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【7/5 7AMに最終話投稿予定】追放された令嬢ですが、前世は料理人でした ~辺境で餌付けしていたら、冷徹な旦那様に溺愛されています~  作者: P作
第10章 集う、声たち

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第94話 集いし、声たち

ヴェルナーの襲撃を退けた、数日後。


ヴァルドは、表向き平穏を取り戻していた。

けれど、わたくしの胸には、宰相の言葉が、澱のように重く残り続けていた。


——わしも、ただの駒。わしの上に、もっと大きな意志がある、と。

それに、あの襲撃が、こちらの力を量る、ただの小手調べだったという事実も。


敵は、次の手を必ず打ってくる。


その夜。

わたくしは、アルヴィス、ティナ、ダグを書斎に集めた。


「みんなに、改めて、話しておきたいことがあります」


机の上に、五つの珠を並べ、地図を呼び出す。

空中に、世界の像が浮かび上がった。


救った神々の、穏やかな光。

残る、赤黒い光点。

そして——点在する、白い光。



「これが、わたくしたちの戦いの、全体像です」


わたくしは、皆に、これまでの真実を語った。


原初の神“あのお方”の、絶望と眠り。

世界の滅びを止める、神の舌の使命。

そして——その使命を阻しようとする、滅びを望む者たち。


あの宰相でさえ、その駒の一つにすぎないこと。


「つまり……俺たちは」


ダグが、ごくりと唾をのんだ。


「世界の滅亡を止める戦いを、してるってことか」


「ええ」


わたくしは頷いた。


「途方もない話に、聞こえるかもしれません。

——でも、わたくしたちには、できることがある。

神々を、一柱ずつ救い、人と繋ぎ直す。そして、同じ力を持つ仲間を集める。

——そうやって、滅びの流れに抗うんです」


ティナとダグは、しばらく黙って地図を見つめていた。

あまりに大きな運命。


けれど、二人の目に、恐れはなかった。



「わたし、やる」


ティナが、まず口を開いた。


「セラ様が、わたしを救ってくれた。今度は、わたしが誰かを救いたい。

——この力で。世界のために」


「俺もだ」


ダグが続いた。


「ずっと厄介者だった、この力が。世界を救う力になるなら。

——使わない手は、ねえ。あんたたちと、一緒に戦うよ」


二人の力強い言葉に、胸が熱くなった。


かつて孤独に苦しんでいた、子どもたち。

それが今、確かな意志を持って、同じ道を歩もうとしている。


「ありがとう。——心強いです」


微笑んだ。


「でも、無理はしないでください。あなたたちは、まだ若い。

——戦うことだけが、役目ではありません。

あなたたちが、笑って暮らせること。それも、わたくしたちが守りたい、世界の形なんですから」



「それに——仲間は、まだ増えます」


わたくしは、地図の白い光を指さした。

点在する、いくつものささやかな光。


「世界には、まだ、神の声を聞く者たちがいます。ティナや、ダグのように。

孤独に苦しみ、自分の力を持て余している、誰かが。

——その人たちを、一人ずつ迎えに行きましょう」


それは、滅びを望む者たちとの競争でも、あった。

奴らが“器”として確保する前に。


わたくしたちが、先にたどり着き、仲間として迎え入れる。

——救いの手を、差し伸べる。


「集めましょう。世界中の、声たちを」


皆を見回した。


「ばらばらだった声を、一つに。

——いつか、その力が結集したとき。きっと、“あのお方”の絶望さえ解く、鍵になる」


アルヴィスが、頷いた。


「ああ。——壮大な旅に、なりそうだ。だが」


彼は、ふっと口元を緩めた。


「お前と一緒なら。退屈は、しなさそうだ」


その言葉に、皆が笑った。

張りつめていた空気が、ふっと和らぐ。


ティナとダグが、明日の打ち合わせをしながら書斎を出ていく。

二人の背中は、もう、出会った頃の怯えたものではない。


確かな居場所と役目を得た者の、頼もしさが宿っていた。



二人を見送ったあと。

アルヴィスが、わたくしの隣に立った。


「お前は、また、背負うものを増やしたな」


彼が、静かに言った。

けれど、その声に、咎める響きはなかった。


むしろ、いとおしむような響き。


「ええ」


わたくしは頷いた。


「でも、不思議と軽いんです。

——一人で背負っていた頃より、ずっと」


仲間がいる。分かち合える者がいる。

だから、どんなに大きな運命も、もう怖くはない。


「お前は、強くなった」


アルヴィスが、わたくしの髪をそっと撫でた。


「初めて会った、あの日。馬車から降りてきた、青ざめた令嬢が。

——まさか、世界を救う女になるとはな」


「あなたが、隣にいてくれたからです」


彼を見上げて、微笑んだ。


「これからも。——どこまでも、一緒に」


「ああ。——二人で。いや」


アルヴィスが、書斎の扉の向こう、仲間たちの気配のするほうへ目をやった。


「みんなで、だ」


その言葉が、何より嬉しかった。


冷たかった、氷の死神。

それが今、こんなにも、たくさんの温もりに囲まれている。

——わたくしの料理が変えた、世界の、ささやかで確かな、一つの形だった。



窓の外には、満天の星。


その一つ一つが、まるで地図の白い光のように瞬いている。

世界のどこかで、孤独に声を聞いている、まだ見ぬ仲間たち。


——待っていてください。必ず、迎えに行きますから。


「さあ。——明日からも、一歩ずつ」


わたくしは、五つの珠を握りしめた。

味、潤い、水、火、風。救ってきた神々の加護。


そして、集いはじめた、声を聞く仲間たち。

ヴァルドという、あたたかい帰る場所。


すべては、ひと皿の料理から始まった。

痩せた辺境を実らせ、凍った心を溶かし、孤独な魂を救い。


——その小さな優しさの積み重ねが、今、世界を救う大きなうねりに、なろうとしている。


まだ見ぬ仲間のもとへ。

まだ見ぬ神のもとへ。

そして、いつか——世界の運命を分かつ、“あのお方”のもとへ。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

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