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【7/5 7AMに最終話投稿予定】追放された令嬢ですが、前世は料理人でした ~辺境で餌付けしていたら、冷徹な旦那様に溺愛されています~  作者: P作
第11章 動き出す影

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第97話 王都へ、再び

アスタリカの協力を取りつけ、わたくしたちは、いよいよ王都へと向かった。

レオハルトは、すぐに兵を動かすと言ってくれた。


けれど、わたくしは、それを丁重に断った。


「お気持ちは、ありがたいのですが。——いきなり他国の兵を王都に入れれば、それこそ宰相の思う壺。“やはり反乱だ”と、口実を与えてしまいます」


「……なるほど。道理だ」レオハルトは、頷いた。


「では、どうする」


「まずは、わたくしたちだけで王都へ。——堂々と、出頭命令に応じます」

「そして、宰相の企みを白日のもとに晒す。アスタリカの兵は、いざというときの切り札として。——どうか、国境で待機していてください」



王都への道中。


わたくしは、馬車の中で、これからの策を練っていた。

出頭命令の罠を、逆手に取る。


そのためには、宰相が王都のどこに、どんな形で根を張っているのか。

それを暴く必要がある。


「ティナ。——水鏡で、王都の様子を見られますか」


「やってみる」


ティナが、桶の水を覗き込む。

少女の力は、この旅の間にもぐんぐん伸びていた。


今では、かなり遠くの様子まで水鏡に映せる、ようになっている。


「……見える。大きな街。たくさんの人」ティナが、目を凝らす。


「でも……宮廷の奥のほう。黒いもやみたいなものが、かかってて。——よく、見えない」

「黒い、もや?」


「うん。何か、わざと見られないように隠してる感じ。——水鏡を弾く、力がある」



その言葉に、緊張を覚えた。


水鏡を弾く力。

——それは、滅びを望む者たちが使う術かもしれない。


鉱山でヴェルナーが持っていた、あの鏡の術具と、同じ系統の。

宮廷の奥に、それがあるということは。


やはり、王都の中枢に、敵の手の者が深く食い込んでいる。


「気をつけないと、いけませんね」皆に、告げた。


「敵は、わたくしたちの手の内を、ある程度読んでいる。ヴェルナーの襲撃で、こちらの力を測ったように。——油断は、禁物です」


「ああ」アルヴィスが頷いた。


「だが、こちらにも、切り札がある。——ティナの水鏡に、ダグの地の声。それに、お前の舌だ。向こうが隠そうとしても。——おれたちには、見える」


その言葉が、心強かった。



それに、と、わたくしは、もう一つの当てを、思い起こした。


王都には、味方がいる。


断罪の宴でともに戦った、人々。

宮廷料理長や、不正を憎む良識ある貴族たち。

かつて宰相の腐敗を暴いたとき、わたくしの料理に心を動かし、側に立ってくれた者は、決して少なくなかった。


「王都に着いたら、まず信頼できる方々と、連絡を取りましょう」皆に、告げた。


「宰相が、宮廷に、どれだけ手の者を、潜ませているか。それを、知る人が、いるはずです」


敵が、王国の権威を使うなら。

こちらは、王国の中の良心を味方につける。


力には、力で。


策には、策で。


そして、人の繋がりには——人の繋がりで応える。


ダグが、ぽつりと言った。


「なあ、セラさん。——あんた、すげえな。敵地のど真ん中に乗り込むってのに、ちっとも怖がってねえ」


「怖くない、と言えば嘘になります」わたくしは微笑んだ。


「でも、独りじゃない。——それだけで、人は、こんなにも強くなれるんです」



王都の城門が、見えてきた。

かつて、追放された令嬢として、惨めにこの門を出た。

そして、断罪の宴で汚名を雪ぎ、再びこの門をくぐった。


——今度は、三度目。


世界の滅びを企む者たちとの、決戦のために。


「……戻ってきました」わたくしは、城門を見上げて呟いた。


感慨が、こみ上げた。

けれど、恐れはない。


あの頃の無力な令嬢は、もう、いない。

今のわたくしには、愛する夫が、頼れる同志が、国を越えた盟友が、そして救ってきた神々の加護が、ある。


「行きましょう。——宰相の待つ、場所へ」



城門を、くぐる。

王都の賑わいは、相変わらずだった。


けれど、その華やかさの裏側で、静かに腐敗と陰謀が、進行している。


それを、わたくしは、肌で感じ取っていた。

行き交う人々は、誰も知らない。


この平穏な日常のすぐ裏で、世界の存亡を賭けた戦いが、始まろうとしていることを。


だからこそ、守らねばならない。


この、ささやかな賑わいを。

人々の、当たり前の暮らしを。


(……待っていなさい、宰相)


胸の内で、静かに闘志を燃やす。


あなたの仕掛けた罠。

——それを逆に利用して。


あなたと、その背後の闇を。

すべて、暴いてみせる。


馬車は、宮廷へと続く大通りを進んでいく。


決戦の舞台は、もう、目の前。

かつて、わたくしを捨てた、王都。


そこで、今、世界の運命を賭けた、新たな戦い。


——その火蓋が、いま、切られようとしていた。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

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