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偽りの預言者  作者: 谷樹 理


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第十四章

 第二十九区画の管理局が襲われ、一時間ほどで職員は全員皆殺しにされて、占拠された。

 飛珂偽は早速爆撃を開始し、瓦礫の山となった中央部近くの車道に二隻の飛行艇が強制降下してきて、横に四列、後ろに二十列を造った大隊二個の戦闘用イマジロイドを降ろし始めた。

 中央部で燃え燻る塵と煙の中、数人の人影が現れた。

 戦斧を手にした秦羽とその部下たちである。

 ライフルを構えた戦闘用イマジロイドと、その周辺の建物にも、突然湧き上がった恐怖感で軽いパニックになる。

 秦羽は、真っすぐ戦闘用イマジロイドの縦隊に正面から突撃した。

 身がすくんでいる戦闘用イマジロイドは、秦羽とその部下に刈られるように、一振るいづつで数体が身体のどこかを吹き飛ばされていた。

 この時間が、秦羽の意識をすべて奪い、目の前の物に夢中になる唯一の瞬間だった。

 そして、興奮と無我夢中さはさらに刺激を欲し、容赦ない戦斧が戦闘用イマジロイドの身体を切断して血を吹かさせる。

「……相変らず、容赦ないとんでもねぇ脳筋だな」

 離れた場所に身を隠しながら、風唯が呆れるように言った。

 彼女は瓢宇から貰ったLショットで緊張感を高めていたが、隣の汽御離はその配線のアウトフレームがのたうち回るほどに、恐怖心を受けているようだった。

 秦羽のどこかに隠れたアウトフレームの能力だ。

「どうした雑魚ども! 俺はここだ、掛かってこい!」

 悲鳴がどこかしらから来るほどの恐怖心が皿に起こった。

 秦羽は、もう一体の方に横から襲いかかり、血と切断した肉の塊を吹き飛ばして行った。

 羽織ったコートごと顔も返り血まみれになり、凄まじい形相となっていた。 

 風唯が隙間から姿を現して拳銃を構えた。

 そこに、無造作なまでの動きで、落ちていたライフルを高速で投げてよこす。

 風唯は身体を瓦礫の壁にまた隠した。

 彼女は汽御離にLショットのカプセルを一つ渡す。

 汽御離は歯で割り、顆粒を舌の裏で溶かす。

 一気に圧倒されていた感情から解放されたかのようだった。

 接続しを地中に進めて、泰羽の靴の底から接触する。

「……どうやらアウトフレームはあの戦斧のようだ」

「へぇ……」

 左手の手袋を外し、大鎌を持ったアウトフレームを出現させ、一気に泰羽との距離を詰める。

 大きく振った大鎌と、戦斧が弾き合う。

 周囲の三メートル四方の者の運動神経を奪う能力が、恐怖心を響きたてる能力に相殺されていた。

 薙ぐ大鎌を叩き落そうとする戦斧。大鎌はそのまま、下から後ろに一回転して頭上から振るわれてくる。戦斧は横に弾き、大きくあいたアウトフレームと風唯の姿をまとめて横なぐりにしようとする。

