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ミニアーナの家から出て、私とフレイヤはすぐにまたアレンの家へと戻った。勝手知ったる他人の家で、もうノックもなしにアリアがいる部屋の前まで進んでいく。
「アレン、アリアさん。入るわよ?」
そこには、フォードはおらず、アレンとアリアが二人でいた。
「アレン。犯人は分かったわ。でも、相手に呪いは返さないと決めたの」
「え!? 魔女様!? じゃあ母さんは……」
アレンの瞳が不安で揺れる。
「もちろん、助けるわ」
私はアレンに今から行おうとしていることを伝えた。
「そんな。魔女様がこの呪いを受け入れるなんて……」
「だからアレン。あなたに仕事を与えるわ。私に呪いを移したら、すぐにアリアさんを連れて家から出て行ってちょうだい。おそらくは大丈夫だと思うけれど、私たちの合図があるまではあなたもこの家には近づかないで」
「い、今から行うのですか!?」
「ええ。もうアリアさんをこれ以上苦しめるのは可哀想だもの」
「分かりました。でも、少しだけ待ってください! 僕だけではスムーズに母さんを抱えられないので父をすぐに連れてきます!」
宣言通り、アレンはディエランの家で仕事の手伝いをしていたフォードを呼び返してくる。
「フレイヤ、よろしくね」
「ああ、分かっている」
フレイヤは不機嫌そうにしている。私の提案は受け入れているが、納得はしていないのだろう。
私は、アリアさんの側に近づき、彼女の心臓の近くに手を翳した。ここから体中に血液が循環しているのだが……そこに植物のように深く呪いが根付き、彼女の全身の生命力を吸い取っているのが窺えた。
私がそれを捉えると、まるで蔦のように私の腕から体内に呪いが侵食していく。
「ううううっ!!!!」
酸がかけられて腕が溶けたかのような痛みに襲われたが、それがどんどん心臓を目指して私の体内に侵入していく。それに加え、身体全体が汚泥に沈みきったような不快感に包まれ、吐き気に襲われる。
(痛い痛い痛い痛い、苦しいっ……!!!!)
私の意識は、そこで一回ブラックアウトをした。
「主!主!」
「フレイヤ……」
目覚めてすぐにあったフレイヤの顔は、ひどく疲労していた。
「私はどのくらい意識を失っていた?」
「4時間だ」
見ると、体外を覆う呪いはほとんどなかった。フレイヤが祓ってくれたようだ。おかげで、不快感はそこまでない。
「これ以上は主の体内を傷つける恐れもあるから、あとは主自身が自分の身体を少しずつ解放していった方が良い」
「分かったわ、フレイヤ」
依然、胸の奥に剣山があるような痛みがあったが、そこを魔力で包み込むと鋭い痛みはなくなり、鉛玉を飲み込んでしまったような重々しい感覚となった。
それを少しずつ少しずつ削り取っていくように私の魔力を当てていった。たまに強い反発が内部からあって、衝撃を受けることがあったが、絶えずフレイヤがその衝撃から私を守るようにその結界を張ってくれたおかげで、体力を奪われることなく作業を進めていくことができた。
2日後――
「終わったわね……」
「ああ。主、まさか本当にあの呪いを打ち消すとは……。主は本当に想像以上の魔女なのだな」
「フレイヤも想像以上の使い魔よ?」
不眠不休状態だったため、二人ともほとんど体力も残っておらず、ボロボロの状態だ。だが、アレンに成果を伝えなければいけない。ほぼ気力だけで二人で立ち上がり、互いに支え合いながら外に出た。
「魔女様!」
「アレン……!それに、ライカ」
私たちが扉を開けると、そこにはずっと私たちを待っていたようでライカとアレンがすぐに私たちの元へ駆けつけて、私とフレイヤを支えてくれる。
「魔女様、母さんから全部聞きました。魔女様、母さんがごめんなさい」
「ライカ……」
ミニアーナは自身の醜い感情も含めて行ったことの全てを村人全員に明かして謝罪をしたらしい。
「魔女様、母さんも魔女様が無事に出てくるのをずっと待っていました。でも、あまりにも長時間ここにいたので、今母さんを寝させるために私が代わりに魔女様を待っていたのです。魔女様、何卒母さんを許してください」
