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偽りの預言者  作者: 谷樹 理


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第七章

 解導因子の四番隊隊長は、不深錠丁(ふみ じようてい)という男だ。

 彼等の主な活躍の場である市街戦を最もスマートに処理できることで定評がある。

「ホント、瓦礫でできた天乃原の地の果てって感じがするわぁ。ウチのオヤジも、こんなところに俺を送り込んで何考えてるんだか」

 廃墟じみた辺りの風景を、しみじみと感想をつまらなそうに漏す。

 制服である暗灰色のコートに強化繊維の服を着て、長めの髪をポニーテールにした一変細身の長身。

 あとから、五十名の隊員たちが地上に出てきて彼の周りに集まってくる。

 街道因子は一隊で、一個師団の力を持つと言われていた。

 陸の向こうに目標のビハークル艦があると眺めつつ、錠丁は隊員に戦闘体制に入るように命じる。

 一部が辺りの区画の風景に干渉し、一部がアウトフレームが彼等によって使えるよう、錠丁の戦闘能力を最大限に出せるように補助体制に入る。

 制圧でも掃討でもなく、一点突破により相手勢力を殲滅するためのものだ。

 錠丁は長い分銅を鎖でつけた手斧とカトラスのような剣を両手に持った。





 チップ内蔵で視神経に信号を送るコンタクト・レンズが土地の構造の不自然な場所を見つけた。

 構造形態はわからないが、廃墟が並ぶ風景の一部が恣意的という判断を下す。

 風唯はすぐに相手が四番隊で隊長が錠丁だとわかった。

 小細工が得意で逆に小細工の通じない相手だ。

 眼の据わった彼女は手ぶらでゆっくり、恣意的構造圏内に足を入れた。

 突然刀を振りかぶったコートの男が眼前に飛び込んできた。

 ホルスターから抜いた腰の位置で、風唯はリヴォルバーから二発放つ。

 男の顔面が弾けて砕けた。

 身体を逸らした風唯の脇に相手が転げ落ちる。

 今の視界を遮られた一瞬で、風唯は自分がビルの廃墟が四方にある交差点のど真ん中に立っていることに気付いた。

 辺りは暗く、半ば壊れた電子掲示板があちらこちらでぼんやりとした明かりを灯している。

 周辺構造を変えられていた。

 最悪な位置だ。全方向から狙われる。

 風唯はビルの奥にある廃車の置いてある二階建ての建物に向かって駆け出しながら、左手の手袋を外した。

 大鎌をもったアウトフレームが出現する。

 ファルコの店で襲って来たもののコピーだった。

 すぐに鎌で自身の周りを薙ぐ。

 いたるところから銃声が連続したのは同時だった。

 アウトフレームが、周囲のモノを支配し、圏内に入った弾丸は全ていきなり折れるような軌道で力なく足元の道路にバラまかれた。

 廃車が、突然爆発する。

 風唯は舌打ちする。

 とにかく走った。

 視界の風景がまた変わる。

 目の前にビルがそそり立つ。

 真正面から激しい銃撃が来た時には、すでに左脇に跳んでいた。

 周りが変化するのは一瞬だが、そこから行動が起こるまでの彼等にはわずかな間があった。

 相手も変化する周りに位置する自分を把握してから動いているのだ。

 ほんの差を風唯が把握しているというだけで、何とか環境構築の影響から逃れている状態だった。

 風唯が解導因子のメンバーに詳しいのが理由だ。

 暗殺者として、非合法も厭わない治安管理部隊の跋扈する以上、活動するのに必須な情報だった。

 下手に食わせ物の錫羽羅と連絡を取っていたのは伊達ではない。

 ただ、錠丁と戦闘をかわすのが初めてで、肌で実感するものと話の中から予想把握していたものの差というものの調整を行っていたのだった。

 彼女は失いかねない現実との位置関係を常にチェックしていた。

  眼前と左右に壁が現れ、いきなり袋小路に詰められた。

 すぐにしゃがんで、リヴォルバーを脇から撃つ。

 だが、九ミリ弾をものともせず、長身でポニーテールの男が手斧を頭上に振り落としてきた。

 後転して真近で立ち上がるとその首に銃口を押し付けようとする。

 すぐにカトラスを握った手がそれを払い、風唯は膝蹴りを喰らって足が宙に浮きかける。

 後頭部に手斧を叩きつけようとした寸前で、大鎌を構えたアウトフレームが出現したので、錠丁は、後ろに退いて姿を消す。

 次の瞬間には、風唯の頭上に瓦礫の塊が落ちてきた。