 風唯とアウトフレームは、散歩の距離を飛び退き、それをかわした。

 その隙に風唯はリヴォルバーを数発、泰羽に撃ち込んだが、強化繊維の服に弾がめり込んだだけだった。

 戦斧を振るうと見せかけて肩から突っ込んできた泰羽に、風唯は吹きとばされ、地面に転がったところを巨大な刃に狙われた。

 脚を伸ばし足の裏で、両手で持っている彼の戦斧の柄を止めた。が、一瞬だった。とてもかなう力じゃなかった。

 風唯は転がって逃れ、勢いのまま数歩後ろに下がった。

「やるなぁ……そうじゃなきゃ、俺が出張ってくる必要もなかったってもんだよな」

 泰羽は不敵にニヤける。

 地面から配線が何本も伸びてきて、彼の両足に絡まる。

 まるで何もないかのように、引きちぎりつつ脚を運び、風唯に近寄る。

 風唯達の位置もあり、ライフルを撃てない戦闘用イマジロイドたちが、ナイフを引き抜いて、彼の後ろに一斉に群がる。  

 が、戦斧の一閃で、全員が吹き飛ばされた。

「己の力不足を呪うがいい!」

 泰羽は叫んで風唯に一気に間合いを詰めた。

 彼女が一歩横にずれると、蠢くようになん十本もの接続子のワイヤーが鎌首を上げていた。

 ワイヤーはあっという間に泰羽を呑み込む。

「今だやれ!」

 汽御離が叫ぶ。

 風唯の大鎌は、ワイヤーごと泰羽を袈裟斬りにしようとする。

「こんなもので!!」

 身体を大きく振った泰羽は、ワイヤーを切断した。

 戦斧が大鎌を軽々と弾く。

 風唯は舌打ちした。

 彼女は、もう一度距離を取る。

 その時、飛行艇からの一斉艦砲射撃が泰羽を襲った。

 轟音が連続し、爆発の中に姿は消えた。

 やがて、炎も小さくなったころ、立っていたのは、皮膚が焼け焦げてただれ、コートのボロボロになった泰羽だった。

 一目でわかる。

 彼の身体は、イマジロイドだった。

「……もうちょっと。もうちょっとだけ、人間として遊ばせてくれねぇか……」

 片足を引きづるようにして、戦斧をだらりと垂らし、彼は風唯らにゆっくりと近づいてきた。

「十分よ」

 声は彼等の右側の奥の方から届いてきた。

 ブラウスに七丈のダボパンツ、ソバージュを顎元でバッサリ切った髪。

 疏南だった。

 斜め後ろには、白いワンピースを着た同年代の少女が付いていた。

「おまえら、また!?」

 風唯は、ファルコの店でのことを思い出した。

「お久しぶりねェ、地獄の救世主である贖主」

「だれだよ、地獄の救世主って……なんだ、贖主って?」

 据わった目で、泰羽を警戒しながら彼女らを伺う。

「今、あなたは天乃原でフル回転中よ。多分気付いてないだろうけど」

「何言ってるのか全く分からねぇ。妄想癖の駄法螺も程度によっちゃ、オイタ加減が違うぞ?」

 風唯は淡々とした口調だった。

 片膝をついて身体を崩しかけた泰羽は、何とか前進を続ける。

 地面から吹き上げるような爆発が、一定の間隔を上げて線を引くように轟音を響かせ風唯らに近づいて行った。

 動けないでいると、背後に気配を感じ、風唯は横に跳んでいた。

 そこには、少女が小刀を持って振りかかっていた。

 六番隊隊長幾葉だった。

 軌音は泰羽のところまでやって来た。

「……おつかれさま。がんばったね」

 慈愛に満ちた声だった。

「……最後まで、人間として……」

 焼きただれた顔の泰羽は、ひざまつきながらつぶやいていた。

「うん。あなたの人間としての役割は終わったわ。ゆっくり眠りなさい」

 泰羽は、両膝をついた軌音の太ももに頭から倒れ込むようにして崩れ、動かなくなった。

 退いた傍の地面でまた爆発が起こった。

 爆炎を腕で防いた風唯のところに、二人目の幾葉が現れて小刀で斬りつける。

 風唯は刃が身体に触れる寸前に、握った手を膝で蹴り上げていた。 

 その幾葉の身体が歪んだ。

 パズルのイースのように崩れたかと思うと、二刀目を振う姿で少し横にずれたところに現れる。

 大鎌が薙いだ。

 切断された腕が飛ぶ。

 だが、そのまま細かく散るように失せた。

 狙って来た腕は、新しく生えていたものだった。

 自己をバラバラにして再構築して戻すことができる。

 風唯は、相手の能力を把握して、左手からシャボン玉を幾つも空中に浮かべた。

