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追放された令嬢ですが、前世は料理人でした ~辺境で餌付けしていたら、冷徹な旦那様に溺愛されています~  作者: P作
第3章 王都の腐った食卓

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第29話 王の異変

 国王の不調を、食の側から探る。——そう決めたものの、王宮の厨房は、料理長の支配下にある。容易には、近づけない。


 けれど、わたくしには、強い味方ができていた。マルクと、宮廷を追われた料理人たち。彼らの伝手を頼り、わたくしは、ある一つの情報にたどり着いた。国王の不調を、食の側から探る。

——そう決めたものの、王宮の厨房は料理長の支配下にある。容易には近づけない。


けれど、わたくしには強い味方ができていた。マルクと、宮廷を追われた料理人たち。

彼らの伝手を頼り、わたくしはある一つの情報にたどり着いた。


国王の食事は、近頃ごく限られた者の手だけで用意されているのだという。

料理長と、その腹心の数人。

毒見役さえ決まった者に固定され、他の者は一切関わらせない。


「……おかしいですね」


わたくしは眉をひそめた。

「国王の食事は本来、何重もの監視のもとで作られるはず。それを、ごく一部の者だけで囲い込んでいる。——まるで、何かを隠すように」



転機は思わぬ形で訪れた。


晩餐会での評判を聞きつけた国王が、わたくしを私的な茶会に招いたのだ。

病で公の場に出られない国王が、わざわざ。それは異例のことだった。


通された、国王の私室。

間近で見る国王は、晩餐会のときよりもさらに衰えて見えた。

痩せ細った手。土気色の肌。

けれど、その目はわたくしを見てかすかに和らいだ。


「よく来てくれた、辺境伯夫人。……あの夜の、そなたの料理が忘れられなくてな。久方ぶりに食事が喉を通った。あれから、どうにもまたあの味が恋しくて」


国王は痩せた手でわたくしに椅子を勧めた。そして、ぽつり、ぽつりと語りはじめた。


「……このところ、誰もが余に心にもないことばかり申すのだ。『ご気分はいかがか』『お元気そうで何より』とな。皆、余の顔色を窺い、機嫌を取ることしか考えておらん。……そなたは違ったな。あの晩餐会で、宮廷の料理を堂々と『ひどい』と言い切った。あれには驚いたが……同時に清々しかった。久しく忘れていた、まことのことをまっすぐに言う者のありがたさを」


その声に滲む深い孤独に、わたくしは胸を打たれた。

一国の頂点に立ちながら、心を許せる者もなくゆっくりと弱っていく老王。

その姿は、どこか出会った頃の孤独だったアルヴィスにも重なって見えた。


「光栄に存じます、陛下。——よろしければ、今、何かお作りしましょうか」


「おお、そうしてくれるか」


国王の許しを得て、わたくしは私室に併設された小さな調理場に立った。

そして——その機会を逃さなかった。


調理をしながら、わたくしはさりげなく、国王が普段口にしているという薬湯や滋養の品に《美食家の舌》を向けた。


そして——気づいた。


(……これだ)


国王が毎日欠かさず飲んでいるという、一杯の薬湯。

それをほんの少し指先で確かめた瞬間、《美食家の舌》がはっきりと告げた。

この中に、本来あるべきでない“何か”が混じっている。


それは毒、というほど露骨なものではなかった。即効性もない。

ただ——ごく微量、長く飲み続ければじわじわと体から精気を奪い、衰弱させていく。

そういうたちの悪い遅効性の何かが、滋養の薬湯に偽装して、毎日国王の口に運ばれていた。


背筋が凍りついた。


やはり、そうだった。

国王の不調は病でも、老いでもない。

——誰かが意図して、ゆっくりと王を弱らせている。



「陛下」


わたくしは平静を装いながら、慎重に切り出した。


「差し出がましいようですが……陛下が毎日召し上がっている、このお薬湯。少々、お体に合っていないようにお見受けします。しばらく、お控えになってはいかがでしょうか」


「ふむ? これは侍医が滋養にと処方してくれたものだが……。だが、確かにこれを飲みはじめてから、どうも体の調子が優れぬようになった気もする」


国王は不思議そうに薬湯の椀を見つめた。


「そなたがそう言うなら……試しに、しばらくやめてみるとしよう。なに、そなたの料理を食べていれば、滋養など十分すぎるほどだ」


「ありがとうございます。——どうか、お体を大切になさってください」


笑顔で応じながら、わたくしの胸の中は嵐のようだった。


国王を毒している者がいる。それも侍医すら絡んでいるかもしれない。

これは宮廷の食の腐敗などという生易しい話ではない。

——王の、暗殺。

この国の根観を揺るがす大逆の陰謀が、静かに進行しているのだ。


そして、その陰謀の影に——料理長が、ミレーユが、そしてその背後の“誰か”が繋がっているのだとしたら。


(……とんでもないことに首を突っ込んでしまったのかもしれない)


