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「“森の魔女”様ですか!? ようこそいらっしゃいました!! どうぞ! こちらへお座りください!!」

 突然訪ねてきた私たちをディエランは歓迎してくれた。穿った目で見ているせいか、彼の満面の笑みがなんだか作り笑顔に見えて仕方がない。


「うちは、ここの村の代表をしている商店でね! 村中の物を集めて村人にも、外部から来た旅人にも売っているのですよ!」

 私たちが応接間のソファーに座ると同時に、彼のマシンガントークが始まった。

「魔女様、今はこのフレアの実が旬でしてね。メアリーの家のフレアの実は甘くて美味しいと評判なのです。ぜひ、どうぞおひとつ!」

「あ、はい。どうも……」

「他にも、焼き菓子がありますよ!どうぞどうぞ!あ、使い魔様もどうぞ!」

「あ、ああ……どうも、いただこう」

「魔女様、冒険者が売ってくれた宝石などもあまり数はありませんが置いています。魔女様のお眼鏡に適うものがありましたら、どうぞ遠慮せずに言ってください!」

「宝石!? ええっ、いやいや、いりませんよ!」

 それにしては歓迎が熱烈過ぎないか? と引いてしまうほどの過重な接待をされそうになって、思わず固辞してしまう。普段冷静なフレイヤまで彼に対して口を挟めないでいる。


「本当に遠慮なさらずに! この村で魔女様は何か不自由していませんか? 食べ物や泊まっているところに何か不都合がありましたら、何卒うちに言付けください。ある程度のことには対処できますので! あぁ、もちろん魔女様からお代をいただくような真似はしません!」

 それでもディエランは怒涛の勢いで私たちに何かと様々な物を勧めてくるので、私は彼に対する疑惑を深めるばかりだった。

 これは、私がアリアさんを呪った相手を捜査しに来ていると確信している上で、それをなんとか誤魔化そうとしているのではないだろうか。高価な宝石を初対面の人間に譲るなんてありえない。これはきっと賄賂のつもりなのだ。

「魔女様、この酒もとても貴重なものでしてな! ファリオという国の伝統ある酒造に私が買い付けに行ったものです!」

「あの……」

「まあ昼間から飲むのは少し憚るでしょうから、宿で一息ついたときにでも味わってください!」

 駄目だ、全く口が挟めない。どう彼に罪を突きつけてやろうかと思案していると、突然奥の扉が勢い良く開かれ、赤子を抱き抱えた女性が駆け足で入室してくる。


「あなた! 魔女様が困っているでしょう!」

「おぉ! ルダ! お前も魔女様に挨拶しなさい」

「魔女様を見てみなさい! 金にがめつい商売人が無料で何もかも譲るなんて、普通の人なら何か裏があると思って警戒するものなのよ! 魔女様がほいほいタダだからって何でも受け取る馬鹿者なわけがないじゃないの!」


「あ、あの! ディエランさんの奥様でしょうか? 初めまして、森の魔女です!」

 彼女なら私たちの話を聞いてくれそうだ。ここは急に現れた救世主に頼ることにしよう。


 しばらく奥方の強い叱責を受けると、ディエランはすっかりしょげてしまった。ちなみに、彼女の腕の中にいた赤子はそんな喧騒の中でもぐっすり眠っていた。このような場面は日常茶飯事なのだろうか。

「あー……ルダの言うとおりだな。申し訳ない、魔女様。だが、本当に魔女様に喜んでもらおうと思っていて、そこに下心は全くなかったのですが……困らせてすみません」

「この過剰な接待は一体何だったのでしょうか?」

 私が尋ねると、ディエランは話すことの許可を取るようにルダを見て、彼女がそっと頷くのを確認すると、ポツポツと過去のことを話し出した。


「私とルダは互いに商家の生まれでして。この村では珍しい、家同士の結びつきを強くするための結婚でした。恥ずかしい話ですが、起きている間中、ずっと一緒に店をやっていると、必然的に互いの価値観がぶつかりあって、喧嘩しない日はないぐらいの険悪の仲だったのですよ」

 そうだったよなあ、と懐かしむようにディエランとルダは微笑みながら頷いた。

「結婚7年目のある日、ルダが倒れましてね。様子があまりにも悪そうだったので、3つ先の村にいる医者に診てもらったところ『ルダは肺を悪くする病気に罹っている、余命も半年ないだろう』なんて言われまして……」

