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【7/5 7AMに最終話投稿予定】追放された令嬢ですが、前世は料理人でした ~辺境で餌付けしていたら、冷徹な旦那様に溺愛されています~  作者: P作
第10章 集う、声たち

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第90話 地を読む仲間

捕らえた、黒ずくめの男たちを、どうするか。


わたくしたちは、まず、彼らを鉱山町の自警団に引き渡すことにした。

坑道荒らしや、人さらいの咎で。


けれど、その前に——一人だけ、別に、話を聞くことにした。

指揮を執っていた、あの先頭の男から。


「お前たちの目的は、何です」


縛られた男に、問う。


「“器”とは、何のこと?

誰の命令で、動いている?」


男は、しばらく黙していた。

けれど、やがて嗤った。


「……無駄だ。我らは、何も語らん。

だが、ひとつだけ、教えてやろう」


男の目が、昏く光った。


「お前たちが、どれだけあがいても。

——“あのお方”が目覚めれば、すべて終わる。我らは、その露払いにすぎん」



“あのお方”。

——その言葉に、わたくしは、確信した。


やはり、この者たちも、世界の滅びを望む者たちの一味。

各国の野心家と、同じ流れの中にいる。


神の声を聞く者を付け狙い、その知識を葬り、あるいは利用しようとする。

——すべては繋がっている。


「お前たちの頭目は、誰です」


わたくしは、なおも問うた。


けれど、男は、もう口を開かった。

ただ、不気味な笑みを浮かべるだけ。

それ以上は、何を聞いても無駄だった。


「……いいでしょう」


わたくしは、立ち上がった。


「いずれ、その頭目とも相まみえることになる。

——そのときは、必ず、あなたたちの企みを暴いてみせます」


捕らえた男たちは、自警団の牢へと送られた。

けれど、その背後に潜む、巨大な影の存在を。

わたくしは、改めて肌で感じていた。



数日後。

坑道の危機が、町を襲った。


ダグが、かねて警告していた、あのもろい区画。

そこが、ついに崩落しかけたのだ。


坑道の中には、まだ数人の鉱夫が取り残されている。


「みんな、逃げろ! その区画は、もうもたない!」


ダグが、坑道の入り口で叫んだ。

けれど、煤に汚れた鉱夫たちは半信半疑だった。

これまで、ずっと、彼の言葉を信じてこなかったのだから。


「ダグさんの言うとおりです!」


わたくしは、前に出た。


「わたくしは、ヴァルド辺境伯の妻、セレスティア。

——彼の力は、本物です。今すぐ、坑道から離れてください!」


よその土地の、それも辺境伯夫人という肩書き。

その言葉に、鉱夫たちは、ようやく動いた。


半信半疑のまま、けれど、急いで坑道から退避していく。



その直後だった。


轟音とともに、坑道の奥が崩れ落ちた。

土煙が、立ち込める。


——もし、退避が少しでも遅れていたら。

間違いなく、大勢の死者が出ていた。


「……間に合った」


ダグが、へなへなと座り込んだ。


鉱夫たちは、呆然と崩れた坑道を見つめていた。

そして——気づいたのだ。


ダグの警告が、本物だったこと。

彼の力が、自分たちの命を救ったことに。


「ダグ……お前、本当に聞こえてたのか。地面の、声が」

「俺たちは……お前を、ずっと嘘つきだと……すまなかった」


鉱夫たちが、口々に詫びた。


長年、気味悪がられ罵られてきたダグに。

初めて、感謝と謝罪の言葉が、向けられた。


ダグの目に、涙があふれた。

長く欲しかった言葉が、ようやく、届いたのだ。



「……これで、いいのか」


旅立ちの朝。

ダグは、生まれ育った鉱山町を振り返った。


「ようやく、みんなに認めてもらえたのに。——出て、いって」


「あなたの力は、もっと大きなことのために必要なんです」


わたくしは言った。


「でも、いつでも帰ってこられます。

——ここは、あなたの故郷ですから」


ダグは、頷いた。

その顔に、もう迷いはなかった。


町の人々に見送られ、わたくしたちは、ヴァルドへの帰路に就いた。

三人目の仲間を、連れて。


「ヴァルドって、どんなところだ?」


ダグが、尋ねた。


「あたたかいところです」


ティナが、先輩風を吹かせて答えた。


「みんな優しくて。セラ様のご飯が、すごくおいしくて。

——きっと、ダグも好きになる」


そのやりとりに、わたくしは、微笑んだ。

救われた者が、また次の誰かを迎え入れる。

優しさの輪が、また一つ、広がっていく。



数日の旅を経て、一行は、ヴァルドへ帰り着いた。


ティナの言ったとおりだった。

セバスも村人たちも、新しい仲間を、あたたかく迎えてくれた。


無骨で人見知りのダグは、最初こそ戸惑っていたが——その夜、わたくしの作った料理を口にして、すべての警戒を解いた。


鉱山の硬い乾物しか知らなかった彼の前に並んだのは、ヴァルドの恵みをふんだんに使った、あたたかな食卓だった。


煮込みの湯気。焼きたてのパン。とろけるチーズ。

——ダグは、最初のひと口で、目を見開いた。


「……なんだ、これ」


ごつい手で椀を握ったまま、ダグが、呆然と呟いた。


「この野菜……土の、声がする。

豊かな土に、たっぷり根を張って育った……生命の、声だ。

鉱山の、痩せた土とは、まるで、違う。

——こんな、力強い“声”を持った食いもん、俺は、知らねえ」


地の声を聞く彼には、ただ美味しいだけではなかった。

その一皿から、ヴァルドの肥沃な大地が育んだ、生命の力そのものが流れ込んでくるのだ。


痩せた鉱山で生きてきた青年にとって、それは衝撃だった。

豊かな土地が、豊かな実りを生み、豊かな味になる。

——その当たり前の幸福を、彼は、生まれて初めて舌で知ったのだ。


ごつい肩を震わせながら、ダグは、夢中で料理を頬張った。

煤と孤独の日々ですり減っていた心が、あたたかい一皿でほどけていく。


それは、ティナのときと、同じ光景だった。


「これからは、毎日食べられますよ」


わたくしが言うと、ダグは、くしゃりと顔を歪めて笑った。



胸元の、五つの珠が、応えるように淡く光った。

仲間を集める旅は、着実に、実を結びはじめていた。


地の声を聞くダグ。

生き物の声を聞くティナ。

そして、食材の声を聞く、わたくし。


——少しずつ、けれど確かに、世界の声を聞く者たちが、ヴァルドに集いはじめている。


「いつか、この子たちと一緒に。

——“あのお方”のもとへ、たどり着けるのかもしれませんね」


その夜。

わたくしは、隣のアルヴィスに、そっと呟いた。


「ああ」


アルヴィスは、頷いた。


「だが、焦りは禁物だ。

——一人ずつ、確かに繋いでいけばいい。お前の、料理が、そうしてきたように」


その言葉に、胸が温かくなる。

一人ずつ、確かに。

——そうやって、わたくしたちは進んでいく。


けれど、ふと、胸の奥で、小さな警鐘が鳴った。


神の声を聞く者が一所に集うということは、それを狙う者たちにとっても、格好の的になるということ。

——あたたかな食卓のすぐ外側で、冷たい歯車が回りはじめている。


そんな嫌な予感が、拭えなかった。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

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