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追放された令嬢ですが、前世は料理人でした ~辺境で餌付けしていたら、冷徹な旦那様に溺愛されています~  作者: P作
第4章 断罪の宴

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第38話 断罪の宴(前編)

国王の快復を祝う宴は、王宮の大広間で盛大に催された。


居並ぶ諸侯と貴婦人。

きらびやかな料理と酒。


その中心で玉座に座す国王は——

薬湯を断ってからの日々で、見違えるほど生気を取り戻していた。


頬に血の気が戻り、目には力が宿っている。


その傍らには宰相が控えていた。

穏やかな笑みの裏で、すべてが自分の思惑どおりに進んでいると確信している顔。


逆賊の辺境伯夫妻は捕らえた。

あとは頃合いを見て処分するだけ。


——そう高を括っているのだろう。


けれど、その宴の席にひとつの“異物”が紛れ込んでいた。



給仕の列にまぎれて。

ロイとティムが命がけで運び込んだ一皿の料理が、国王の御前へと供された。


素朴な、けれど滋味あふれる煮込み。

——あの夜、わたくしが国王に振る舞い、王が涙したあの味。


国王が何気なくそれを口に運んだ、その瞬間。


「……っ」


王の動きが止まった。


見開かれた目。震える手。

——その味を、王は決して忘れていなかった。


「……この味は。この味はあの夜の——辺境伯夫人の料理ではないか」


王の声が、ざわめく広間に低く響いた。


「なぜこの味がここに。

あの料理人は——セレスティアは今、どこにいる」


その問いに、給仕は答えられない。

広間がにわかにざわつきはじめた。


宰相の顔からすっと笑みが消える。



「……陛下」


進み出たのは、味方となったあの老侯爵だった。

彼は深く礼をして、まっすぐに国王を見上げた。


「畏れながら申し上げます。

辺境伯夫人セレスティア様は——謀反の疑いをかけられ、現在塔に幽閉されておられます」


「なんだと?」


国王の目つきが変わった。


「謀反だと?

あの、料理でこの国の食を憂え、余の体まで案じてくれた女が?


——ありえぬ。いったい誰がそのような疑いを」


そのとき。

広間の扉が大きく開かれた。


なだれ込んできたのは——マルクをはじめとする、宮廷を追われた料理人たち。

そしてその背後には、長い道のりを越えてきた辺境ヴァルドの民の姿が。


疲れ果て、埃にまみれながらも、その目には確かな決意を宿して。


「陛下! どうかお聞きください!」


マルクが床に膝をついた。


「セレスティア様は謀反人などではありません!

あの方は腐敗した宮廷の食を正そうとし——


そして、その腐敗の真の元凶を暴こうとしたために罠にはめられたのです!」


続いて、辺境の老漁師が震える声を振り絞った。


「おらたちは辺境ヴァルドの者です!

奥方様は飢えていたおらたちの村を救ってくださった恩人だ!


あの方が謀反人なわけがねえ!

どうか、どうか信じてくだせえ!」


民の必死の訴え。

それはどんな美辞麗句よりも王の心を打った。



「……ほう。これはこれは」


凍りつく空気を破ったのは、宰相の冷ややかな声だった。


「陛下、お惑わされてはなりませぬ。

これは逆賊の一味による悪あがき。


料理人風情と辺境の民を使った、見え透いた芝居にございます。

——セレスティアの罪状は明白。


兵糧の備蓄、武具の調達、諸侯との不穏な書簡。

すべて動かぬ証拠が——」


「その証拠とやら」


凛と響いた声が、宰相を遮った。


広間中の視線が声の主へと集まる。

——大広間の入り口に。


凛と背筋を伸ばし、立っていたのは、


塔に幽閉されていたはずの——わたくし、セレスティアその人だった。


宴の喧騒、料理が王の御前へ届いたことを、ロイとティムが合図で知らせてくれた。


王がわたくしの存在に気づき、広間がざわめき出したその混乱の隙に、二人は命を賭して塔の鍵を開け、わたくしをここまで逃がしてくれたのだ。


「——よくもここまで」


宰相の穏やかな仮面が、初めてはっきりと剥がれた。

その目に隠しきれない焦りと憎悪が滲む。


わたくしはその視線をまっすぐに受け止めながら、一歩、また一歩と広間の中央へ進んでいった。


諸侯の驚愕の視線。民のすがるような眼差し。

そして玉座の国王のまっすぐな瞳。


——すべてがわたくしに注がれる。


逃げも隠れもしない。これがわたくしの選んだ戦い。


宰相が整えたわたくしを葬るための“舞台”は、今、宰相自身を断罪する場へと——変わろうとしていた。


「その証拠とやらが、いかに捻じ曲げられたものか。

陛下の御前ですべて明らかにいたしましょう。


——宰相閣下」


わたくしはまっすぐに宰相を見据えた。


「あなたがこの国に何をしてきたのか。

——一つ残らず白日のもとに晒させていただきます」

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