「え!?」

 思わずルダに目を向ける。彼女の威勢の良さはとても余命わずかな病人のものとは思えなかった。

「あれだけ喧嘩してばっかりだったのに、いざルダを喪うかもしれないと思うと、彼女のことを深く愛していたのだという自覚が急に芽生えましてね。このままルダが亡くなってしまうと、私も後を追うしかないと思いつめていました」

 喪いそうになってから初めて彼女の存在の大きさに気付いたわけね。


「その2週間後でしたね。魔女様の回復薬が国によって届けられたのが。もちろん、ルダは真っ先に飲ませていただきました」

 ここでまさかの私の回復薬が登場して、思わず驚いてしまう。

「今の私たち家族がいるのはひとえに魔女様のおかげです。死ぬまでに魔女様に一目会えたら、多大な感謝の気持ちを述べたいと常々思っていたのですよ。アレンのおかげで、まさかこんなに早く夢が叶うとは思ってもいなかったのでねえ……我を忘れすぎました。いやあ、申し訳ない」

 照れながらも、真っ直ぐに私に頭を下げたディエランを、ルダは愛おしくて堪らないと言わんばかりの表情で見つめている。

 ディエランが私たちを過剰に接待しようとした理由も納得した。


「魔女様、うちの夫は本当に不器用で……気のきかない商売人なんて、失格でしょう?だからお店のことで喧嘩ばかりしていたのですわ」

「ああ、私はたまに客とも喧嘩してしまうほどですから。ルダがいないともうこの店は回していけないのですよ」

 何だか二人はどんどん甘い雰囲気を醸し出してくる。

「それだけではありません。魔女様が妻を助けてくれたおかげで、私は愛娘のミリアに出会うこともできました。これまでルダに懐妊の兆しが全くなかったので、どこから養子をとるかと具体的に話を進めていたのです。しかし、病が治った3ヶ月後にミリアを孕んでいるということが判明しまして。我々はこれもルダが魔女様の回復薬を飲んだからではないかと思っております!」

 回復薬にそういった効果があるかは分からないが、とにかくあれは身体の異常部位を正常にするものだ。もしルダの婦人系の臓器に何か不具合があって今まで妊娠していなかったのであれば、そこもついでに治ったという可能性も十分ありえる。


「ところで魔女様、うちに来られたのは何か事情があってのことでしょう?アリアを助けるために、私たちも協力は惜しみませんわ」

「い、いえ! ちょっと煮詰まっていたので、気晴らしに村をブラブラしようとしたら、アレンにこの店を勧められたので来ました! ほんの気分転換です!」

 ディエランがアリアを呪った容疑者なので偵察をしに来ましたなんてとてもとても言える流れではない。


「そうでしたか。魔女様、先程も言ったとおり、我々からの恩返しと思って何でも言いつけてくださいね。ルダの命の恩人相手にお金をもらうことなどできません、ご遠慮もいりません」

「あー……では、このフレアの実を5個ほど頂けるかしら?」

 ここまで言われると何も受け取らない方が彼らに対して失礼だろう。

「でも、これ以上の物は本当に結構です。私は回復薬の正当な対価を卸している店からいただいていますから。ディエランさん達からも過剰なお礼をいただくと、報酬の二重取りのような感じで、あまり良い気持ちもしませんわ」

「魔女様……。あなたは、女神の化身か!?なんて、なんて無欲な方なんだ……!」

「いやいや!もう本当に良いので!」

 これ以上大袈裟に褒められると体が気恥ずかしさでむずむずとしてくる。


 退席しようとしたら、夫婦は家族3人で私たちを見送ってくれた。

「魔女様。私の実家はこの村から3つ離れた村で店を構えております。そこにある物でしたら直ちに取り寄せますし、実家からは王都も比較的近いので多少時間はかかるかもしれませんがなるべく融通を利かせます。必要な物がありましたら、早めにお申し付けくださいね」

「いえ!本当にこのフレアの実だけで十分ですから!」

「アリアのためでもあります。アリアは私が倒れ、夫が不在のときに私の看病をよくしてくれました。今はフォードがアリアにつきっきりなので彼のサポートをできる限りしておりますが……アリアには何としても助かってもらいたいのです。ねえ、ディエラン」

「ああ。アリアがいなかったら、ルダの病状ももっと悪化していて、魔女様の回復薬の到着が待てなかったかもしれない」

 彼ら夫婦は、伴侶を喪うことの悲しさを十分に承知しているはずだ。

 こんなに素晴らしい妻をもつディエランが、アリアに懸想しているようにも、ましてや彼女を呪うようにはとても思えなかった。


 彼も候補からは完全に抹消される。


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