第十一章
ディスコルシアからの反応は早かった。
端譜菜を、騎士団正式団員として認めかつ、正教会の風唯付き司祭に任じるという通達を送って来たのだ。
これは風唯と扶壬を見て、風唯という部外者を認められない以上、その場にいる端譜菜の地位を上げたというものだとわかった。
「ここに、新しい区域を造るよ。天乃原でもないディスコルシアでもない、新天地だ」
端譜菜がとんでもないことを言い出した。
戻って来た風唯は、瓢宇に眼で確認する。
ビハークルの艦長は、うなづいた。
訳せば、「いつもこうなのか?」「通常運転だ」というものだった。
大体がして、第一皇女暗殺を依頼してくるような人物なのだ。
庶子として満足するような性格ではないのだ。
その性格は大胆だが陽性で嫌味がないところが良い部分でもあるが、だからこそある意味恐ろしい所ともいえた。
「あー、面白いね。あんたの国を造ってやんよ。その代わりそれ以外の全ては破壊する。あたしが存在を認めない。そのかわり、どんなになっても文句言うなよ?」
風唯は、暗い表情でニヤリとしていた。
彼女らは、行き場の無さで繋がっていた。
今更、そんなものを提供されようが、その手を逆に払いのけてやる気でいた。
利用された者、追放された者、認められなかった者。追い詰められた者、その共通認識は、現天乃原への憎悪であり、否定だった。
歪な絆が、彼女らを結んでいた。
「ついでだ。そういう事ならディスコルシアに対して一つ考えがある」
ディスプレイ群の中から、汽御離が言った。
ディスコルシア上層部は、騒然としていた。
「あんな廃棄物どもを優遇し過ぎだ!」
猛烈に会議場で吠えたのは、ディスコルシア騎士団副長の詩留師戒だった。
参加者は、彼の勢いに呑み込まれそうだった。
騎士団長の男も彼を止めようとする様子はない。
消極的でも賛成者は二つに分かれていた。
古き天乃原本来の住人であるディスコルシアの民としてのプライドか、ディスコルシア付近で起こった争いごとにことごとく勝利を収めているビハークルの矛先がこちらに向くのを恐れているか。
師戒は両方の意志の元に発言していた。
ただ、騎士団長と枢機卿が沈黙を保っているのは、汽御離の工作のためだった。
艦長は無表情で参謀達は、それぞれ複雑な表情をしている。
彼等は彼等で、騎士団長と枢機卿の斡旋によって端譜菜にそれぞれの地位を与えることを許可していたのだった。
空気は大半の事なかれ主義対過激な排除を主張する二派に別れていた。
庶子がビハークルにいるという問題もあった。
何度会議しても、この割れ方であり、結論もいつも同じだった。
様子を見て、また適切な時期に会議を開く。
今回も同じような終わり方をした。
師戒としては、不服である。
彼はディスコルシアに災難が起こることを危惧していた。
枢機卿の一人、歩仮は会議中彼を呼んで一時席を外した。
「今は、議題にあがっていることじゃないのですよ、副団長殿」
「……どういう?」
師戒にはまったく理解できないでいた。
「我らが敵、扶壬は死んだ。これが正しんだわけじゃないのです『否定されて死んだ』なのです。『偽りの預言者』であることを『否定されて』『予言者』となったのです」
「……馬鹿な!? そんな理屈が!?」
師戒は単純な男である。いきなりの言葉に付いていけなかった。
「予言者は、救世主を予言した。その救世主がどこかに現れたのです。これは枢機卿議会のメインシステムが指摘して発見しました」
「……どこかにいると言うのか、あなた方正教会が認めない救世主が?」
やっと、呑み込む。
歩仮はうなづいた。
苦々しく。
「我々は認めなかった。しかし、会議システムは明確に救世主と予言者の存在を認めました。これほど我々が苦しい立場になることは、今までにありませんでした。さらに、我が艦の司祭殺害の犯人は解導因子なのです」
「奴らか……どうするのです?」
「解導因子への対処は準備しております。ただ今は様子を見るのが一番です。我々の位置の再確認をするために。副騎士団長殿、あなたにはその間、時間を稼いでいただきたい」
「……具体的には?」
「表面、ビハークルの討伐を主張しながら、現状を維持するのです。我らの中にも予言者出現の話がでているのです」
一瞬、師戒は怒りを見せかけた。
彼は、端譜菜の皇女暗殺の思惑を確信していた。皇女自身からの相談もあった。だからこそ、その件を隠しつつビハークルの破壊を叫んでいたのだ。
「一時、時間を頂けませんか?」
決意にも似た表情をした彼に、歩仮はうなづいた。
憤怒を隠しつつ、師戒は宮殿の別の部屋に向かった。
歩仮は息をついた。
これでやりやすくなる。
「この前のという人物だが、これが実に興味深い」
汽御離が、寝転がったソファの風唯に言った。
「自分が予言者だとか言ってる頭のねじぶっ飛んだ害悪じゃないの? いい商売のネタになってたと思うけどね、売名の方法としては。自身も幸せそうだったし、そのまま死んでめでたしめでたしなと終わるんじゃねぇの?」
「緋於扶壬という人材派遣NPО法人阿藏のミッションだが、天乃原の原本登記に名なかった。ただ、登記はそこだけにあった。それ以外に存在そのものは確認が取れない」
「…あ?」
意味が解らなく、風唯は汽御離に顔を向けた。
「つまりだ。この前相手したやつは人間でもイマジロイドでもない。つまりは、結果論だが、扶壬という人物はアウトフレームだった可能性がある」
「……ほぅ」
言葉がなかった。
「でだ。ファルコで捕まえた大鎌をもったアウトフレームだが、アレも自律した機能を持っていた」
「関係あるってことか」
「統括機関のトップは緋於扶壬を名乗っていた。調べがいがあるぞ」
「何の関係あんだかわからねぇな。ここはゴミの天国だぜ?」
風唯は冷笑するだけだった。




