13
ミニアーナは自身の罪を認めると、泣き崩れて謝罪を繰り返す。
「ただ、ひとつ言い訳をさせてください……! 私は、アリアの呪いがまさか死をもたらすものとは思っていなかったのです。これだけは本当です!」
「そもそも、どうしてアリアさんを呪おうとしたの?」
ミニアーナは両手で顔を塞ぎ、泣きながら私の質問に答える。
「私とアリアは幼馴染で、もうひとり幼馴染がいたのです。それが、アレンの父であるジルでした。私は幼い頃からずっとジルに恋焦がれていたのですが、ジルは天真爛漫なアリアにずっと夢中で、私が入り込む余地はありませんでした」
「……」
ミニアーナはアリアとジルの仲を応援したい気持ちと、アリアさえいなければという醜い気持ちに長年苛まれていた。
しかし、ミニアーナは流れの冒険者であるアスティに見初められたことで、トントン拍子に結婚が決まった。
「私にはアスティという夫ができて、それからライカやガディスも生まれて。私は本当に幸せでした」
彼女自身が伴侶を得ることで、ミニアーナの苦悩など何事もなかったかのようにアリアとジルの結婚を祝うことができた。そして、2家族は生まれてきた子ども達を交えながら家族ぐるみの付き合いを続けていった。しかし、そんな中、不幸にもアリアの夫であるジルが事故によって急死してしまう。
「私は、あれだけ焦がれていたジルが妻子を遺して亡くなったとき、1番に思ったことが『ジルに選ばれたのが私でなくてよかった』ということでした。アリアやアレンたちの焦燥ぶりと見ると、私は選ばれなかったことがむしろ良い結果になったのだと、私の中の醜い私が囁きました。そして、ジルに選ばれたアリアが私よりも不幸になっている姿を見て溜飲を下すことで、知らず知らずのうちに心の安定をはかっていたようです……」
「……」
身勝手な言い分だが、気持ちは分からないわけでもない。
「でもまた……またアリアがフォードと再婚することを知って。私も幸せなはずなのに、幸せになるアリアを間近で見たくないと思ったのです」
それで呪いに手を出してしまったのか。
「呪いはどこで知ったの?」
「私の曾祖母が、かつて妖狐を使い魔にしていたことがありました。それで曾祖母に聞いた呪いをアリアにかけました」
どのように呪いをかけたのかを彼女の口から詳しく聞いた。
「どう? フレイヤ」
「ふむ……ミニアーナの言っていることが正しければ、確かにその呪い方では命を落とすほどの重体にはならない。おそらく、ミニアーナとアリアの生命力の相性が良かったのだろう。それで症状が重くなったのだと思う」
……それは相性が良いと言えるのだろうか。
「申し訳ありませんでした。呪詛返しのことも、曾祖母からもちろん聞いています。魔女様、私にアリアの呪いをお返しください」
まだ泣きながら、でも全てを受け入れているように見えるミニアーナ。
彼女に呪いを移したら、アリアさんは回復し、アレンの願いは叶う。けれど、ライカやガディスはどうだろうか? 滅多に父は帰ってこないうえ、母をこんな形で喪うことになると、あのライカの曇りない笑みはどうなってしまうのだろうか。
それに、私が呪いをミニアーナに移すことは、私が彼女を間接的に殺すことになるのではないか。
様々な疑問が浮かび上がり――私は決心した。
「ねえ、ミニアーナ。あなたが死んだら、子どもたちはどうなるの?」
「うぅ……それは、本当に子どもたちには可哀想なことをしました。本当にあの時はどうにかなっていたとしか思えないのです。後悔してもしきれません」
「アリアさんのことはどう思っている?」
「過去のことはもう何とも思っていないと思い込んでいました。しかし、再婚を聞いてから、私はアリアに対する嫉妬心がまだ微かに残っていたことに驚きました……。もしかしたら、また再燃するかもしれません」
ここで彼女は嘘をついて『もうアリアに対する嫉妬心などありません』と言った方が私の心象は良くなるだろうに。正直な気持ちで、全てを受け入れる覚悟があるようだ。
「ねえ、ミニアーナ。誓って。もうアリアさんを害さないと。妬みや嫉みの感情は自分で抑えることはできないかもしれない。でも、それならあなたはその感情を少しでも抑えるために彼女と距離を置くべきだわ。これはあなたのためではなく、あなたを想う子どもたちのために言っているわ」
「主!?」
私のしようとしていることを理解したようで、フレイヤは落ち着きを失う。
「私、ライカたちのことを思うと、ミニアーナに呪いを返せない」
それに、人の命を奪うという重責なんて負えない。
「私に呪いを移すわ。そして、少しずつ……それを魔力で相殺していこうと思う。アリアさんの呪いも多少魔力で消し去ることができたから、決して不可能ではないと思うの」
もし、もっとミニアーナが嫌な女性で、反省もせずに開き直っていたら。こんな母親は必要ないだろうと判断して彼女に呪いを返すこともできたかもしれない。
でも、反省して涙を流す女性に更に鞭を打つような真似はできなかった。
「主!それは危険すぎる……!!」
「もちろん、フレイヤも協力してくれるわよね?私へかけられた呪いを出来る範囲でフレイヤも相殺してちょうだい」
「~~~~!!分かった……絶対に、絶対に主は死なせない」
フレイヤは苦渋の表情を浮かべたが、私の選択を受けて入れてくれた。
「ありがとう、フレイヤ」
フレイヤからすれば、愚かな選択をした主に苦言を呈したいところだろうが、彼女もそれをグッと飲み込んでくれたようだ。
「きっと大丈夫だから」
「当たり前だ!!!!」
だって私は神様からチートをもらっているから。




