ネマとお揃いにしたい。(ラルフリード視点)
太王夫殿下らと会談したり、ネマの襲来を受けたりしたけれど、その後は穏やかに過ごすことができた。
夜になって、僕はヴィルの部屋を訪れる。
「ヴィル、わざわざ時間を作ってくれてありがとう」
帰国前にもかかわらず、ヴィルはユージン兄さんと一緒に、招待国の要人らとの会談で予定が埋まり忙しそうだ。
「いや。それよりどうしたんだ?」
「風竜殿が言っていた陽玉のことなんだけど……」
「あぁ、作るのか?」
ディーは前の記憶を持っているからか、他の聖獣に比べて性質が異なっているように思う。
ヴィルとラース殿のように始終一緒にいるということはなく、僕と同じくらいネマの側にいる。
現に、今もネマのところへ行っており、きっと魔物たちと一緒にじゃれ合っているはず。
帰国してからのことを考えると、しばらくは僕と一緒にいてもらわないといけないが、落ち着いたらディーだけでネマのところへ行くんじゃないかな?
「僕とネマ、二人分を作った方がディーも安心すると思って」
「……まさか、ライナス帝国まで通わせる気か?」
「ディーが望むなら」
ヴィルは僕の答えを聞くと、何やら考え込んでしまう。
もしかしたら、ヴィルの足元に寝そべっているラース殿と念話をしているのかもしれないが。
「聖獣と契約者、双方が納得しているのであれば、外野が口を出すことではないだろう。しかし、ネマを思うあまり、聖獣に無理をさせることだけはするなよ」
「もちろん。ディーがやりたいようにしてあげたいんだ。だから、それを妨げないために、できることは全部やっておきたくて」
僕の気持ち、ヴィルなら理解してくれるだろう。
ヴィルも、ラース殿がネマに甘いと文句を言いつつも、無理に止めたりしないからね。
聖獣が契約者を大切にしてくれるのと同じ……いや、それ以上に契約者も聖獣を大切にしている。
「それで、俺にただ宣言をしにきたわけじゃないだろう?」
「うん。聖獣たちが作る玉について教えて欲しい」
一応、ディーから説明は受けてはいる。
だけど、その説明は曖昧なところもあって、ディー自身がまだ理解できていないと感じた。
「わかった。聖獣が与える玉は、聖獣の能力の一部を借りられる魔道具みたいなものと考えていい」
契約者に限らず、気に入った者に授けることもある。だから、どの能力を貸すのかはその人物を見定めて聖獣が決めるそうだ。
「ネマに与えた風玉には、ラースの能力はほとんど入れていない。ゆえに、ラースが風玉を通じて能力を発動できるというわけだ」
ネマの四歳の誕生日に、ヴィが贈った腕輪。竜玉と同じようなものだとは教えてもらっていた。
「それだと、離れていたら能力も使えないのでは?」
「持ち主の居場所と感情を感知できれば問題ない」
「……居場所はまぁいいとして、感情ってどういうことかな?」
脅すように冷気を放出しながら問う。
「伝わっているのはラースだけだ!」
言い訳のようにも聞こえるけど、ラース殿ならと冷気を引っ込めて納得する。
「一応、強い感情しか伝わらないようにしてある。そのほとんどが、何かを見たり触ったりしての興奮だそうだ。ラースが今までに動いたのは、強い恐怖を感じたという二度だけ。そのうちの一回はミルマ国についてからだし、その前はすぐに魔物たちが動いていたので、精霊たちだけで大丈夫だと判断した」
ネマが感じた恐怖は、どちらもイナホの件だろう。
ライナス帝国の帝都にあるエルフの森へ行ったとき、たちの悪い冒険者に絡まれたと報告を受けている。
そして、ミルマ国に着いて早々、母上の知的好奇心が抑えられずに、イナホが火の魔力を放出してしまう事故が起きた。
以前、ネマが聖獣の力を恐れていたと、ヴィルからも聞いている。
ディーを傷つけられた怒りで、無意識に炎竜殿の力を暴走させてしまったことによる心の傷。
あの遺跡で、炎竜殿の力を使うことはできていたので、このまま改善するのを願うしかない。
「ネマに陽玉を与えるなら、付与する能力は制限した方がいいだろう」
どんな能力を付与できるのか、それは聖獣ごとに異なるため、ディーとよく話し合う必要がある。
でも、人を攻撃するようなものは避けるべきだね。
「そういえば、なぜ原竜の玉だけ竜玉と呼び方が違うのかな?」
「ラースが言うには、一番最初の愛し子が言っていたのを原竜たちも使うようになったかららしい」
一番最初ということは、遥か昔のことだと思われる。
歴史書等で確認できる最古の愛し子は、初代ライナス帝国の皇帝ロスランだと聞いた。
ロスランが愛し子であることは、今代の精霊王様方が仰っていたそうなので間違いないけど、それ以前の愛し子となると実在した人物なのか真偽がわからない。
「一番最初の愛し子……どういった人だったんだろう?」
「さぁな。それこそ、あの遺跡に魔族が住んでいた時代よりも前のことらしいからな」
