おかえり、ただいま。
お兄ちゃんとプレゼント交換をやった。
ソルの竜玉に似た、陽玉とやらをお揃いで持ちたいってお兄ちゃんが言ってくれたんだ。
いろいろ悩んだ結果、帯飾りにした。
昔の根付みたいにすれば、ベルトからも垂らせるんじゃないかなぁって思ったんだよね。
ただ、それだと落ちる可能性も高い。
そこで、連想ゲームのように閃いた!
昔の根付、根付ストラップ、ひばり結びなら落ちない!!
しかも、ひばり結びは紐を長くすれば、どんなベルトにも対応できる。
ガシェ王国では、庶民の正装でも短剣を装着するため、形も様々な上に種類も豊富なんだよ。
紐の先につけるチャームは、ディーをモチーフにしたものにして、お揃い感を演出してみた。
私がイメージしたのは、よく神社とかにある十二支の根付ストラップの戌バージョン。
実際にできあがったのは、根付ストラップの二倍以上ありそうな大きさだったけど、ベルトにつけるならちょうどいい大きさかも!
作るときには、スノーウルフだった頃のディーの毛並みを思い出していた。もふもふを強く念じたせいか、体のフォルムが丸っこくなってしまったが、冬毛のディーだと言い張ったよ。
ディーの冬毛といえば、夏毛にかわる換毛期に、冬毛がごっそり取れるのが気持ちよかったなぁ。
両手いっぱいのもふもふの山!
定番の毛玉ボールを作りたかったんだけど、パウルに反対され、抜けた毛の山は即座に使用人たちによって回収されてた。
今思えば、あれは私が隠れて毛玉ボールを作らないようの対策だったんだな……。
お兄ちゃんが作ってくれた帯飾りは、私が作ったものに似ているけど、アレンジが加えられていた。
まずはチャームの部分。私の丸っこいディーに対して、お兄ちゃんのは凛々しいディーだった。
その凛々しいディーの周りには、クレシスチェリーの花と葉っぱのフレームが。
パッと見、警察犬のエンブレムにありそうって思ったよ。
それとうっかり落とし物防止として、ピンもついてた。ピンバッジのピンみたいなやつで、キャッチが外れたりしないよう二重ロック機能つき。
お兄ちゃんの念の入れようが凄い……。
まぁ、何を作るか相談していたときに、遊んでても落ちたりなくしたりしないものって言っちゃったからね。
できたものをパパンたちに見せたら、パパンが拗ねた……。
「お兄様、抜け駆けは卑怯ですわよ!」
お姉ちゃんはお兄ちゃんに詰め寄る。
「カーナはネマとお揃いの服でお出かけしたよね?」
お揃いの服……エルフの森に行ったときのことかな?
確かに、お姉ちゃんとお揃いで持っているものはそこそこある。
衣装も同じデザインで色違いとか、光る剣とか。
「カーナは衣装や装飾品、いろいろなものでネマとお揃いにできるけど、僕は限られているんだよ?」
「……仕方ないですわね。今回は譲りましょう」
お兄ちゃんの訴えが心に響いたのか、お姉ちゃんは素直に矛を収めた。
「ネマ、あちらに戻ったら、たくさんお揃いのものをあつらえましょうね」
あっさり引いた理由は、もっと数で勝負してやるぞ!ってことだったのか。
まぁ、お姉ちゃんの方がセンスあるので、服やアクセサリーはお任せしてしまおう。
ちなみにその間、パパンはママンに慰められていた。
兄妹でお揃いはハードル低いけど、父娘でお揃いはなかなか思い浮かばない。
どうパパンを説得するか頭を悩ませていたら、お兄ちゃんがこっそり教えてくれた。
『執務机に飾れるものはどうかな?ネマの手作りだったら、父上は凄く喜ぶよ』
その手があったか!
お兄ちゃんは、私が粘土遊びにハマっているのを知っていたので思いついたのだろう。
そういえば、小学生低学年のときに、父の日の贈り物を作ろうって授業があったな。
似顔絵を描いたり、紙粘土で謎の物体を作ったり……私は何を作ったんだっけなぁ。
あ、思い出した!
「おとう様にもおそろいで作るから楽しみに待ってて!」
ライナス帝国に戻ったら、すぐに材料を集めよう!
「ネマ……。私の子供たちが心優しく育って、お父様は幸せ者だ!」
感極まったパパンに高い高いされた。
パパンの身長が高いこともあって、高い高いもかなり高く感じるんだよね。楽しいからいいけど。
明日は帰国する日で、それもあってパパンやお兄ちゃんはちょっと感傷的になっているのかも?
