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追放された令嬢ですが、前世は料理人でした ~辺境で餌付けしていたら、冷徹な旦那様に溺愛されています~  作者: P作
第4章 断罪の宴

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第41話 名誉と、約束

宰相の失脚は王都を大きく揺るがした。


長年宮廷に巣食っていた腐敗は、芋づる式に暴かれていった。

料理長は横流しの罪で捕らえられた。


バルトロス商会は不正な取引と毒物の供給に関与した咎で、その資産をすべて王家に没収された。

——辺境で、王都でわたくしたちを苦しめたあの巨大商会は、こうして跡形もなく崩れ去った。


ミレーユは王太子妃の座を剥奪された。

王の暗殺に加担した罪は重く、生涯、辺境の修道院で贖罪の日々を送ることになったという。


そして、王太子オルランドは。


「……廃嫡、ですか」


報せを聞いて、わたくしは思わず呟いた。


国王は人を見る目のない軽率な息子に、王位を継がせることを断念したのだ。

オルランドは王太子の地位を退き、地方の小さな領地の管理を任されることになった。


かつてこの国の頂点に立つはずだった男の、あまりに寂しい末路だった。


因果は巡る。

わたくしをすべてを持っていた立場から辺境へ突き落とした、あの日。


——その報いが今、彼自身に返ってきた。



数日後。

わたくしとアルヴィスは、改めて国王の御前に召された。


正式な名誉回復と、論功行賞のためだ。

広間には諸侯が居並んでいる。


けれど、その視線はもうかつての侮りではなかった。

畏敬と感謝の眼差しだった。


「辺境伯アルヴィス。ならびに、その妻セレスティア」


国王の朗々とした声が響いた。


「両名は私欲なくこの国の危機を救った。

その忠義と功績は計り知れぬ。


——よって、辺境伯領ヴァルドに新たな領土と特権を与える。

今後、ヴァルドの産物は王家がその品質を保証しよう。


王都での商いも、何人たりとも妨げてはならぬ」


それは破格の恩賞だった。

バルトロス商会のような妨害は、もう二度と起こらない。


ヴァルドの豊かさは王家のお墨付きを得て、さらに大きく羽ばたいていくだろう。


「ありがたき幸せに存じます」


アルヴィスとともに深く礼をする。


「そして、セレスティア」


国王の声がふとやわらかくなった。


「そなたには特に伝えたいことがある。

——そなたの料理は、ただ美味いだけではない。


人を想い、人を生かす、まことの“心”がこもっている。

そなたは料理を通じて、この国に忘れられていた大切なものを思い出させてくれた。


……礼を言う。

そしてこれからもどうか、その手で多くの者を笑顔にしてやってくれ」


「——はい。必ず」


わたくしは万感の思いを込めて頷いた。


役立たずと笑われた《美食家の舌》。

ハズレと蔑まれた、その力が。


今、一国の王に認められ、感謝されている。

胸がいっぱいだった。



すべての儀式が終わり。

わたくしとアルヴィスは王宮の静かな庭園に、二人きりで佇んでいた。


「……長い戦いだったな」


アルヴィスがしみじみと言った。


「ええ。本当に」


わたくしは頷いた。

婚約破棄から始まって。


辺境の再建、商会との戦い、王都の陰謀。

——振り返れば嵐のような日々だった。


ふと、出会った日のことがよみがえる。


「……覚えていますか?

わたくしがヴァルドに来た最初の日。


あなた、厨房に立つわたくしを見て『誰の許しを得て私の厨房に立っている』と。

あの凍るような声。


——わたくし、内心ずいぶん怖がっていたんですよ」


「……すまなかったな」


アルヴィスがばつが悪そうに目を逸らす。

その仕草がおかしくて、わたくしはくすりと笑った。


「いいえ。でもあのときわたくし思ったんです。

この人の凍りついた心を料理で溶かしてみせる、って。


——まさか本当にこんな日が来るなんて」


あの日、笑うことすら忘れていた男が。

今、わたくしの隣で穏やかな顔をして立っている。


あの日、ただ寒くて貧しかった辺境が。

今、人々の笑い声に満ちている。


奇跡みたいだ、と思う。

けれど、それは奇跡なんかじゃない。


一皿、また一皿と。

一人、また一人と。


地道に積み重ねてきた、その果てに辿り着いた確かな場所だ。


「だが」


アルヴィスがわたくしの方を向いた。


「おれはあの日——お前がヴァルドに来てくれた日を生涯忘れない。

お前が来てくれたから、おれの凍りついた人生は動き出した。


土地も心も、すべて」


彼はわたくしの手をそっと取った。


「セラ、改めて言わせてくれ。

——おれの妻でいてくれてありがとう。


そしてこれからも。ずっとおれの隣にいてほしい」


まっすぐなその言葉に、胸が震えた。


政略で結ばれた夫婦だった。最悪の始まりだった。

けれどいつの間にか、わたくしたちはこんなにも深く互いを想い合っている。


「……はい、喜んで」


わたくしは涙ぐみながら微笑んだ。


「わたくしもあなたと出会えて本当に幸せです。

これからもずっと——あなたの隣で、美味しいものを作らせてください」


穏やかな風が庭園を吹き抜けていく。


捨てられた令嬢と、氷の死神。

最悪の出会いから始まった二人は今、誰よりも固い絆で結ばれていた。


長い王都での戦いは——

こうして、幸福な約束とともに幕を閉じたのだった。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

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