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【完結】追放された令嬢ですが、前世は料理人でした ~辺境で餌付けしていたら、冷徹な旦那様に溺愛されています~  作者: P作
第11章 動き出す影

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第95話 動き出す影

腹心ヴェルナーの襲撃を退けてから、半月。

ヴァルドは、平穏な日々を取り戻していた。


けれど、わたくしは警戒を緩めなかった。


あの襲撃は、こちらの力を量るための、小手調べ。

——宰相は、そう言い残して、去ったのだ。


あの狡猾な男が、得た知見を、使わないはずがない。

次の一手を、虎視眈々と狙っているはず。

その予感は、的中した。


ある日、王都から一通の書状が届いた。


差出人は——王国の、現宰相府。

内容は、ヴァルド辺境伯への、出頭命令だった。


「出頭命令……?」


書状を読んだアルヴィスの眉が、険しく寄った。



「“ヴァルド辺境伯が、不審なよそ者を匿い、私兵を蓄えている”」アルヴィスが、書状を読み上げた。

「“反乱の疑いあり。当主は、速やかに王都へ出頭し、釈明せよ”——だと」


「……仕組まれましたね」

わたくしは、すぐに気づいた。


ダグや、ティナを匿っていること。


村人たちが、自衛のために武装したこと。

——それらをねじ曲げ、「反乱の準備」と王都に讒言した者が、いる。


「宰相……あの男の仕業ですね」


腹心に力を試させた宰相は、今度は、武力ではなく、王国の権威を使って、わたくしたちを追い詰めようとしている。

ヴァルドの守りが固いと知ったからこそ、搦め手に、切り替えたのだ。


脱走したお尋ね者のはずなのに。

——王都のどこかに、まだ、奴に通じる者がいる。



「行けば、どうなる」ダグが、不安げに尋ねた。


「おそらく、罠です」

わたくしは答えた。


「出頭すれば、何かしらの罪をでっち上げられ、囚われる。——アルヴィス様を、ヴァルドから引き離すのが狙いでしょう」


当主が不在になれば、ヴァルドの守りは手薄になる。

その隙に、ダグや、ティナをさらう。


あるいは、ヴァルドそのものを潰す。

——宰相の描いた絵が、透けて見えた。


「では、出頭はしない」

アルヴィスが言った。

「だが、それはそれで、奴の思う壺だ。命令を無視すれば、本当に反逆者にされる」


応じても、応じなくても、不利。


——巧妙な罠だった。


さすが、長年、王国を裏から操ってきた男。


その狡猾さは、健在だった。



「気になるのは——なぜ、今なのか、です」


わたくしは、書状を見つめながら考えを巡らせた。

脱走した宰相が、王都の宰相府を動かせるはずがない。

表向きは、お尋ね者なのだから。


なのに、こうして、王国の正式な命令が届いた。


「つまり……王都の中枢に、宰相と通じている者がいる」アルヴィスが、低く言った。


「あるいは、宰相の背後の、“より大きな意志”とやらが。——王国そのものを動かす力を、持っているということか」


その推測に、背筋が冷えた。

もし、そうなら。

敵は、もはや、一人の脱走宰相ではない。


王国の深部にまで根を張った、巨大な影。

それが、ヴァルドを——いや、神の声を聞く者たちを、潰そうと動き出している。


「だからこそ、行くべきです」

決意を、固めた。

「王都へ赴き、敵の正体を見極める。——奴らが、どこまで王国を蝕んでいるのか。この目で、確かめなければ」



「いいえ。——出頭、しましょう」


わたくしは、皆を見回して言った。

その言葉に、一同が驚く。


「セラ様!?」


「ただし、罠と知った上で、です」わたくしは微笑んだ。


「相手が、王国の権威を使うなら。——こちらも、正面から堂々と受けて立ちます。やましいことは、何もないのですから」


「だが」アルヴィスが、眉を寄せた。


「相手の狙いは、おれをヴァルドから引き離すことだ。手薄になった隙に、ティナたちをさらうつもりかもしれん。——みすみす、乗ってよいのか」


「もちろん、ただ乗るわけでは、ありません」

声を、潜めた。


「出立の前に、手を打ちます。——ヴァルドの留守は、信頼できる者と近隣の友邦に、守りを固めてもらう。そして、アスタリカのレオハルト陛下とガルム将軍に、使いを。万一、王都で孤立したときの、後ろ盾になってもらうのです」


それに、と、わたくしは続けた。


「王都には、味方もいます。この出頭命令が、宰相の差し金だと証明できれば。——逆に、奴の王都での足場を、暴いて潰せる」


ただ無防備に、罠へ飛び込むのではない。


退路と後ろ盾を、いくつも仕込んだ上で、あえて、敵の土俵に乗り込む。


——そこで、勝つ。


それが、わたくしの出した答えだった。

「面白い」

アルヴィスが、口の端を上げた。


「保険を、いくつも握った上で、敵の誘いに乗ると見せかけて。——逆に、罠に嵌めるか」


「ええ。——わたくしたちには、それだけの力が、あります」


ティナとダグも、力強く頷いた。

宿場町で出会った頃の、怯えた少女も。

鉱山で嘘つきと罵られた青年も。

今は、頼もしい戦力だった。



王都へ向かう準備を進めながら。

わたくしは、ふと、あることに思い至った。

王都での戦いになれば、心強い味方がいる。


かつて、敵国でともに戦った、あの人たち。


料理が繋いだ絆。

——国を越えた、その縁が、きっと力になる。


「アルヴィス様。——王都へ行く前に。少し、寄り道をしてもいいですか」


「どこへ、行くつもりだ」


「味方を、集めに」

わたくしは微笑んだ。


「敵が徒党を組むなら。——こちらも、絆を結集します」


脳裏に、浮かぶ顔があった。


かつて、敵国アスタリカで、ともに火の神と戦った、若き王レオハルト。


そして、料理で心を通わせた、ガルム将軍。


彼らとは、国を越えた固い絆で結ばれている。

——あの縁が、今こそ力になる。


「アスタリカへ?」アルヴィスが、察した。


「だが、王都へ向かうには、遠回りに、なるぞ」


「ええ。でも、急がば回れ、です」


わたくしは頷いた。


「一人で敵の懐に飛び込むより。確かな味方を得てから挑むほうが、ずっといい。——それに、レオハルト陛下なら、きっと力を貸してくれます」


料理が繋いだ絆は、国境も損得も越える。


かつて敵だった国が、今では、最も頼れる盟友。

——それは、わたくしが、ひと皿ずつ積み上げてきた、何よりの財産だった。


宰相の、新たな策謀。


それを迎え撃つため、わたくしたちは、再び動き出した。


——今度は、これまで結んできた、すべての縁を、力に変えて。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

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