私も今のうちにいっぱい甘えておかないと!
「おとう様、今日はみんないっしょに寝ようね」
家族みんなでミルマ国最後の夜を過ごすことを提案する。
「それはいいね。ぜひそうしよう!」
パパンの同意が得られれば、それは決定事項となる。
使用人たちの手間を増やしてしまうけど、家族団欒の時間は貴重なので許して欲しい。
あっという間に夜ご飯の時間になり、私は食べ納めだからと、ミイの実料理を堪能した。
改めて、ミイの実の品種改良を頑張ろうと思ったよ!
あとはひたすらディーとラース君をもふり倒し、海にもふもふ欲を食べてもらってさらにもふる!
私の希望通り、家族みんなで眠ったら、楽しい時間ももう終わり……。
「ゔぅぅ……」
別れがたくてママンにしがみつく。
今日も転移魔法陣がある黄金の部屋はありえないくらい輝いているが、それを楽しむ余裕はない。
「ネマがわたくしたちのもとへ帰ってこられるよう、デールたちも尽力を尽くしているわ。もうちょっとだけ、協力してくれるかしら?」
諸悪の根源である聖主って人物を探すために、パパンたちは頑張ってくれている。
ここで私がお家に帰ったら邪魔どころか、足手まといそのものだろう。
「わかった。私もがんばる」
ママンにぎゅーっとされて、次はパパン。
「すっごいの作っておくるね。それから、約束忘れないでよ?」
「もちろんだとも。それと……」
怪我をしないこと、皇子たちに気をつけること、知らない男性には近づかないことなどなど、いっぱい言われた。
ライナス帝国組が先に帰国するので、私とお姉ちゃんもそれに同行する。
その後、パパンたちも転移魔法陣でガシェ王国に帰るのだが、ジーン兄ちゃんとその部下さんたちはまだ残ってお仕事を片付けるそうだ。
別れを惜しみつつも転移魔法陣に乗り、あることに気づいた。
「アイセ様は?」
アイセさんの姿がどこにもないのだ。
「アイセなら、ちょっと行ってくると言って、どこかに行ったよ」
それでいいのか先帝様!孫が心配じゃないの!?
あっけらかんとしている先帝様にも驚きだが、挨拶もなく出ていくアイセさんにもびっくりだよ。
てかこれ、向こうで待ち構えているであろうクレイさんに怒られるのでは?
「ちゃんと先帝様がクレイ様に説明してくださいね!」
そうお願いすると、先帝様は任せておけと返事をしてくれた……が、ちょっと不安。
準備は整い、魔法陣が光り始める。
「ディー!いつでも遊びにきてね!待ってるから!」
――ぎゃぁう!
キラキラが眩しくなり、目を細めた瞬間、転移したのがわかった。
転移魔法陣から発せられたキラキラが収まると、目の前に先帝様たちを出迎える宮殿の人々が待ち構えていた。
ルイさんが皇族らしく先帝様と皇太后様に口上を述べたと思ったら、すぐいつもの感じに戻る。
「で、ミルマ国はいかがでしたか、父上?」
「土産話ならたくさんあるぞ!まずはセリューに報告せねばならぬが、気になるなら同席せよ」
先帝様の言葉に、ルイさんは喜んでいる。
遺跡の件やクーデターの件は報告されているはずだけど、ルイさんが聞きたいのは立太子の儀の様子かな?
「祖父上、アイセはどちらに?」
「アイセならヴィルともうしばらく遊んでいくそうだ」
アイセさんはすでにいなかったし、ヴィもあのあとパパンたちと一緒に帰国するはずだが……。
「またヴィルか……」
「クレイ様の手紙を渡したとき、アイセ様、うれしそうだったよ!きっとすぐ帰ってくるよ!」
クレイさんの哀愁漂う感じがいたたまれなくて、つい慰めてしまう。
私も家族と別れたばかりだから、クレイさんの淋しがる気持ちはめちゃくちゃ理解できるし。
「嬉しそうだったか。あの手紙を読んで、私が心配していることをわかってくれたらいいが……」
「クレイ、まだそんなことを言ってんの?アイセはそういうお年頃なんだから、僕たちは信じて待っていればいいんだよ」
ルイさんの言葉で、ふと思い浮かんだのは厨二病だった。
でも、アイセさんはどちらかと言うと反抗期なように思える。家族から干渉されるのがウザい的な。
「お前はずっといい子だったから納得がいかないのだろうが、このままだと嫌われるぞ?」
「嫌われるって、アイセは……」
クレイさんが反論しようとしかけるも、ルイさんは構わず続ける。
「親兄妹、恋人。どんな関係だろうがしつこい奴は嫌われる。鬱陶しいと距離を置かれる。それが今のお前だ」
はっきりと言っちゃった!
