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追放された令嬢ですが、前世は料理人でした ~辺境で餌付けしていたら、冷徹な旦那様に溺愛されています~  作者: P作
第4章 断罪の宴

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第37話 塔から放つ一手

塔の中で、わたくしは見張りの兵士たちとすっかり打ち解けていた。


毎日のささやかな料理。

それを通じて、二人の若い兵士——ロイとティムは、もうわたくしを囚人としてではなく、一人の信頼できる人として見てくれるようになっていた。


「奥方様、今日も何か作ってくれるのかい?」

「ああ、あんたの料理を食うのだけが、この退屈な見張りの楽しみでよ」


人懐っこい笑顔。

——けれどわたくしはただ料理を振る舞っていたわけではなかった。


少しずつ彼らとの会話の中で、知りたいことを聞き出していたのだ。


宰相の動向。宮廷の様子。

そして——わたくしを救い出すために外で誰かが動いている気配はないか。



そしてある日。

ティムが声を潜めて、こんなことを教えてくれた。


「……奥方様、妙な噂を聞いたぜ。

なんでも、辺境の連中が大挙して王都に向かってるらしい。


あんたの無実を訴えるためだ、とか。何百人もの村人がよ」


胸が熱くなった。

——皆が来てくれている。蒔いた種は確かに芽吹いていた。


「それから、宮廷でもおかしな動きがある。

宮廷を追われたはずの料理人たちや、何人かの貴族様がこそこそと集まってるって話だ。


宰相様はそれを潰そうと躍起になってるらしいが……」


「……そう、ですか」


外の味方たち。

けれどわたくしはここで、はっと気づいた。


このままではいけない。

皆がばらばらに動いては、宰相に各個撃破されてしまう。


辺境の民の嘆願も、料理人たちの証言も、貴族の連携も——

それらがひとつに束ねられ、決定的な瞬間に一斉に放たれなければ、宰相という巨大な相手には届かない。


(……必要なのは合図。すべてをひとつにする舞台と、合図)



わたくしは考えを巡らせた。

塔の中から外の味方たちとどうやって連携するか。どうやって決戦の舞台を整えるか。


そして——その答えはわたくしのいちばんの“武器”の中にあった。


「ロイ。ティム。——ひとつ、お願いがあります」


わたくしは二人の兵士にまっすぐ向き合った。


「近く、陛下の快復を祝う宴が開かれますね。

その宴に、わたくしの作った料理を——一品だけ紛れ込ませていただけませんか」


「な……っ、そんなこと! ばれたらおれたちが——」


「大丈夫。決して迷惑はかけません。ただの料理です。

毒など入っていないことは、あなた方がいちばん知っているでしょう?」


わたくしは微笑んだ。


「その料理をひと口食べていただければ、きっと陛下は——わたくしの存在に気づいてくださる。

そして宮廷で何かが動き出す。——それだけでいいんです」


それは賭けだった。

けれど勝算はあった。


国王はわたくしの料理の味を知っている。

あの、涙したひと皿の味を。


同じ味の料理が宴の席に現れれば、国王は必ず思い出す。

『あの料理人はどこへ行った』と。


そして——わたくしが捕らえられていることと、その料理が結びついたとき。

聡明なあの王なら、この茶番の“異常さ”に気づくはずだ。


塔の中からでも料理は放てる。

それはわたくしにしか撃てない一手だった。



ロイとティムはしばらく迷っていた。

それも当然だった。


わたくしはこの二人に命の危険を負わせようとしている。

ばれれば宰相は容赦なく、この若者たちを罰するだろう。


——それを分かっていて頼んでいる。


「……無理にとは言いません」


わたくしは静かに付け加えた。


「あなた方には、あなた方の暮らしと守るものがある。

だから断ってくれて構わないんです。


わたくしの勝手な戦いに、あなた方を巻き込みたくは——」


「——いや」


ロイがわたくしの言葉を遮った。

そしてぐっと拳を握って頷いた。


「やってみる。おれはあんたを謀反人だなんてこれっぽっちも思っちゃいねえ。

あんたみたいな優しい人をこんな目に遭わせる宰相のほうが、よっぽど悪党だ。


……それに」


彼は少し照れたように笑った。


「あんたの料理を毎日食わせてもらった。

こんなに人に良くしてもらったの初めてだ。


——その恩を返せねえようじゃ男じゃねえよ」


ティムも隣で力強く頷いた。


そのまっすぐな心に胸が熱くなった。

料理が結んだ絆。


それはこんな塔の中でさえ、確かに人を動かしていた。


「ありがとう。——この恩は必ず」


わたくしは深く頭を下げた。


塔の窓から空を見上げる。

決戦の宴はもう目前。


外では味方たちが集いつつある。

そして塔の中からは、わたくしの料理が放たれる。


すべてがひとつの一点へ——快復を祝うその宴の席へと、収束しはじめていた。


(……待っていてください、宰相閣下。

あなたが整えたその“舞台”を——丸ごとお借りして、あなたの終わりの場所に変えて差し上げます)


役者は揃った。あとは、幕が上がるのを待つだけ。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

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