 大鎌を振るい、瓦礫を割るとともに、伸びている通路方面に逃げが足が鈍いと。

 分銅鎖が、ワイドパンツの足首に巻かれていた。

 又視界が変化して、再び交差点の真ん中になる。

 鎖が伸びた方向に、錠丁が立っていた。

「……流石、やるねぇ。こんなに時間かかったのは初めてだわ」

 錠丁は楽し気に言った。

「色々初めてを体験させてやるよ。おまえ、まだ死んだことないだろう?」

「よく言う」

 鎖を思い切り引っ張ると、風唯は足を取られて引きずるように近くまで寄せられた。

 大鎌を何回も振る。

 交差点中央付近で倒れている風唯に連続した銃声と共に銃弾が集中すが、どれも途中でいきなり勢いが消えて道路に転がった。

 空気を揺らす轟音が空から響いてきた。

 錠丁が見上げると、飛空艇が三隻、頭上に現れていた。

 そこから、大量の爆弾が投下される。

 鎖のついた斧を手放して駆けだしたのは、錠丁だった。

 ついで、反対方向に走り出す唯。

 地上は爆発が連続して爆炎が上がり、廃墟群が吹き飛ばされて行った。

 事前に風唯が頼んでいた、桧珂偽率いる飛行艇だった。

 錠丁の作った構造物は炎に包まれ、解導因子四番隊はバラバラになる。

 彼等は、灯香鉄道の地下鉄に続く穴に次々と避難する。

 桧珂偽の爆弾はそこにも大量に落とされて、穴は瓦礫の山に塞がれた。





 ビハークルに戻って来た風唯は、不機嫌丸出しだった。

 だべる部屋と化している執務室に入ると、汽緒離もいた。

「どこ行ってたんだよ?」

 低い声だ。

「何を怒ってる? 吉報だぞ。ディスコルシア入国が許可された」

「どうでもいい。どうしてこんなに早く解導因子があたしたちを追って来れたかだ。情報が洩れてないと無理だろう?」

「ああ、それなら私がやった」

 こともなげに汽御離は即答し、風唯を茫然とさせた。

「……おまっ……」

「条件は、解導因子とクジラのディスコルシアの侵入を防ぐこと。宿も決まったし、給料もでる」

 絶句が二度続く。

「……あたしが錠丁に負けてたらどうするつもりだったんだよ……」

「そのままディスコルシアに行っていた」

 即答する汽御離。

 反発する気力もなくし、風唯は身体から力が抜けた様子だった。

「……晴れて宮仕えか。堅苦しいのは好きじゃないんだけどなぁ」

 何も考えずに思わず愚痴が出ていた。

「安心しろ。私らを雇ったのは、艦長の庶子で叙任もされていない端譜菜(はふな)という宮廷内の一私人という立場の女性だ」

「ウチの裏の管理人だよ」

 瓢宇は悪い顔になっていた。

「ああ、それとその後に端譜菜嬢から、依頼が入っている」

 ソファに座り落ち着いて紅茶を飲みつつ、汽御離は続ける。

「今の第一皇女を消して欲しいらしい」

「……いきなりドロドロの底なし沼になダイブしなきゃならなくなる話じゃねぇかよ!」

 風唯はウンザリという様子だ。

「断ってはいないし依頼は受けたが、どうして実行しなちゃならない? 君の馬鹿正直さはやっぱり暗殺者に向いてるとしみじみ思うよ」

「あんた見てると、自分の方がまだマシなんだなってよく思うから、晴れ晴れする時が多くて楽しいよ」

 機嫌悪そううにボソボソした声の皮肉だった。

    


 

 

 クジラ出現後の街並みだった。

 局部的大災害が起こったかのような、崩壊したポイントと普段の風景が明確に線引きされている。

 発生から街の一部を破壊しやがてその構造が崩壊して消滅したあと、瓦礫の山が残っていたのだ。

 両耳に蛇のタトゥーを入れた長身の男がその中に立っていた。背後には疏南と軌音が一緒だ。

「……普圏に協力すればよかったんだよ」

 扶壬は憐れむようにつぶやいた。

 足元の破片や塵が、微かに震える。

「しばらく俺の下で待ってろ」

 彼は軌音に軽く合図した。

 彼女は、地面に手を置いた。

 再び、その部分がカタカタと脈打つ。

「今までよく耐えたね……こんなになるまで。少し休もうね。疏南という人が一旦、あなたを預かる形にするから。あたしたちも、あなたがちゃんと安心できるようにしてあげる」

 慈愛に満ちた声だった。

 いたるところで起こっていた瓦礫の微かな痙攣がゆっくりと納まってゆく。

 身体に何か入ってくる感覚に、疏南は頭をひとつ頷くように振った。

















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