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【7/5 7AMに最終話投稿予定】追放された令嬢ですが、前世は料理人でした ~辺境で餌付けしていたら、冷徹な旦那様に溺愛されています~  作者: P作
第10章 集う、声たち

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第89話 声を合わせて

黒ずくめの男たちが、じりじりと間合いを詰めてくる。


廃坑を背にした、わたくしたち。

前方には四人、退路にも一人。

アルヴィスが剣を構え、わたくしとティナとダグを、背に庇う。


「無駄な抵抗はやめろ」


先頭の男が、冷たく言った。


「我らの目的は、その小僧だけだ。

——大人しく渡せば、女子供には手を出さん」


「お断りします」


きっぱりと、答えた。


「ダグさんは、わたくしたちの仲間。

——指一本、触れさせません」


男の目が、すっと細くなった。


「……ならば、まとめて始末するまで」


男たちが、一斉に得物を振りかざし、襲いかかってきた。



アルヴィスが、前に躍り出た。


「氷の死神」の異名は、伊達ではない。

襲い来る刃を、最小限の動きでいなし、打ち払う。

一人、また一人と、その剣の前に倒れていく。


けれど、敵は五人。

一人ですべてを抑えるのは難しい。


男の一人が、アルヴィスの脇をすり抜け、ダグへと迫った。


「ダグさん!」


そのとき。


「——右の足場! 崩れるぞ!」


叫んだのは、ダグだった。


地の声を聞く彼には分かったのだ。

男が踏み込もうとした、その地面が——もろい廃坑の坑口の上だと。


次の瞬間。

男の足元の地面が崩落した。


「うわっ!?」


男は体勢を崩し、穴へと転げ落ちる。

ダグの警告のおかげだった。


「すごい……! ダグさんの力が、戦いに!」


ティナが、目を見開いた。



「ティナ! あなたも、力を貸して!」


「う、うん!」


ティナは、水鏡を覗き込み、必死に意識を集中させた。

生き物の声を聞く力。それを今、敵の動きを読むために使う。


「セラ様! 左から二人! 回り込んでくる!」


水鏡は、近くの小動物や鳥の目を通して、死角の敵の動きまで捉えていた。

ティナの声で、わたくしたちは、見えない位置からの襲撃を、ことごとくかわせた。


「なん、だと……!?」


敵が、動揺する。

死角を突いたはずの攻撃が、ことごとく読まれている。


地の声で足場を読み、水鏡で死角を読む。

——二人の力が、アルヴィスの剣を強力に支えていた。


「ダグさん、ティナ! 二人とも、声を出し続けて! わたくしが、最善の手に繋ぎます!」


そこからの攻防は、まるで、ひとつの流れるような舞のようだった。


「セラ様、右奥! 岩陰から、一人、弓を構えてる!」


ティナの水鏡が、まず、死角の伏兵を捉える。


その情報を、瞬時に、戦術へと翻訳する。

射手を討つには、距離がある。

ならば——誘い込む。


「アルヴィス様! その射手を、左の、崩れかけた坑口へ追って!」


アルヴィスが、地を蹴った。

射手に的を絞らせぬ鋭い斬撃で、じりじりと、狙った一点へ追い詰めていく。


射手は、後ずさり、やがて、わたくしの示した坑口の上へと、足を踏み入れた。


「ダグさん、——今!」


「おう!」


ダグが、その一点に、力を込める。

次の瞬間、射手の足元が、ごっそりと崩落した。


「ぐああっ!?」


悲鳴とともに、敵が、穴へと、消える。


予知し、翻訳し、誘導し、崩す。

——四人の力が、寸分の狂いもなく噛み合い、一人また一人と、敵を確実に無力化していった。


「ば、化け物どもめ……!」


男たちの余裕が、みるみる剥がれ落ちていった。

圧倒的に不利なはずだった、四対五。それが、いつのまにか逆転している。


連携が生み出す力。

それは、個々の強さの単なる足し算では、なかった。



けれど、それでも、敵は手練だった。


先頭の男が、低く身を屈め、わたくしへとまっすぐ突進してきた。

アルヴィスは、別の敵と斬り結んでいる。

ティナの警告も間に合わない。

——速い。


(……でも)


わたくしは、慌てなかった。


とっさに、手にしていた調理用の香辛料の包みを、思い切り男の顔めがけて投げつけた。


ぶわっ、と舞い上がる、刺激の強い香辛料の粉。

アスタリカでもらった、火の山の激辛の香辛料だ。


「ぐあっ!? め、目が……!」


男が、顔を覆い悶絶する。

料理人の、とっさの機転だった。食材は、時に武器にもなる。


その隙に、アルヴィスが踏み込み、男を当て身で昏倒させた。



最後の一人が倒れたとき。

廃坑の前には、静寂が戻っていた。


黒ずくめの男たちは、皆、地に伏している。

誰一人として欠けることなく、わたくしたちは危機を切り抜けたのだ。


「……勝った。俺たちの、力で」


ダグが、信じられない、という顔で呟いた。


ずっと厄介者だと笑われてきた、地の声。

それが今、確かに誰かの役に立った。仲間を守る力になった。

——その事実が、彼の胸を熱くしているのが分かった。


「ええ。——あなたの力が、わたくしたちを救ったんです」


微笑んだ。


「一人ではできないことも、力を合わせればできる。

——これが、仲間がいる、ということです」


ダグの目に、再び涙がにじんだ。

けれど、それは、もう孤独の涙ではなかった。



「だが、これで、終わりとは思えませんね」


倒れた男たちを縄で縛りながら、わたくしは、表情を引き締めた。


この者たちは、あくまで手駒。

背後で糸を引く者が、必ずいるはずだ。


神の声を聞く者を「器」と呼び付け狙う、滅びを望む者たち。

その正体に、いつか迫らねばならない。


「ダグさん。——よかったら、わたくしたちと、共に来ませんか」


わたくしは、彼に、手を差し伸べた。


「あなたの力は、世界を救う大切な力です。

ヴァルドには、あなたを化け物だなんて言う人は、一人もいません。

——もう、独りで苦しまなくて、いいんです」


ダグは、わたくしの手と、ティナの笑顔を交互に見て。

そして、ゆっくりと、力強くその手を握り返した。


迫る影を、初めて皆で撥ね返した。

——仲間を集める旅の最初の試練を、わたくしたちは、確かに乗り越えたのだ。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

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