表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放された令嬢ですが、前世は料理人でした ~辺境で餌付けしていたら、冷徹な旦那様に溺愛されています~  作者: P作
第4章 断罪の宴

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
36/58

第36話 集う者たち

辺境伯夫妻が謀反の疑いで捕らえられた——

その報せは瞬く間に王都を駆け巡った。


宰相の思惑どおり、表向き人々は口をつぐんだ。

逆賊と関われば自分も同じ運命を辿る。誰もがそう恐れて見て見ぬふりを決め込んだ。


——けれど。


セレスティアが辺境で、そして王都で料理を通じて結んできた数えきれない縁は。

そんな宰相の脅しなど跳ね返すほどに強く、深かった。



最初に動いたのはマルクだった。


「……黙って見過ごせるか」


宮廷を追われた料理人たちを、密かに自分の食堂へ集める。


「セレスティア様は、おれたちにもう一度料理人としての誇りを思い出させてくれた。

あの方が罠にはめられて捕らえられた。


なのにおれたちがまた保身のために口をつぐむのか?

——それじゃあ、あの頃と何も変わらないじゃないか!」


マルクの言葉に、料理人たちが次々と頷いた。

彼らは知っていた。


宮廷の腐敗の内側を。横流しの手口を。

料理長と宰相の繋がりを。


——それは宰相を追い詰めるための、生きた“証言”になる。


「おれたちの知っていることをすべて証言しよう。

命をかけてでも」



味方になった貴族たちも動いた。


料理対決でセレスティアの実力を目の当たりにし、心を寄せた良識ある諸侯たち。

(そして胃の病を彼女の料理に救われた、あの老侯爵も)


「辺境伯夫人が謀反人だと? ——馬鹿馬鹿しい」


老侯爵は鼻を鳴らした。


「あの方がどれほど人を想い、食を通じて人を救ってきたか、この目で見てきた。

あれが謀反人なら、この国に忠臣など一人もおらぬわ」


彼らは密かに連携を始めた。

それぞれの伝手を使い、宰相の不正の証拠を裏付ける動きを。


そして——国王に直接嘆願する機会を窺った。



そして、その報せははるか北の辺境ヴァルドにも届いていた。


「——奥方様が捕まっただと!?」


報せを聞いた行商人ハンスが、血相を変えて立ち上がった。


「ふざけるな! あの方が謀反人なわけがあるか!

あの方は、おれたちを飢えから救ってくれた恩人だ!


それをよりにもよって——!」


ハンスだけではなかった。


芋の村のゴルド。豆の村の人々。漁村の漁師たち。

マーサや、アンナ。


——セレスティアが料理で、希望で繋いできたヴァルドのすべての人々が、報せを聞いてひとつの場所に集まってきた。


「奥方様はおれたちの女神様だ」

「あの方がいなけりゃ、おれたちはとっくに飢え死にしてた」

「黙って見てられるか! おれたちにできることはねえのか!?」


口々に声を上げる。

そして——一人の老漁師が震える声で言った。


「……おれたちの声を届けようじゃねえか、王様に。

辺境ヴァルドがどれだけあの方に救われたか。


あの方がどれほどおれたちを想ってくれたか。

——“謀反人”なんかじゃねえってことを!」


その言葉に、人々がわっと沸いた。


ヴァルドの民が立ち上がる。

自分たちを救ってくれた女主人のために、今度は自分たちが彼女を救う番だと。


「——王都は遠い。馬を飛ばしても何日もかかる」


ゴルドがぐるりと皆を見回して言った。


「だが行こう、歩いてでもだ。

一人や二人の声なら握りつぶされる。


だが何百人もの民が押しかけて口を揃えて訴えりゃ、王様だって無視はできねえ。

——“嘆願”ってやつをしに行くんだ」


「おう!」と力強い声が返る。


老人も女も、子を背負った母親までもがなけなしの食料を包み、王都への長い道のりに向けて動きはじめた。


ハンスは彼らの先導と道中の差配を買って出た。

マーサとアンナは、道々で配るための握り飯をせっせと作りはじめた。


——かつてセレスティアが教えた、あの味で。


それは武器を取った軍勢ではなかった。

料理と感謝と想いだけを携えた、名もなき民の行進。


けれどその歩みは、宰相のどんな兵よりも重く、確かだった。



塔の冷たい一室。


その熱気をまだ知らないまま、わたくしは見張りの兵士と言葉を交わしながら、静かに反撃の糸を手繰り寄せていた。


けれど——わたくしは信じていた。


一人ではない。

辺境で、王都で、わたくしが心を込めて結んできた縁は、きっとこの理不尽の前で黙ってなどいない。


料理が人の心を動かすなら。

その動いた心は、きっとわたくしのもとへ還ってくる。


(……皆さん。もう少しだけ待っていてください)


蒔いてきた種はあちこちで芽吹いていた。


それは宰相の巨大な権力にも決して潰せない——

人と人との確かな絆だった。


反撃の態勢は整いつつあった。

あとは——そのすべてを束ねる一手だけ。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

続きが気になったら、評価とブックマークで応援いただけると執筆の励みになります!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