 一つ一つが固定されたかのように硬く、重く浮かび、幾葉との間に多数、立ちふさがるかのようだった。

 幾葉は、気にせず当たるところは崩して隙間にはそのままで飛び込んだ。

 大鎌の軌道としては、ジグザグと綺麗に斬れる空間だった。

 バラバラにされた幾葉の身体の塵が蠢いている次の瞬間には、気泡が爆発していた。

 幾葉は、粉みじんにされる。

 再び地面が爆発し、収縮すると、息の上がったような幾葉の姿が現れた。

 ぶらりと手のナイフを垂れ下げる。 

 彼女は思っていた。

 風唯には相変らず強烈な否定感を味わっていた。

 これだけ、武器を合わせてみれば、もしかしたらそれは自分の物なのではないかという気がしてきた。

 つまりは、自己否定感である。

 同じ自己否定をしている風唯の物を敏感に感じ取って、元々あった自己否定を呼び起こされたのではないかと。

 それは、強烈な劣等感を呼び起こした。

 同時に怒りも。

 彼女は、四本ある小刀のうち、三本を適当っぽく、風唯めがけて上に放り投げた。

 次の瞬間、ダッシュして落ちてきた小刀をてにしては、鋭く風唯の身体を狙って投げ込む。

 風唯は、一本一本、体を反らして避けたが、最後の一本を避けた直後に、幾葉の小刀をもつ身体が目前に迫っていた。

 その小刀を持った腕を膝で弾き、同時に手に取って投げ飛ばすと、背かなを置いた幾葉の眼前にリヴォルヴァーを突きつけて弾丸を二発見舞った。

 顔面が吹き飛び、幾葉の姿は散り散りになった。

 身体はゆっくりと地面の中にめり込んで行って、やがて完全に埋まってしまった。

 立ち上がった風唯は、疏南と軌音に身体を向けた。

「……期待通りだよ、おまえら」

 疏南はニヤニヤしつつ、言った。

 言いつつ、彼女は軌音を伺た。

 彼女は口を閉じたままだった。

「面白いモノが見れただろう? じゃあおまえら、また会おうか」

 疏南は、幾葉が造った陽霧鉄道からの爆破後の穴に跳び込み、姿を消した。

「……解導因子のがイマジロイドだと?」

 風唯は眉をしかめつつ、つぶやいた。





 沙織会が牛耳った天乃原管理機構は、声明文を発布した。

 東京の上層にあるこの空中都市は、人間の物であり、旧ディスコルシア艦からの伝統を受け継ぐものだと。

 以前の管理機構は、イマジロイドを優遇し過ぎた。

 この天乃原の退廃、混乱の元はイマジロイドの為である。

 その布告がでたあと、東北部で解放区を作っていたイマジロイドたちは激高した。




 維蕪祥涼としては、ぎりぎりの判断だった。

 イマジロイドの暴動に加え、第十八区画で不穏な動きが確認されたのだ。

 別名「天乃原の丘」と呼ばれるこの区域は、過去、東京乗っ取りの橋頭保となり、逆襲を受けて半ば廃墟と化している場所だ。

 イマジロイドたちが管理機構への揺さぶりとして、東京に揺さぶりをかけるかもしれなかった。

 祥涼の先手を打ったクーデターだった。

 そして、イマジロイドを否定することにより、強制的な暴動の鎮圧のための名目と、東京そしてディスコルシアからの支援を受ける。

 後に打つ手はディスコルシアとの繋がりを利用して、今回の祥涼の行動の大義名分を得るのだ。

 そうすれば、祥涼の立場は盤石になる。

 どっちにしろ、ビハークルとは敵対することになるが。

「脱獄したマッド・ボマーが妙なことを言っているな……」

 いつの間にか私設秘書間の立場になっていた緯麻がうなづいた。

「彼が主張するところによると、救世主の意志を代弁しているとか」

 祥涼は鼻で笑った。

「救世主、な」

 それ以上何も言わず、彼は黙った。





 第十八区画は、着々と前哨基地化されていていた。

 そこに、救世主を待ち願いイマジロイドたちが集まり始めている。

 沙織会の沙織衆という下部組織によって、居場所を追われた者達だった。

 これには風唯も予想外だった。

東京も緊急事態命令を首都防衛部隊に発していた。

 「天乃夜明け」作戦の再来を警戒したのだ。

 だが、集まるイマジロイドたちに特別な意図はない。

 唯一あるとしたら、迫害された自身たちへの救世主の渇望だった。

 様子見を決めた端譜菜や風唯に、一人、汽御離だけは暗い雰囲気で楽し気に忙し気にしていた。

 


 


