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言いつけを破った勇者は……。

「じゃじゃーーん!!」


やっと完成した、パパンのプレゼントを披露する。


「これは……ディーね!でも、何に使うものなの?」


さすがお姉ちゃん!パウルと違い、一発で当ててくれた!


「筆立てにも、筆置きにもできるの!」


ちなみに、こちらの世界の筆とペンは、地球のものと似たような形状をしている。

私は筆が苦手なので、もっぱらペンを使っているが……ペンもちょっと面倒臭い。

地球で言うところのつけペンって呼ばれているタイプで、インクをつけすぎたり、文字がカッスカスになったりと慣れるまで大変だった。


「お父様も絶対に喜ぶわ!お仕事も(はかど)りそう」


お姉ちゃんの言葉に、私も強く頷く。パパンの仕事が捗れば、助かる部下も多いはず。


「でも、どうしてもう一つには色を塗っていないの?」


「こっちはおとう様に色をぬってもらって、私が使うの!」


私が色塗りが面倒臭くなったとかではない!

パパンが喜びそうだって閃いたからだ!


「……お父様に色塗り……できるのかしら?」


えっ……パパン、美術系ダメな人?


「旦那様は大丈夫だと思われます。以前、旦那様が描かれたという、先代様の肖像画を拝見したことがございます」


パパンが描いたお祖父ちゃんの肖像画!?私、見たことないんだけど!

でも、絵を描くのが上手なら、色塗りも期待できるかも。

パパンへのプレゼントとお手紙をパウルに託す。

作業疲れもあったのか、いつもより少し早めに就寝。

朝起きたら、分厚い手紙が届いていた。

プレゼントのお礼から始まり、ディーの筆立てを絶賛し、パパンにも色を塗ってもらうアイデアに感動し、素晴らしい娘がいる自分がどれだけ幸せなのかを十数枚にもわたって書いてある。

とにかく、パパンが興奮気味なのはわかった。

喜んでもらえて何よりだ!


「そうだわ、ネマ。今日は、お客様がいらっしゃるから、お部屋にいてくれる?」


「お客様?」


お姉ちゃんのお客様が来るなら、私は外に遊びにいってる方がいいのでは?魔物っ子たちもいるし……。


「ネマにも会いたいと仰っていてね」


そういうことならと、私は承諾した。

そのお客様が来るまで暇なので、パウルにあるお願いをする。


「宝探し、ですか?」


「そう!ダオとマーリエと一緒にやりたいと思って」


宝探しゲームをやるときに、宝物を隠す役目をパウルにして欲しいとお願いしてみた。

我が家のスーパーマルチな使用人たちの筆頭でもあるパウルなら、宝の地図とか、ヒントとなる暗号とか、ちょいちょいと作れそうだもの。


「……それでしたら、まず陛下から宮殿を使うお許しをいただき、東翼の侍女頭に周知と協力を願いましょう」


パウル曰く、どんなものであれ、隠すという行為は疑われてしまうから、先に宝探しゲームをやるよって伝えるべきだと。

また、せっかく隠した宝を不審物として処理される可能性も高いので、東翼で働くみんなに周知させる必要があるらしい。

言われたら、確かに!って思うけど、考えているときはそういった配慮が必要だって思いつきもしなかったわ。


「ご安心ください。ダオルーグ殿下とマーリエ嬢も楽しみにしていると伝えれば、陛下方はすぐにお許しくださいますよ」


だといいなぁ。

秘密の場所とか、関係者以外立入禁止がいっぱいあるからダメって言われたら諦めるしかないし……。


「ネマお嬢様。もう少し詳しく、宝探しについてご説明していただいてもよろしいですか?」


陛下にどんな遊びをするのか説明するために必要みたい。

なので、希望要望もおり混ぜて語ってみた!

