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追放された令嬢ですが、前世は料理人でした ~辺境で餌付けしていたら、冷徹な旦那様に溺愛されています~  作者: P作
第4章 断罪の宴

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第33話 反撃の狼煙

ミレーユの自白を証人とともに押さえた。


料理長の横流しの帳簿。

バルトロス商会を介した薬草の仕入れの記録。

そして金の流れが宰相へと繋がっている証拠。


——断罪の材料は揃いつつあった。


「これだけの証拠があれば」


味方となった老侯爵が声を潜めた。


「陛下の御前で訴え出ることもできましょう。

されど……相手は宰相。

並の覚悟では返り討ちに遭いますぞ」


「分かっています」


わたくしは頷いた。

宰相は長年、宮廷に君臨してきた政の化け物。


証拠を突きつけたところで、あらゆる手を使って揉み消し、逆にこちらを潰しにかかるだろう。


だから——一度の機会で完全に退路を断たねばならない。


諸侯が居並ぶ公の場で。

誰の目にも明らかな決定的な形で。


宰相が言い逃れも握りつぶしもできない状況を作り出す。


「近く、陛下が快復を祝う宴を催されるそうです」


マルクが言った。


「薬湯を断たれてから、陛下のお体は目に見えて戻ってきている。

その宴の席なら諸侯も集まります。

——絶好の機会かと」


「ええ。そこですべてを明らかにします」


決戦の舞台が定まった。



けれど。

敵もまた、わたくしたちの動きを見過ごしてはいなかった。


その夜。

辺境伯家の別邸に、一人の男が密かに訪ねてきた。


フードを目深に被った見知らぬ男。

アルヴィスが警戒し、わたくしを背に庇う。


「……何者だ」


「どうか、ご警戒なく」


男は声を潜めて言った。


「私は宮廷に仕えるしがない文官です。

……あなた方にお伝えしておかねばならぬことがあって参りました」


男が語ったのは、戦慄すべき内容だった。


「宰相閣下は……あなた方が証拠を集めていることに気づいておられます。

そして先手を打つおつもりだ。


——近く、辺境伯領に不穏な動きがある、と。

王家に対する謀反の疑いがある、と。


そういう“筋書き”をでっち上げて、あなた方を逆賊として捕らえる算段です」


血の気が引いた。

謀反のでっち上げ。


それはわたくしたちが宰相にやろうとしていることの、ちょうど裏返しだった。


先にこちらを「逆賊」に仕立て上げてしまえば、わたくしたちが何を訴えようと「逆賊の見苦しい弁明」として退けられる。


「……なぜ、それを我々に」


アルヴィスが鋭く問う。

男はフードの下で苦しげに目を伏せた。


「……私の兄は、かつて宮廷の料理人でした。

宰相のやり方に楯突いて——“行方知れず”になりました。


私はずっと復讐の機会を窺っていた。

あなた方なら、あの男を倒せるかもしれない。


それが兄の無念を晴らすことに繋がるなら。

……どうか、油断なさいますよう」


そう言い残し、男は闇の中へ消えていった。



「……厄介なことになってきたな」


アルヴィスが低く唸った。


「宰相はおれたちが証拠を揃える前に、先に逆賊の汚名を着せるつもりだ。

そうなれば断罪の宴どころか、おれたちが捕らえられる」


「ええ。——時間がありません」


わたくしはぐっと拳を握った。

状況は一気に緊迫した。


こちらが宰相を追い詰めるか。

宰相がこちらを逆賊に仕立てるか。


——どちらが先に決定打を放つか。

一刻の猶予もなかった。


「アルヴィス様。証拠を急いで固めましょう。

外を待たず、こちらから動きます。

——後手に回れば終わりです」


その夜、わたくしはなかなか寝つけなかった。


逆賊の汚名。

それがもし現実になれば。


わたくしだけでなくアルヴィスも、辺境ヴァルドのすべての人々も——

わたくしがようやく手に入れた大切なものすべてが奪われてしまう。


窓辺に立つわたくしの隣に、いつの間にかアルヴィスが来ていた。


「……眠れんのか」


「はい。——少し怖くなって。

せっかく手に入れた幸せが、また全部消えてしまうんじゃないかと」


アルヴィスはしばらく黙っていた。

それからそっと、わたくしの肩を抱き寄せた。


「おれはもう、何も失うつもりはない。

お前も、ヴァルドも、この手で掴んだものは何ひとつ渡さん。


——たとえ、相手がこの国そのものでもだ」


その低く力強い声に、強張っていた心がすっとほどけていく。


「……はい。わたくしも戦います。

あなたと一緒に」


二人で、迫りくる闇を見据えた。

怖くないと言えば嘘になる。


けれど隣にこの人がいてくれる。

それだけで、どんな敵にも立ち向かえる気がした。



けれど、わたくしたちが知らなかったことがひとつあった。


宰相の罠はわたくしが思うよりもずっと早く。

そしてずっと卑劣な形で——


もうすぐそこまで迫っていたのだ。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

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