それでも。


弱り、苦しむ国王の姿を見てしまった以上。

食を司る者として、そして人として、見過ごすことなどできなかった。


わたくしは密かに決意を固めた。この陰謀の正体を暴く。

——たとえ、その先にどんな危険が待っていようとも。

 国王の食事は、近頃、ごく限られた者の手だけで、用意されているのだという。料理長と、その腹心の、数人。毒見役さえ、決まった者に固定され、他の者は、一切、関わらせない。


「……おかしいですね」


 わたくしは、眉をひそめた。「国王の食事は、本来、何重もの監視のもとで作られるはず。それを、ごく一部の者だけで囲い込んでいる。——まるで、何かを、隠すように」



 転機は、思わぬ形で、訪れた。


 晩餐会での評判を聞きつけた国王が、わたくしを、私的な茶会に招いたのだ。病で公の場に出られない国王が、わざわざ。それは、異例のことだった。


 通された、国王の私室。間近で見る国王は、晩餐会のときよりも、さらに、衰えて見えた。痩せ細った手。土気色の肌。けれど、その目は、わたくしを見て、かすかに和らいだ。


「よく、来てくれた、辺境伯夫人。……あの夜の、そなたの料理が、忘れられなくてな。久方ぶりに、食事が、喉を通った。あれから、どうにもまた、あの味が恋しくて」


 国王は、痩せた手でわたくしに、椅子を勧めた。そして、ぽつり、ぽつりと、語りはじめた。


「……このところ、誰もが、余に、心にもないことばかり、申すのだ。『ご気分はいかがか』『お元気そうで何より』とな。皆、余の顔色を窺い、機嫌を取ることしか、考えておらん。……そなたは、違ったな。あの晩餐会で、宮廷の料理を、堂々と『ひどい』と言い切った。あれには、驚いたが……同時に、清々しかった。久しく、忘れていた。まことのことを、まっすぐに言う者の、ありがたさを」


 その声に滲む深い孤独に、わたくしは、胸を打たれた。一国の頂点に立ちながら、心を許せる者もなく、ゆっくりと弱っていく老王。その姿は、どこか、出会った頃の、孤独だったアルヴィスにも重なって見えた。


「光栄に存じます、陛下。——よろしければ、今、何か、お作りしましょうか」


「おお、そうしてくれるか」


 国王の許しを得て、わたくしは、私室に併設された、小さな調理場に立った。そして——その機会を、逃さなかった。


 調理をしながら、わたくしは、さりげなく、国王が普段口にしているという、薬湯や、滋養の品に、《美食家の舌》を、向けた。


 そして——気づいた。


(……これだ)


 国王が、毎日、欠かさず飲んでいるという、一杯の薬湯。それをほんの少し、指先で確かめた瞬間、《美食家の舌》が、はっきりと、告げた。この中に、本来あるべきでない、“何か”が、混じっている。


 それは、毒、というほど、露骨なものではなかった。即効性もない。ただ——ごく微量、長く飲み続ければ、じわじわと、体から精気を奪い、衰弱させていく。そういう、たちの悪い遅効性の何かが、滋養の薬湯に偽装して、毎日、国王の口に、運ばれていた。


 背筋が、凍りついた。


 やはり、そうだった。国王の不調は、病でも、老いでもない。——誰かが、意図して、ゆっくりと、王を、弱らせている。



「陛下」


 わたくしは、平静を装いながら、慎重に、切り出した。


「差し出がましいようですが……陛下が、毎日召し上がっている、このお薬湯。少々、お体に、合っていないように、お見受けします。しばらく、お控えになっては、いかがでしょうか」


「ふむ? これは、侍医が、滋養にと、処方してくれたものだが……。だが、確かに、これを飲みはじめてから、どうも体の調子が、優れぬようになった気も、する」


 国王は、不思議そうに、薬湯の椀を見つめた。


「そなたが、そう言うなら……試しに、しばらく、やめてみるとしよう。なに、そなたの料理を食べていれば、滋養など、十分すぎるほどだ」


「ありがとうございます。——どうか、お体を、大切になさってください」


 笑顔で応じながら、わたくしの胸の中は、嵐のようだった。


 国王を、毒している者がいる。それも、侍医すら、絡んでいるかもしれない。これは、宮廷の食の腐敗などという、生易しい話ではない。——王の、暗殺。この国の根幹を揺るがす、大逆の陰謀が、静かに、進行しているのだ。


 そして、その陰謀の影に——料理長が、ミレーユが、そして、その背後の“誰か”が、繋がっているのだとしたら。


(……とんでもないことに、首を、突っ込んでしまったのかもしれない)


 それでも。


 弱り、苦しむ国王の姿を、見てしまった以上。食を司る者として、そして、人として、見過ごすことなど、できなかった。


 わたくしは、密かに、決意を固めた。この陰謀の、正体を暴く。——たとえ、その先に、どんな、危険が待っていようとも。


最後まで読んでいただき、ありがとうございます!


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