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追放された令嬢ですが、前世は料理人でした ~辺境で餌付けしていたら、冷徹な旦那様に溺愛されています~  作者: P作
第3章 王都の腐った食卓

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第28話 潮目が変わる

料理対決の翌日から、わたくしの周りはにわかに慌ただしくなった。


辺境伯家の別邸には、ひっきりなしに貴族たちからの招待状や贈り物が届くようになった。

昨夜の晩餐会でわたくしの料理を口にした者たちが、こぞって「ぜひ、我が家の晩餐に」「あの味を、もう一度」と申し出てきたのだ。


「……現金なものですね」


届いた招待状の山を前に、わたくしは苦笑した。


つい昨日まで「出来損ない」と侮っていた人々が、手のひらを返してすり寄ってくる。

けれど、わたくしはそれをただ皮肉に思うだけではなかった。

これは——王都に味方を作る、絶好の機会でもあるのだから。



わたくしは選んだいくつかの招待を受けることにした。


訪れた貴族の邸宅で、わたくしは求めに応じて料理を振る舞った。

あるいは、その家の料理人に技術を惜しみなく伝えた。

ヴァルドで培った、灰汁の抜き方、出汁の取り方、発酵や燻製の知恵。

それは王都の料理人たちにとって、目から鱗の連続だったらしい。


「素晴らしい……! こんな技術があったとは!」

「辺境伯夫人。あなたはまさに食の革命家だ」


そうして料理を通じて、わたくしの周りには少しずつ心ある人々が集まりはじめた。

腕はあるのに宮廷の腐敗に嫌気がさしていた料理人。

食の凋落を憂えていた、良識ある貴族。

彼らはわたくしの料理と、その背景にある志に共感を寄せてくれた。


とりわけ、印象に残ったのは、ある侯爵家での出来事だった。


その家の老侯爵は、最初わたくしをまるで信用していなかった。

「料理の腕など貴族の女には不要のもの」と、あからさまに見下していたのだ。

けれど、わたくしが彼の体調を聞き、胃に優しい滋養のある一品を出すと——彼の態度は一変した。


「……これは。長年、胃を患って何を食べても重く感じていたのだが。この料理は、すっと入ってくる。体が軽くなるようだ」


老侯爵はしみじみと言った。

「料理とはただの贅沢ではないのだな。人の体を、心を気遣う——一つの、まことの“技”なのだ。見くびっていたこと、許されよ、辺境伯夫人」


それは単なる人脈作りを超えた、心の繋がりだった。

わたくしは料理を通して、一人、また一人と本物の信頼を結んでいった。


「正直に申せば」と、その老侯爵は声を落として言った。

「近頃の宮廷の食は目に余るものがありました。質は落ち、まともな料理人は追われ……。あなたが現れて、久々に本物の味に出会えた。これは宮廷への、よい刺激になりましょう」


味方が、増えていく。

それはただの人脈ではなかった。

やがて宮廷の腐敗と対峙するときの——心強い支えになるはずだった。



そんなある日のこと、わたくしのもとを思いがけない人物が訪ねてきた。


「……マルク? それに、その方々は」


宮廷を追われた料理人、マルク。

その後ろに、彼と同じように宮廷を去ったらしい数人の料理人たちが控えていた。

皆、緊張した面持ちで、けれどその目には確かな決意が宿っていた。


「セレスティア様」


マルクが深々と頭を下げた。


「あなたの昨夜の料理の話は王都中に広まっています。……あなたは逃げずに宮廷の腐敗に立ち向おうとしておられる。その姿を見て、わたしたちも決めたんです。もう黙って見過ごすのはやめよう、と」


彼は顔を上げ、まっすぐにわたくしを見た。


「わたしたちは宮廷の腐敗を内側から見てきた者たちです。料理長の横流しの手口も、ある程度は知っている。——もし、あなたがこの腐敗を正すために戦うおつもりなら。わたしたちの知っていることをすべてお話しします。どうか、お力にさせてください」


胸が熱くなった。


恐れて口をつぐむしかなかった彼らが、わたくしの戦う姿に勇気をもらって立ち上がってくれた。

一皿の料理が人の心を動かし、その心がまた新しい力を呼び込んでいく。


「……ありがとうございます」


わたくしは深く頭を下げた。


「皆さんの勇気を無駄にはしません。一緒に、この腐った宮廷の食を——いいえ、宮廷そのものを正していきましょう」


潮目は、完全に変わった。


孤立していたはずのわたくしの周りに、今や確かな味方が集いはじめている。

けれど——その手応えの裏で、わたくしは一つの不穏な兆候に気づきはじめていた。


それは、あの晩餐会で見た国王の、あまりにもひどい顔色のこと。


ただの老いや、病。

——本当に、そうなのだろうか。


あの夜、国王がわたくしの料理を口にして涙したとき、《美食家の舌》はほんのかすかに、ある“違和感”を感じ取っていた。

それは料理そのものではなく——国王の衰えた様子の、その奥に潜むもの。

まるで彼の体から本来あるべき“何か”が少しずつ奪われ続けているような。


そのときは気のせいかと思った。

けれど、宮廷の食材の横流し。質の落ちた、まともでない食事。

それがもし、ただの“手抜き”ではなかったとしたら。

もし、誰かが意図して——国王の口に入るものを少しずつ蝕んでいるのだとしたら。


(……まさか)


ぞくり、と背筋が冷えた。


考えすぎかもしれない。けれど、一度芽生えたその疑念はもう消えてくれなかった。

わたくしは決意した。

あの国王の不調の本当の理由を——“食”の側から突き止めてみせる、と。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!


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