「下準備は上手くいったな」

 深模流はジープ型の自動車を走らせながら言った。

『実行させられた身としては、最大限に褒めてもらいたいものだな』

 付いてくる大型バイクから通信が届く。

「おー、よちよちよちよち!」

『ぶっ殺すぞ?』

「冗談だよ。いつもおまえの手腕は買ってるよ」

 声は陽気に笑っている。

『なら良いんだけどねぇ……あんた、密かに潜んでる管理機構と連絡取ってるだろう?』

 ハンドルを片手に、深模流は一瞬さらに大きな笑いを起こす。

「何の話だか……」

『へぇ、そうかいそうかい。そうなのかい』

 錫羽羅はどうでも良さげな声をだした。

 沙織会、天乃原には他のコングロマリットとして亜紡会(あぼう)という組織があった。

 沙織会突出の中、亜紡会は正面から争う存在だった。

 だが、沙織会の勢力とその暴力実行部隊の沙織衆は、亜紡会を半年も経てずに組織瓦解にまで追い詰めた。

 その時、亜紡会の会長を叩き斬って首を管理機構の前に晒したのが、亜紡会暴力組織の一員だった深模流本人だった。

 解散なのか、沙織会への降伏なのかと話題になったが、深模流は残ったメンバーと人脈を使い、新たな暴力コンロマリットとして解導因子の立ち上げと沙織会との戦いを宣言した。

 この行為は天乃原の諸コングロマリットに怒りを覚えさせて、全てを敵に回して血で血を争うこととなった。。

 何よりも上下関係を重んじる組織の一兵卒がトップの首を切って晒したなど、諸コングロマリットとしては許しては置けないのだ。

 以来、あらゆる攻撃を受けつつも深模流の解導因子は、沙織会以外のコングロマリットを実力で黙らせることに成功した。

「世は力よ」

 深模流は放言し、管理機構は実力治安維持部隊として抱えることにした。

 沙織会が生き残っているのは、その間ひたすら沈黙を守っていたからに過ぎない。

 そこに、沙織会と解導因子の密約説が出た理由でもある。鋭い頭脳をもった表裏のわからないおとこである錫羽羅がその提案者として名前が挙がった。

 だが、これは今だ真偽不明である。

 解導因子の実力は抜きんでていた。

 何よりもアウトフレームを使えるのがその特徴である。

 一つのコングロマリットを、一から十五番隊まであるなかの一隊だけでその日に関係者含め皆殺しにしたこともある。

 いつか、解導因子のは事実上の管理機構の実力行使の主力となっていた。

 管理機構一の実力部隊が、今回、元管理機構お抱えの暗殺実行者たちに、四個隊も撃滅されているのだ。

 本来なら存亡の危機だが、局長の深模流は異様な上機嫌の様だった。

 錫羽羅は過去に一度、こんな状態の深模流を見たことがある。

 亜紡会の会長を自らの手で斬り殺し、諸コングロマリットを敵に回した時だ。

 残りの部隊は置いてきていた。

 行くのは、深模流と錫羽羅だけである。

 正に敵中に飛び込むようなものだ。

 それを、深模流は楽しんでいる。

 彼女の存在理由は、自らの暴力だった。

 「世は力よ」と言ったのは、本心からのものだ。

 力だけが己を存在させ、世界と繋がらせることができるのだ。

 力の無くなった亜紡会会長の首を落とし、自己の存在を天乃原中に示したのもそれが理由だった。

 彼女の頭脳の面で支えてきたのが、錫羽羅だった。

 亜紡会の下にいた頃に出会い、妙に気が合ったのだ。

 何事も正に阿吽の呼吸といって良い。

 お互い、これ程信頼できる人物は、生涯に一人もいなかった。

 だが身体の関係だけはまったくない。

 別の場所にいても黙ってただただ同じ空気を吸える仲だった。

 解導因子は事実上、二人で造り上げたものだ。

 二人は常々思っていたのだ。

 解導因子の決着は、最終的には自分たちが己の力で着けると。 

 深模流は上機嫌だ。

 昼間の車路の上のゴミクズを吹き飛ばし、先行する車を追い抜いてジープ型の自動車を爆走させる。

 その後ろにぴったりと離れることなく、「奇術師」と呼ばれた錫羽羅の大型バイクが追いていた。


  

 

   


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