クレイさんには凄い衝撃だったようで、目を見開いたまま固まっている。
どうしたらいいのかとわたわたしていたら、皇太后様と目が合った。
とても上品な仕草で、口の前に指を立てる。
皇太后様に見惚れながら、コクコクと頷く。黙って見ていますとも!
「クレイ、お前はいざというときに頼りになる兄を目指せ!」
「……頼りになる?」
ルイさんの衝撃発言から我に返ったクレイさんだが、完全に動揺は去っていないようだ。
そんなクレイさんを気にかけることなく、ルイさんはとどめを刺さんばかりに畳みかける。
「テオとエリザは興味がないことには動かないし、ましてや弟の尻拭いをするような性格ではない。それじゃあ、クレイを頼れるかと言うと、頼ったら最後、ずっと小言を言われ続ける」
うわぁ……めっちゃ想像できるわぁ。
テオさんは無表情のまま、そうかって一言で終わらせる気がする。
エリザさんは不敵に微笑みながら、この貸しは高くつきましてよ?とか言ってそう。怖くて頼めないよ……。
んで、問題のクレイさんは……どうしてそんな危ないことを云々、会うたびに言われて、お出かけも監視されかねない。プチストーカー待ったなし。
……アイセさん、兄弟関係も苦労していたんだな。なんとなくヴィに懐く理由がわかったかも。
「アイセもダオも、もう分別のわからない赤子ではない。あの子たちの成長を受け入れろ」
その言葉で、クレイさんがどうして過干渉になったのか、少しだけわかったかもしれない。
たぶん、クレイさんの中では、アイセさんとダオは自分に懐いていた頃のまま止まっているんだ。
アイセさんはもう、自分の身を守ることもできるし、私が知らないだけで国のために働いているのだろう。
だけど、クレイさんには守らなければならない幼な子に見えている。
その認識の歪みを正さなければ、クレイさんはずっと不安を抱いたままになってしまう。
「だけど……アイセもダオも、兄上やエリザみたいに図太くない……」
いやいや、ここで突然の悪口!?
クレイさんも混乱しているのか?
「……うん、それは二人の持ち味というか……」
ルイさんもフォローになってないからね!!
「図太くないと貴族たちの食いものにされてしまう!」
クレイさんの訴えに、私は心の中で思いっきり突っ込む。
大丈夫!アイセさんは十分に図太いよ!!
じゃないと腹黒なヴィと仲良くなったりしないでしょ!
クレイさん、可愛い弟のままでいて欲しい気持ちもわかるけど、現実を見よう?
口出ししたいけどできないもどかしさで、私の方がどうにかなってしまいそうだ。
「僕はクレイ兄上のこと大好きだよ」
ダオはクレイさんの手を取り、ちょっと恥ずかしそうに告げた。
相手への好意を口に出すことが少ないダオにとって、凄く勇気がいったと思う。
「クレイ兄上から見たら危なく感じると思うけど、僕はいろいろなことを経験したい。わからないことは兄上たちに聞くし、僕が立派になったら一緒に公務もできるよね?」
可愛がっている弟にこんなことを言われたら……あっさりとクレイさんは陥落した。
「ダオっ……」
力強くダオを抱きしめるクレイさん。感極まりすぎて言葉も出ないようだ。
「クレイ兄上とお仕事するのが夢なんだ」
ダオの素直さは無敵だな!
マーリエ母の思惑で、皇族の中でも孤立していたダオにとって、クレイさんは家族愛を感じられる唯一の人だったんじゃないかな?
だからこそ、クレイさんはダオのことをちゃんと見てって思う。
いや、日々成長するダオを見ないなんてもったいない!
自分にもできた、やれたと喜ぶダオの顔は本当に可愛いくて、知らないなんて損だよ!損!!
微笑ましいダオとクレイさんを見て、私は手紙を渡したときのアイセさんの顔を思い出す。
そういえば……。
「アイセさんも、心配してあれやこれやって手を出されるより、よくできたね、すごいねってほめてもらいたいんじゃないかな?」
アイセさんの年頃は大人ではないが、子供でもない。自分でできることが増えて、自立への自信をつける時期だ。
だけど、クレイさんがこんな調子だったから、なんで認めてくれないの!?って反抗的な態度を取ってしまっている可能性もある。
ミルマ国にいたとき、アイセさんの先帝様たちへの態度はちょっと素っ気ない程度で、避けている感じはまったくなかった。
つまり、露骨に避けていたのはクレイさんのみなのでは?
