況をそのまま放置するには確かに目覚めが悪い。
そして、ラシアスの真摯な態度から彼にとって主がとても大切な存在であることも伝わってきた。例え、その主が別の男性に想いを寄せているのだとしても、愛する人を助けたいようだ。
「分かった……。とりあえず、ラシアスの主の元へは行く」
「本当か!! 魔女殿!!!!」
「師匠!」
「主!!」
途端にアレンとフレイヤは胸をなでおろしたようだ。心底安心したという笑顔を見せてくる。その様子を見ると私が久々に何かをやる気になったことがそんなに嬉しいのかとこっちも少し照れる。
「心配かけたわね。少しだけ頑張ってみるわ。……でも、ラシアスの主に会ってみて話を聞いてから依頼を受けるかは決める」
「師匠、お手伝いします!」
「もちろん、私も着いて行くからな」
「とても頼もしいわ」
「魔女殿。感謝する、魔女殿のお付の方々も、本当に有難い……!」
まだ正式な依頼を受けてはいないのだが、ラシアスは私の手を握りながら、何度も感謝の念を述べた。
こんな誠実そうな人の主が嫌な人でなければ良いと思いながら外出の準備に取り組んだ。
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