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追放された令嬢ですが、前世は料理人でした ~辺境で餌付けしていたら、冷徹な旦那様に溺愛されています~  作者: P作
第3章 王都の腐った食卓

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第31話 仮面の下

宰相の陰謀を暴く——そのためには、まず確たる証拠が要る。


噂や金の流れの不審だけでは、宰相のような大物は揺るがせない。

言い逃れのできない、決定的な証拠。それを掴まなければ。


わたくしは考えを巡らせた。陰謀の、いちばん弱い環はどこか。

宰相は慎重で、狡猾だ。簡単に尻尾は出さないだろう。

料理長も保身に長けている。

——では、誰がいちばん脇が甘いか。


答えは明らかだった。


(……ミレーユ様)


欲深く、見栄っ張りで、感情的。自分の地位に酔いしれている。

あの人なら油断もするし、口も滑る。

陰謀の綻びは、きっとそこから覗ける。



機会は、ある夜会で巡ってきた。


王太子妃となったミレーユは、相変わらず贅を尽くした装いで社交界の中心に君臨していた。

けれど、わたくしの料理が王都で評判になるにつれ、彼女の機嫌は日に日に悪くなっているという。

自分より、追放したはずの令嬢がもてはやされる。それが我慢ならないのだろう。


夜会の途中、人気のないテラスへ。

わたくしはわざとミレーユと二人きりになる状況を作った。


案の定、ミレーユはわたくしを見るなり、扇の陰で顔を歪めた。


「……いい気に、なっていらっしゃるのね、セレスティア様。料理だか何だか知りませんけれど、所賤は下賤な厨房仕事。それをありがたがる方々の気が知れませんわ」


「あら。下賤なお仕事の料理を、陛下も楽しみにしてくださっていますけれど」


「っ……! 陛下、陛下、と。——せいぜい今のうちですわよ。陛下のご威光も、いつまで続くやら」


ぴくり、とわたくしは内心で反応した。——来た。


「あら。それはどういう意味でしょう?」


「……ふん。あなたには関係のないことですわ」


ミレーユは慌てて口をつぐんだ。

けれど、その目には隠しきれない優越の色がちらついていた。

何か自分だけが知っている大きな秘密を抱えている者の顔。


(……この人は秘密を抱えていることが苦しいのね)


わたくしは見て取った。ミレーユは優越に酔いたい人だ。

自分が誰より上にいると確かめずにはいられない。

けれど、その“切り札”を誰にも明かせず、ひとり抱えている。

——だったら、その劣等感をくすぐってやればいい。


「そうですか。では、わたくしの思い違いでしたわね」


わたくしはわざと憐れむように微笑んでみせた。


「てっきりミレーユ様は、何か大きな企てに関わっていらっしゃるのかと。……でも、違うのですね。あなたはただ王太子殿下の隣に飾られているだけ。何も知らされていない。——失礼いたしました、出すぎたことを」


「なっ……!」


ミレーユの白い頬が屈辱で真っ赤に染まった。図星だった。

彼女がいちばん言われたくない言葉。

——“ただの、お飾り”。


「……っ、飾り、ですって? わたくしが!? ——撤回なさい! わたくしはただのお人形なんかじゃありませんわ!」


「では、何だとおっしゃるんです?」


わたくしは静かに揺さぶりをかけた。


「……ご存じなのですね。陛下のお体が近頃優れないこと。そして、その理由も」


ミレーユの顔色がさっと変わった。


「な……っ、何を言って」


「薬湯に何かが混じっていること。それがどこから来て、誰の差配によるものか。——あなたはご存じのはずです。だって、あなた自身が、その筋書きの一部なのですから」



「だ、黙りなさい!」


ミレーユが声を荒げた。可憐な仮面が剥がれ、その下から醜く歪んだ素顔が覗く。


「あなたごときに何が分かるというの! いいわ、教えてあげる! ええ、そうよ、あの老いぼれ王がいなくなれば! オルランド様が王になる! そうすれば、わたくしは——この国の、王妃よ! あなたみたいな捨てられた女とは、住む世界が違うの!」


激昂のあまり、ミレーユは決定的な言葉を口走っていた。

自らの欲と優越感に酔いしれて。


「宰相閣下もおっしゃっていたわ。わたくしは賢い、と。オルランド様をその気にさせ、邪魔者を排除する。それさえできれば、あとはすべて思いのまま。——あの料理長だって、わたくしと閣下の言いなりよ。誰もわたくしたちには逆らえない!」


——自白だった。


国王の暗殺。宰相との共謀。すべてを彼女はその口で語った。

勝ち誇りたい、優越に浸りたい、その浅ましい欲がすべての秘密を吐き出させたのだ。


わたくしは心の中で静かに息をついた。哀れな人だ、と思った。

宰相にとって、この人もまた使い捨ての駒にすぎないのに。その自覚すらなく。


「……教えてくださって、ありがとうございます、ミレーユ様」


わたくしが静かに礼を言うと、ミレーユははっと我に返ったように青ざめた。


「な……っ、ま、まさか、あなた」


「ええ。しっかりと聞かせていただきました。——あなたの、その言葉」


そのとき、テラスの暗がりから人影が進み出てきた。一人ではない。複数の。

——わたくしがあらかじめ証人として忍ばせておいた、味方の貴族たち。

そして、マルク。


ミレーユの自白を、確かに聞き届けた証人たちが。


ミレーユの顔から、血の気が完全に引いていった。

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