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「魔女様、アリアの様子はどうですか?」
「またさっき私の魔力を与えたから、しばらくは眠りにつけると思うわ」
「ありがとうございます……!」
私たちに感謝の意を告げると、フォードはすぐにアリアを愛おしげに見つめ、彼女の髪を撫でた。すると、彼の腕にも例の靄がまとわりつく。表情には出さないが、彼にも相当な不快感が襲っているはずだ。
少しするとアリアさんの表情が和らぎ、深く安定した呼吸音がわずかに耳に届く。
彼女が眠りに就いたことを確認すると、フォードはこちらに向き合う形となり、頭を深く下げてきた。
「魔女様。アレンが大変お世話になりました。『森の魔女様のところに行く』と言って飛び出して行ったきり、行方が分からなくなっていたので村の者が総出で探していたのです。まさか本当に魔女様の元にお邪魔してしまうとは。いきなり息子が訪ねていって驚かせて申し訳ありませんでした」
「父さん、心配かけてごめんね……」
「アレン、本当にアリアとどれだけ心配したことか!だが、本当に……無事でよかった!」
「…………」
そうして、フォードはアレンをきつく抱きしめた。
傍から見ると義理の父息子のやりとりとは思えない二人のやり取りを私はじっと見つめる。
「フォードさんは、失礼ですけれどアリアさんの婚約者なのですよね?」
「ええ。来月村の教会でささやかな式を挙げる予定でした……」
そして、彼はアリアとの出会いを語りだした。冒険者をしていてこの村に流れついた際、大したことではないと放置していた足の怪我をアレンが見つけて、治療のためにこの家に引っ張り込んできたのが二人の出会いだったそうだ。
「アレンのおかげでアリアに出会えました。だから、アレンにも本当に感謝しているのですよ」
「えへへ」
フォードがアレンの頭を撫でると、アレンが照れ笑いを浮かべた。
私が初めに犯人ではないかと疑ったのはフォードであった。アレンの話では、アリアと他の二人との付き合いは年単位のものであるが、彼との付き合いだけはここ半年程のものであったからだ。
他の二人が犯人ならば、今彼女を呪う理由は特にないはずだ。だから、フォードがこの家をどうにかするためにアリアに近づき、彼女に呪いをかけたのでは……と思っていたが、献身的にアリアの看病をし、まるで本当の親子のようにアレンの身を案じていた彼の姿は演技のようには思えなかった。
3人の家族を見ていると皆が心から相手を信頼し、愛し合っているようにしか思えない。それがまた羨ましくあった。
「……主」
「あ、フレイヤ」
羨ましげに二人を見つめていたら、フレイヤが私の手をとり、浄化してくれた。
あれから毎日アリアさんに魔力を分け与えているために接触しているので、私の腕もかなり呪いによってダメージを受けている。
「主の腕……だいぶやられたな」
「本当ね、治癒魔法も全然効かないわ。もしかして、私の治癒魔法が下手なのかしら?」
「そんなことはない。呪いによってできた傷だ。治癒魔法は効きづらい」
結構楽観的に見ていたが、アリアさんと接する毎に呪いは厄介なものだと実感していった。呪いをかけられた相手を助けようとすると、呪いはその人物(私)を攻撃してくるのだ。しかも、それでできた傷に治癒魔法は効きづらい。
今では、火傷を負ったような状態になったため手袋がかかせない。ただでさえローブを被っていて露出面積が少ない私なのに、手袋をしたことで素肌は完全に隠されている。どこからどう見ても不審人物だ。
フレイヤが痛ましげに手袋をとった私の手を見つめる。
彼女は、私がここに来ることになったきっかけを作ったのは彼女であると思っているので、この傷も自分のせいでできたと思い込んでいるようだ。
「フレイヤ、ちょっと息抜きで散歩でもしない?あと、ディエランにも会ってみたいのよ」
「……分かった」
何か言いたそうなフレイヤを村の外へ連れ立って、もうひとりの容疑者に会いに行くことにした。
とてものどかな村だ。
この村に向かう途中、フレイヤと共にアレンに彼の背後から殺意を込めた魔法を向けたが、彼は指一つ動かさなかった。そのことから彼は本当に魔力がないことが証明されたが、向かった先の村に刺客がいるのではないかと少し疑いは抱いていた。だが、それも杞憂に終わった。村人もアレンを始めとする村の子どもたちを我が子のように可愛がっているし、アリアの治療に来た私たちを精一杯もてなそうとしてくれている。
第一容疑者であったフォードは一旦容疑から外れた。そうすると次に容疑者の中で動機がありそうなのは男性であるディエランだ。アリアは呪われるひと月前に再婚が決まった。だから、その再婚が動機に絡んでいる可能性が高い。アリアはアレンの母だけあって庇護欲をそそるような、アレンのような年の子の母とは思えないような可愛らしい女性であったようだ。彼女に密かに想いを寄せていた人物が彼女の再婚を恨んで彼女を呪ったのではないか。
「魔女様、どこに行きたいのですか?」
きらきらと瞳を輝かせながら、ひとりの子どもが私に話しかけてきた。それを数人の子どもが驚きや緊張、私に話しかけられるだけの勇気を羨ましがるような目で見つめていた。
「ありがとう、ディエランの家は知っている?」
「はい、もちろんです! 案内します」
私を恐れずに無邪気に笑みを見せてくれた少女。きっと年も近いのだろう。彼女に手を握られてディエランの家まで導いてもらった。
「主……私は嬉しい。この村に来てよかったともう思えるぞ」
「あの、フレイヤさん。私もこのくらいなら普通にできるから!」
普段友達がいない我が子が友達を家に招いたときの母親のような心境なのだろうか。手を繋いでいる私たちを、フレイヤが尊ぶような、慈愛を込めて見つめていたのでとても複雑な気持ちになった。