まず、一番大事なのは、すぐには見つけられないこと。ヒントがないとたどり着けないようなものがいい。

第二に、謎解き要素があるともっといい!みんなで知恵を出し合いながら、謎を解いて宝物を見つけるのは絶対楽しい。

第三に、宝物の中身はみんなで分けられるものであること。協力し合って見つけたんだから、ちゃんと分け合わないとね。

それから、なるべく広い範囲で、あちこち探し回る方がいいとか、気分を持ち上げるために冒険者っぽい服を着たいとか。

服の絵を描いてみたけど、冒険者じゃなくて探検家の服だったわ。

でも、ダオとマーリエに似合いそう!絶対、可愛い!!


「ネマ様、パウルさん。お客様がいらっしゃいました」


スピカが知らせにきたので、宝探しゲームの話はここまで。


「……スピカ、ちょっと元気ない?疲れが出ちゃったのかな?」


スピカもミルマ国ではしゃいでたし、旅の疲れが今出ているのかも。


「だっ、大丈夫です!」


空元気っぽい感じは否めない。


「パウル、スピカを少し休ませてもいい?」


「えぇ、構いませんよ」


パウルはすぐに許可してくれたけど、なんか雰囲気がおかしい。

ピリピリしているというか……怒ってる?


「いえ、本当に大丈夫ですので!」


「スピカ、お客様がお帰りになられるまで、自室で待機していなさい」


パウルの当たりが強いと感じたのは私だけでなく、スピカの耳と尻尾が怯えていることを示していた。

二人のその様子に、私はピンときた。


「何か失敗してしまったのなら、私もいっしょにパウルに謝るから、今は休んで」


スピカにだけ聞こえるように言ったら、スピカは私に抱きついてきた。


「ネマさまぁ……」


よしよしと頭を撫でる。

スピカは素直なので、失敗したり、間違ったときはすぐに自己申告する。

パウルはその申告を受け、事実確認をしてからスピカへ指導を行う。

つまり、今は事実確認中で、いつパウルに怒られるんだろうって、ビクビクしている状態とみた。

自室に戻るスピカに白とグラーティアを預ける。

あの子たちと遊んでいたら、気鬱(きうつ)もどっかに行くはずだ!


私はパウルを連れて、お姉ちゃんと合流。

パウルが応接室の扉を開けると、そこには知らない男女がいた。

誰だろう?

お姉ちゃんに続いて入室し、男女がガシェ王国式の礼をしているのを見て、身分が低い方なのだとわかった。

お姉ちゃんがソファーに座り、その隣に私も座るよう言われる。

それから、お姉ちゃんが男女に着席を促し、シェルがお茶を持ってきた。


「ご拝顔を賜りまして、誠に嬉しく存じます」


ご丁寧に挨拶してくれた二人は、ライナス帝国に住むオスフェ家の使用人らしい。

男性の方は曾祖父ちゃんの代に、女性の方は高祖父の代に仕えていた使用人の子孫なんだとか。

オスフェ家に忠誠を誓っているからと、世代が変わっても当主の命に従い、異国の地で主に諜報活動を行なっているんだって。

パパンの命令であっちこっちに飛ばされる使用人たちがいるとは聞いていたし、長期に渡る活動をしている使用人もいるのは知っていたけど……何世代も続いていたとは!


「それで、本日はわたくしどもの婚姻のお許しをいただきたく……」


「パウルから事情は聞いているわ。正直に答えてちょうだい。我が家の都合を押しつけられているということはなくて?」


我が家の使用人はとにかく多い。

たぶん、パパンとマージェスくらいしか、正しい人数を把握していないんじゃないかな?

なので、使用人同士が結婚して、その子供も使用人になるというパターンがよくある。

その一番はパウルのお家のダスニー家。オスフェ家の初代がパウルのご先祖様を気に入って、爵位を与えたり、代主にしようとしたら、いつの間にか家令になってたそうだ。それから代々仕えてくれている。

あとは、オスフェ家の料理長ヨーダと侍女頭リィヤ夫婦。成人した息子が二人いて、どちらもパパンにこき使われているって言ってた。


「そのようなことはけっしてございません!主家には、特にネフェルティマお嬢様には感謝しております」


「……私!?」


え、何かしたっけ?