そんな大昔ともなると、以前ヴィルが言っていたように、魔法が異なっている可能性もあるわけで。
現存する遺跡の数からしても、記録は残っていないだろう。
「それから、形は自由にできるんだよね?」
「あぁ。なるべく常に身につけていられるものにした方がいいぞ」
それが一番の難題だったりする。
炎竜殿の竜玉はうさぎさんになっているし、ラース殿の風玉は腕輪に。国王陛下からの首飾りもあるので、他の装飾品となると……。
「うさぎさんに取りつけられるものがいいかな?」
「その場合、簡単に外れないようにしろよ。それか、ネマに決めてもらうのはどうだ?」
僕の希望としては、お揃いにしたかったんだけどなぁ。
でも、ネマの好みでないものになってしまうのもよくないし……。
「そうだね。そうしてみるよ」
結局、陽玉のことを相談しにきたのに、何も決まらないまま終わった。
ヴィの部屋をあとにして、ディーと遊んでいるネマのもとへ向かう。
「ネマ、少しいいかな?」
「おにい様っ!」
ネマは笑みを浮かべて、僕に抱きついてきた。
ネマを抱き上げて、長椅子へ移動する。そして、魔物たちの相手をしているディーを呼んだ。
「風竜殿が仰っていた陽玉を作ろうと思うんだけど、ネマはどんな形にしたい?」
ヴィルに教えてもらった、常に身につけられるもの、簡単に外れたりしないものという条件も伝えた。
「あと、これは僕からの要望なんだけど、できればネマとお揃いにしたいな」
「おにい様とおそろい!作ろう作ろう!」
ネマが乗り気になってくれてよかった。
それから、どんな装飾品の形にするのか話し合ったのだけど……。
「指輪は遊んでいるときに落としそう……」
同じ理由で耳飾りも駄目。
髪飾りなど、見える装飾品は衣装に合わせる必要があるので不可。
やっぱり、うさぎさんにつけるものにした方が無難かな?
「あっ!ひらめいた!」
ネマは言葉で説明するよりは……と言って、紙に絵を描き始めた。
ここがこうで、こうして、と小さな声で独り言を呟きながら描き上がったものは……縄?
「こんな感じはどう?」
間違った答えを言って、ネマを傷つけてしまったらどうしよう。
もう一度、ネマが描いた絵をじっくり見る。
縄で輪を作り、それに玉や宝石かな?何か飾りがついていた。
一見、首飾りにも見えるが、縄が長いので違う気がする。
「ネマお嬢様が考えたものは、初見では絶対にわかりません。ラルフ様へご説明された方がよろしいかと」
救いの手を差し伸べてくれたのはパウルだった。
自分が言いづらいからと、パウルに言わせてしまったことに罪悪感を覚える。
「ありがとう、パウル。それじゃあネマ、僕に教えてくれる?」
ネマは、自分に絵心がないことを理解しているのか、パウルに言われたことを気にする様子はなく、上機嫌で絵を説明してくれた。
「それでね、おにい様の分は私が作るから、おにい様は私の分を作って!それでおくり合いっこしよう!」
ネマの提案に僕は驚いた。
ネマが考えた装飾品も凄い発想力だなと感心したのに、贈り物の交換まで考えていたとは……。
「うん、凄くいい案だね」
とりあえず、今日はもう遅いので、陽玉作りは明日ということになった。
パウルには、カーナが気づくまで黙っておくようにと、口止めも忘れない。
ディーを連れて部屋に戻ると、早速陽玉について相談する。
特に、ネマの陽玉にどんな能力を付与するかを。
「ラース殿の風玉には、居場所と強い感情を感知できるようにしているそうなんだ」
何か起きたときにすぐ助けにいけるよう、居場所がわかるのは必須だよね。
強い感情も、恐怖や悲しみといったものを感じたら、ネマやその周りで何かあったとわかる。
『明るくなるようできるよ?』
他に攻撃以外で付与した方がいい能力はあるかと聞いたら、ディーがそう答えた。
「明るく?陽玉を光らせることができるってこと?」
『うん。光があれば、ぼくも力を使えるから』
獅子光は、光がある場所ならすべて見ることができるらしい。
たとえわずかな光でも、火の魔法による灯りでもすべて。
『見てみる?』
意味がわからなくて返事ができないでいると、頭の中に光景が浮かび上がる。
離宮のネマとカーナが使っている部屋。寝台には二人がいて、何かおしゃべりをしていた。
しかし、僕は自分の部屋にいて、目の前にはディーがいることも認識している。
とっさに目をつぶると、頭の中の光景が鮮明になった。
おしゃべりをしながら、イナホの尻尾を撫でているネマ。カーナはそんなネマの髪を指で遊んでいる。
ハンレイ先生のぬいぐるみにグラーティアがいることもわかる。
寝台から少し離れた場所で、セーゴとリクセーが丸くなっているのも……。
『契約者には共有できるって天虎さんに教えてもらったの!』
能力の共有が上手くいって、ディーは嬉しそうだ。
……共有?