ハタハタと涙を零しながら、ライカが許しを乞う。
「許す、許さないは私が決めることではないわ。……アリアさんたちが決めることよ」
私はアレンの判断を求めるように彼を見つめた。
「僕の母さんも、ミニアーナさんの話を聞いてとてもショックを受けていました。……でも、魔女様が助かったなら、全て水に流すと言っていました」
「そう。なら、私がライカやミニアーナさんを責める理由はもうないわ」
私は気力を振り絞ってライカの頭を優しく撫でると、彼女はより一層大泣きをしてしまった。
「甘いな、主」
「ありがとう、私が助かったのはフレイヤのおかげよ」
私を責める言葉を言いながらも、彼女は私をどこまでも慈しんでくれた。
私たちが出てきたことを察知した村人たちが、どんどん集まってくる。
「魔女様!? ほ、本当に呪いを払ったのですか!? どうやって!?」
「あ、村長」
他にも呪いの払い方が気になっている人がいたので、私とフレイヤが行ったことの詳細を話した。
「長い年月生きてきましたが……魔力をぶつけて呪いを払うとは。そんなことができるなんて聞いたことがありません。魔女様、本当にあなたは奇跡の力の持ち主なのですね……」
「え? ええ。まあ」
なにせ、神様のお墨付きですから。
「あら? 呪いを祓うこと自体がすごいことなら、フレイヤももしかしてかなりの実力者なのかしら?」
「もちろんですよ! 魔女様! 妖狐自体、大変貴重な存在ですし、人に仕える知能のある使い魔はそれだけで喉から手が出るほど欲しがる人間が星の数ほどおります!」
「……フレイヤ。今あなたの尾は4尾の発展途上なのよね。7尾までいったら、どうなってしまうのかしら?」
私の呟きを拾った周りの冒険者の経験がある人間は大げさと思えるほど飛び上がった。
「ま、魔女様!? 使い魔様の尾は4尾!?」
「え? そうだけど……」
「2尾の妖狐でさえ災害級と言われているのに……4尾!? もはや厄災級ではないか!?」
「私が人と対立したらそうレッテルを貼られるだろうな。だが、私は主に従順な使い魔だ。主が平和を望む限り、私は主に付き従うまで」
腰を抜かしそうな彼らに対してフレイヤはふふんと得意げな表情を見せる。
森で私が出会った知能をもつ者はフレイヤだけだったので他と比べることが今までなかったが、どうやら彼女の存在も十分にチート級だったらしい。チート級の存在に雑用係を押し付けていたわ……。チートを全く活かせない主に仕えることになって、なんかごめん、フレイヤ。
「魔女様が作られた回復薬が想像を超える効果があるわけです。この回復薬の稀少性の認識を深めました。この回復薬は、その価格からもう配布されることはないと国からも通達が出ております。我が村は、この回復薬をできるだけ後世に残せるよう、我々で消費せんように健康であることを心がけないといけませんなあ……」
「そうですか? 作ろうと思えばいつでも作れるものですが」
「いや、魔女様。現に配布された回復薬を狙って村を襲う強盗も現れております。用心を重ねて当然です」
他にもフォードは、回復薬を作れる森の魔女をなんとか懐柔しようと役人を派遣している国――酷いところは私を捕らえて回復薬を独占しようと兵を送った国もあることを教えてくれた。まあ、そこは私の結界を越えられずに右往左往しただろうが。
「だからこそ、アレンが何で私のところに来られたのか、不思議なのよねえ……」
思わず口から漏れた疑問に対して、アレンは何を不思議がる必要があるのだ? と言わんばかりの表情をする。
「え? 魔女様、それはやっぱり、僕は魔女様に出会える運命だったからですよ」
おお、何だかかっこいいセリフがアレンの口から出てきた。
そう言って無邪気に微笑まれると、こちらも悪い気がしないし(まあ、そうだったのかな)と思ってアレンの不法侵入? に関してはあまり追求しないでおくことにした。
後にアレンは本当に運命の人であったことが発覚するが、私の運命の人ではなかったのよねえ。