いや、お二人とも初めましてだし、何もしていないはず……。


「ふふっ。お二人の出会いをお聞きしたいわ。ね、ネマ」


わけのわからないまま、はいと返事をする。

そして、お二人の出会いを聞いていくうちに、なぜ私が関わってくるのか理解した。

稲穂のせいかー!!

稲穂、お外は危険がいっぱいだから出ちゃダメって言ったのに……。

男性が宮殿内で稲穂を見かけ、騒ぎになる前に私のもとへ帰そうと稲穂を捜索中に女性と出会ったらしい。

女性は、嫌なことがあって使われていない部屋で泣いていたら、そこに稲穂が逃げ込んできた。

突然のキュウビにどうしようか困っていたら、稲穂が泣いている女性を慰めたそうだ。

そこに、稲穂を探していた男性が現れ、あれよあれよととんとん拍子に話が進み、結婚することになったと。

私の知らないところで、稲穂が恋のキューピッド役をしていたとは!!


「お二人が幸せになれるのであれば、わたくしは異存なくてよ。お父様にも口添えしておきましょう」


お姉ちゃんは凄く満足気な顔で言った。

気持ちはわかる。幸せそうな二人を見て、こっちも幸せな気分になるよね。


「ありがとうございます」


二人はとても嬉しそうに微笑んでいる。

そうだ!

パウルに耳打ちして、あるお願いをする。


「畏まりました」


パウルは応接室を出ていったが、すぐに戻ってきた。その腕には稲穂がいて……。


「稲穂、おいで」


私が声をかけると、稲穂はパウルの腕から飛び降りて、ぴょんぴょんと飛び跳ねながら私の膝の上へ。


「このおねえさんのこと覚えてる?」


――きゅぅ?


稲穂は首を傾げたあと、鼻をヒクヒクさせて、少しの時間動かなくなった。


――きゅっ!きゅっ!きゅぅぅんきゅっ!


突然、激しく尻尾を振り、元気よく鳴き始める。

においで思い出したのかな?


「おねえさん、結婚するんだって。稲穂もお祝いしてあげようね」


――きゅぅん?


結婚は理解できなかったか……。


「うーんと、このおにいさんとおねえさんは(つがい)になるの」


すると、稲穂は私の膝の上からお姉さんの方へ飛び移り、さらにはお兄さんをしつこく嗅ぎ回った。

二人も稲穂の行動に困惑している。


――きゅっ!!


と短く一鳴きして、私のところへ戻ってきた。

稲穂は心なしか誇らしげな様子。

たぶん、お姉さんのお相手として、お兄さんは合格!とでも言いたいのだろう。

あとで森鬼に聞いてみるけど、合っているはず。


「稲穂もお二人はお似合いだって言っています。お幸せになってくださいね」


◆◆◆


お二人が帰ったあと、私はどうして稲穂にお外へ行ったのか問いただした。


「スピカが連れていってくれたそうだ」


通訳してくれた森鬼の言葉に、私は頭を抱える。

これか!

スピカがビクビクしていた原因はこれか!!

詳しく話を聞かなければならないので、パウルとスピカを呼び出す。


「スピカ、稲穂がお外に出たときに、先ほどのお客様に会ったそうなの。何があったのかお話できる?」


まずはスピカから状況を聞こうと、説明を求めた。


「……はい。あの日はパウルさんの指示で宮殿内の噂を集めるようにと。だけど、部屋には私しか残っていなくて、置いていくのもかわいそうだからイナホを連れていきました」


普段なら、森鬼がお昼寝していたり、海がぼーっと寛いでいたりするけど、その日はみんなお出かけしちゃったのか。

確かに、稲穂だけでお留守番は心配だね。


「中庭に人目につきにくい場所があると、ある獣人に教えてもらったので、そこならイナホも少しは遊べるかもと……」


そんな場所があったのか……。

だけど、そういう場所ほど監視されてたりするんだよなぁ。サボりチェック的な感じで。

そこではしゃぎすぎた稲穂が暴走したら、捕まえるのは難しいよね。


「うっかり人に襲われまして……驚いたイナホが逃げてしまったんです」


「……んんん??」


スピカ、今、なんて言った?