「ねぇ、ディー。もしかして、ネマに陽玉を持たせたら、感じ取った感情も共有できたりするのかな?」
『契約者が側にいたらできるよ。側にいるなら、宝物が怖がっているよって説明するだけじゃだめなの?』
ディーの言うことはもっともだ。
一瞬、ヴィルに誤魔化されたかと疑ったけど、わざわざ感覚を共有するより、言葉で伝える方がわかりやすいだろう。
ネマを可愛がってくれているラース殿なら、ヴィルが何か言う前に動く気がするし。
「そうだね。何か感じたらすぐに教えてくれる?」
『うん!』
それから、僕の分の陽玉はどうするかを話し合いながら眠った。
翌日――。
ネマは朝食を食べ終わると、真っ先に僕の部屋へやってきた。
今日もウルクに乗って……。
日常的な光景にムシュフシュがいるという衝撃は、なかなか慣れないな。
「じゃあ、まずはディーに陽玉を作ってもらうね」
「はいっ!」
ネマの元気な返事を聞き、ディーに目配せをする。
ディーは集中するためか両目を閉じ、額にある角が輝き出す。
ディーの邪魔をしないよう、黙って見守るネマだけど、その目はディーに釘づけだ。
角が一際強く輝くと、その光が凝縮されるように小さくなり、丸い玉が現れた。
『宝物にあげる分!』
最初に作ったのは、ネマ用のものだった。そして、同じように光が集まってもう一つ。
お日様の光を集めたような、暖かい色合いをしている。
『間違わないでね』
ディーに注意されながら、ネマに僕用の陽玉を手渡す。
「よーし、やるぞ!」
陽玉を受け取ったネマは、小さな手で包み込み、うーとうなり始めた。
だけど、そのうなり声もすぐに止まる。
「できたー!」
嬉しそうに両手を掲げるネマ。
満面の笑みを浮かべ、僕にその両手を差し出してくる。
両手の上に乗っていたのは、昨夜の絵に似ているようで似ていない剣帯飾りだった。
「ありがとう」
お礼を伝えると、ネマの目は早くつけてと訴えている。
だが、どうやってつけたらいいのかわからない。
付け方を教えて欲しいとお願いしたら、ネマが説明しながらつけてくれた。
「ここを通して、こうするの。長いときは、くるくるって巻きつけて調節してね」
そういう縄の結び方があるのは知っていたけど、身の回りにも応用できるんだね。
剣帯に細い縄を巻きつけて長さを調節し、程よい位置で揺れる飾り。
縄の先についているのは、スノーウルフの形をしたもの。
これもネマからの提案だ。
飾り部分はスノーウルフだった頃のディーがいいと。
しっかりとこの剣帯飾りを目に焼きつけ、自分が考えた意匠と重ね合わせる。
頭の中でより鮮明に思い浮かべて、陽玉に念じた。
陽玉の形が変化したことが、手のひらの感触でわかる。
細かな意匠がどう反映されるか心配だったけど、思い浮かべた通りのものができて安心した。
「僕もつけてあげる」
ネマの腰帯に剣帯飾りをつける。
ネマが作ったものとの違いは、全体的に小さめにして、ディーの意匠をちょっと変えたのと、留め具を追加したこと。
留め具は簡単に外れないように、受け具と本体両方に仕掛けを施した。
紐先の飾りのディーには、クレシスチェリーの花と葉で囲ってみた。
それほど大きくないので、衣装に合わないときは上着の内側に隠してもいいし、うさぎさんにつけてもいい。
「紋章みたい!ディーがかっこいい!」
「気に入ってくれた?」
「うん!おにい様、ありがとう!」
それから、陽玉の能力を説明したら、光ることに驚いていた。
「どれくらい光るのか試してみてもいい?」
「今は明るいから、あまり参考にならないと思うけど?」
ネマはそれでもいいと言うので、ディーに聞いて光らせ方を教えた。
とは言っても、どれくらい明るくしたいのかを頭に浮かべるだけなんだけどね。
「いくよー」
ネマが合図を出すと、装飾品へと変わった陽玉から光が発せられる。
強い光を発しているにもかかわらず、眩しさを感じない優しい光は、ディーらしくもあった。
「おぉ!すごい!」
外と同じくらい明るくなった部屋を見回し、ネマがはしゃぐ。
「これで洞くつ探検もできる!」
フィリップ小父上の影響か?
以前から、洞窟にこだわりを見せるネマ。
ガシェ王国に帰ったら、レイティモ山の洞窟に突撃しないか心配だ。
この能力をつけたのは早まったかもしれない……。
それからネマは、父上たちに自慢しに行こうと、僕を連れ出した。
父上とカーナが酷く悔しがっていたのが面白かったな。
ネマの武器が増えた!