「なるほど。クレイ、アイセのことを褒めたことはあったか?」
「……小さい頃はありましたが、ここ数巡は覚えていません」
ルイさんの質問に、クレイさんは力なく答える。
「じゃあ、次会ったときにはほめてあげてね。ミルマ国でヴィとアイセ様が誘拐されたエルフを救出したのよ!それに、窃盗事件の証拠も見つけたんだから!」
私がアイセさんの活躍を教えると、クレイさんは初耳だったみたい。
凄く驚いた顔で私を見ている。
「誘拐!窃盗!?そんなあぶ……」
とっさに口を噤んだのは、いろいろ自覚したからか。
「心の中で心配するのは構わない。むしろ当然だ。だが、アイセが無辜の民を助けたことは誇ってやれ」
なんか話が大きくなった気がしなくもないが、ミルマ国の人々のためになったことは間違いないので黙っておく。
「クレイ、ダオ、こちらへ」
上手くまとまりかけたのに、先帝様が二人を呼んだ。
さすがにここでお説教はないはず。
「クレイ、己の足りないものを自覚できたのなら、あとは励むだけだ。弟たちに誇れる己であれ」
「……っはい」
先帝様の励ましに、なんとか返事をするクレイさん。
「お前には、兄弟の背中が遠く感じているだろう。ダオはよく頑張っている。己を見失うな。いずれ横に並び立つ日が来る」
ダオにも同様に励ましの言葉を贈る先帝様だが、何やら実感がこもっているような……。
まぁ、先帝様の時代もいろいろあったのだろう。
「はいっ!」
頑張ってキリッとした顔で返事をするダオ。
出会ったときのおどおどした感じはもうない。
ダオの成長を直に感じられ、ダオの姉貴分として私も嬉しい!
それからようやく場の雰囲気が緩み、ちょっとした談笑をする余裕も生まれた。
「マーリエ!」
ダオがいるならマーリエもいる。
早速、マーリエの姿を発見し、飛びついた。
「人前ではしたないことをしないって、いつも言っているでしょ!」
マーリエにぎゅーってして、両手を掴んで上下にぶんぶん振って再会の喜びを表現したら怒られた。
「ごめん……嬉しくてつい……」
「まぁいいわ。おかえりなさい、ネマ」
おかえりと言われて、胸がジーンとした。
マーリエに!笑顔で!おかえりって言われた!!
感動のあまり、また抱きつきたくなったけど、先ほど怒られたばかりなので我慢する。
「ただいま!お土産もいっぱい買ってきたよ!」
「僕も!ネマ、おかえり」
ダオにも笑顔でただいまを告げて、両手をぶんぶんする。
「マーリエもよかったね。ずっと帰ってこないかもって心配してたから……」
「ダオっ!余計なこと言わないの!」
顔を真っ赤にしてマーリエは怒っているけど、それが照れ隠しなのはバレバレである。
しかし、なんで私が帰ってこないなんて思ったんだろう?
「………………るから……」
マーリエが俯いて何か言ったけど、小さすぎて聞き取れなかった。
「ん?」
「だから!両親とずっと一緒にいたい気持ちはわかるからって言ったのよ!」
その勢いにちょっとびっくりしたけど、マーリエがどうして心配していたのかわかった。
「久しぶりにご両親にも会ったんだよね?ネマが家族と一緒がいいって、そのままガシェ王国に帰っちゃうんじゃないかって……」
ダオが説明してくれている間、ぷいっと顔を背けるマーリエが可愛いくて可愛いくて。
もう一回両手を握り、マーリエの目を見つめて言う。
「マーリエに黙って、国に帰ったりしないわ。約束する」
「破ったら承知しないわよ」
どこまでも強がるマーリエに、私は我慢できずに抱きついた。
「マーリエは親友だもの。絶対に約束は守るから」
マーリエは何も返してくれなかったけど、背中の服が引っ張られる感覚がした。
「じゃあ、お土産渡すから、部屋に行こう!」
マーリエの手を繋いで、私の部屋に行こうと誘うと、マーリエはダオに助けを求めた。
「ちょっとダオ!笑っていないでネマを止めてよ!」
しかし、ダオはそれに答えなかった。
ニコニコと笑顔でもう一方のマーリエの手を取り、明るい声で言う。
「お土産楽しみだねー」