うっかり襲われた?……うっかりとは??

予想外の言葉に混乱していると、パウルがさらに詳しく話してくれた。


今、ライナス帝国のあちらこちらで、獣人が襲われる事件が多発しているらしい。

獣人の身体能力が高いこともあって、酷い怪我をしたとかはないそうだ。

だけど、それが宮殿内で起きるのは大問題では!?


「スピカを襲った者はすでに捕らえられております。水面下で捜査が行われているようですが、今のところ大きな動きはございません」


捜査状況を把握しているパウル。もはや、何も言うまい。

それより、スピカが襲われた理由は、本当に獣人だからなの?

私と親しいから狙われたのでないと言い切れるのか……。


「スピカをおそった者はパウルの方でも監視してる?」


「もちろんです」


それなら、少しは安心か。


「稲穂。怖かったのに、私との約束守ってえらいね!」


魔物っ子たちには、私に害がおよぶとき以外、人間への攻撃をしないと約束させている。

まだ幼体の稲穂にとって、自分よりも大きな生き物に襲われるのはとても怖かったはずだ。

それなのに攻撃せず、逃げることに徹した。


――きゅんっ!


いい子いい子と稲穂をいっぱい褒めると、お礼のつもりなのか、顔中を舐め回される。

なんとか稲穂を落ち着かせると、今度はパウルに押さえつけられて顔を拭かれた。

顔くらい自分で拭けるのに……。


「でも、なんで獣人がおそわれる事件が増えているのかな?」


パウルの手からハンカチを奪い取り、自分で顔を拭くことに成功した。

そして、パウルに小言を言われないように、そもそもの疑問を口にする。


「おそらくですが、難民が増えたことによる一時的なものと思われます」


パウルが言うには、イクゥ国や小国家群からやってきた難民は獣人が多いそうだ。

そんな彼らが職を得るのに時間がかかり、生きるために無茶をし、治安が悪化。

そんな状況をよく思わない帝国民の一部が、難民の獣人を敵視して、暴挙に出たと。

それが人伝に伝わっていき、各地で見られるようになったのではないか。

その話を聞いて、あることが思い浮かんだ。


「ねぇ、獣人をおそっている人、若い人が多かったりしない?」


「年齢までは把握しておりませんが、スピカを襲った者でしたら、二十そこらの青年です」


副音声で、成人したばかりの子供めっ!的な声が聞こえる気がする。

パウルは歳のわりに老獪(ろうかい)なので、同世代の人でも子供っぽく感じるのかもしれない。


「ひょっとしたら、若者の間で、度胸試しとしてはやっているのかも……」


日本でも昔、オヤジ狩りとか流行った時代があったし、こっちの世界でも要因が揃えばゲーム感覚で流行りそうだなぁって。


「戦闘職でない限り、殺される危険も高いですが?」


「人は時として危険を求めるものよ!」


パウルはそんな馬鹿な人間がいるのかと半信半疑な様子だったが、スリルを求める心理を語ったら納得してくれた。

地球ではお手軽にスリルを体感できるが、こちらの世界ではなかなかそうもいかない。

ジェットコースターもホラー映画もないからな!

だから、身体能力の高い獣人を襲って、反撃されないうちに逃げるというスリルに気づいた人が広めたのかも。

成功したら、お前凄いな!って仲間からもてはやされるのも気持ちいいだろうしね。


「ネマお嬢様が変な遊びを思いつく理由がわかりました」


「そんなに変な遊びはしてないよ?」


しいて言うなら、ウォータースライダーくらいじゃない?

あとは普通に鬼ごっことかちゃんばらごっことか、こっちの世界でもある遊びばかりだよ。


「聖獣様が側にいらっしゃっても、地面に足がつかない遊びは絶対に駄目ですよ。そんな遊びをしたら即、奥様とラルフ様に報告しますので」


ママンとお兄ちゃんにチクるとは卑怯な!!

くそぅ……ディーが来たら、背中に乗って空飛んでもらおうと思ってたのにぃぃぃ!









いつも誤字報告ありがとうございます。

大変助かっております!

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