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追放された令嬢ですが、前世は料理人でした ~辺境で餌付けしていたら、冷徹な旦那様に溺愛されています~  作者: P作
第3章 王都の腐った食卓

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第27話 審判のとき

二つの料理が、審判の席へ運ばれた。


宮廷料理長の皿は、見た目こそ豪華絢爛だった。

きらびやかな盛りつけ、珍しい食材、たっぷりの香辛料。

一方、わたくしの料理は——素朴な、けれど湯気の立つあたたかな煮込みと、香ばしい一皿。

見栄えだけなら勝負にならないほどの差があった。


「では、まず、料理長の料理から」


審判役の貴族たちが料理長の皿に手をつける。

彼らはミレーユ側に通じているのだろう。

ひと口食べるなり、大げさに賞賛の声を上げた。


「おお、これは見事!」

「さすが宮廷料理長。素晴らしい!」


白々しいお世辞だった。けれど、その芝居は長くは続かなかった。



「では、次に……辺境伯夫人の料理を」


審判の一人が、しぶしぶわたくしの煮込みを口に運んだ。


その、瞬間。


彼の動きが止まった。


目が見開かれる。

義務的にひと口だけ、と思っていたのだろう手が——止まらなくなる。

二口、三口と、夢中で匙を進めていく。


「……な、なんだ、これは」


掠れた声で彼は呟いた。


「うまい……。深い。香辛料に頼らず、こんなにも豊かな味が……。芋がこんなに甘いとは。出汁がこんなにも体に染み渡るとは……。これは、いったい……!」


他の審判たちも、つられてわたくしの料理に手を伸ばす。

そして、誰もが同じ反応を見せた。


驚愕。陶酔。そして——隠しようのない、感動。

お世辞を言うどころか言葉を失い、ただ夢中で匙を動かしている。


買収されていたはずの審判たちが、その舌の前では嘘をつけなかった。

料理のあまりの美味しさに、台本も忖度もすべて吹き飛んでしまったのだ。


広間の貴族たちからも、次々と声が上がる。


「私にも食べさせてくれ!」

「なんという味だ……こんな料理は初めてだ!」

「辺境の素朴な食材でここまで……信じられん!」


潮目は、完全に決した。



そして——その料理が運ばれた先は、病み衰えた国王の御前だった。


ずっと何を食べてもほとんど手をつけられなかったという国王。

その彼が、わたくしの煮込みをひと匙口に運び——。


「…………」


長い、沈黙。


やがて、国王の落ちくぼんだ目から、つう、と一筋の涙がこぼれ落ちた。


「……うまい。ああ、なんと、うまいのだ。……このところ、何を食べても砂を噛むようで、味などせなんだ。それが……この一皿は、こんなにも体に染み渡る。生きた心地がする……」


震える声だった。広間がしん、と静まり返る。

一国の王が、たった一皿の辺境の煮込みに涙している。

その光景は、何よりも雄弁な勝敗の宣告だった。


「勝者は——辺境伯夫人、セレスティア。文句のつけようもない」


国王の一言で、料理対決はわたくしの完全なる勝利で幕を閉じた。



広間が万雷の拍手と、どよめきに包まれた。


つい先ほどまでわたくしを「出来損ない」と侮っていた貴族たちが、今や惜しみない賞賛を送っている。


「素晴らしい! あの料理はまさに芸術だ!」

「辺境伯夫人を見くびっていた。あれほどの才を隠していたとは」

「ぜひ、我が家にもあの味を……!」


手のひらを返したような賞賛の嵐。

現金なものだと思いながらも、わたくしの胸は満たされていた。

これでいい。誰が何と言おうと、“本物”は本物として認められる。

それを王都中の有力者の前で証明できたのだから。


人垣の中からアルヴィスがまっすぐに歩み寄ってきた。

彼は誇らしげにわたくしを見下ろし——大勢の前であることも構わず、そっとわたくしの肩を抱き寄せた。


「……見事だった。おれの妻は世界一だ」


低く、けれどはっきりと。

その言葉と力強い腕の温もりに、わたくしは胸がいっぱいになった。


一方、上座のオルランドは——蒼白な顔でわたくしを見つめていた。


その表情は複雑だった。怒り。屈辱。

けれどそれだけではない。

かつて自分が「価値がない」と切り捨てた女が、今、王宮の中心で国王に涙を流させ、諸侯の喝采を浴びている。

その現実を前に、彼の中で何かが音を立てて崩れているようだった。

自分はとんでもないものを手放したのではないか——そんな遅すぎる後悔の色さえ、その顔には滲んでいた。



ミレーユの顔から勝ち誇った笑みが剥がれ落ちていた。

真っ青になって、わなわなと震えている。

仕組まれた勝負。買収した審判。すり替えた塩。

すべての策が、たった一皿の“本物”の前に無力だった。


「そ、そんな……ありえませんわ! 何かの間違いです! きっと、いかさまを——」


「いかさま、ですか」


わたくしは静かに口を開いた。いよいよ、告発の時だった。


「それはこちらの台詞ですわ、ミレーユ様。——調理中、わたくしの塩が何者かによって料理を台無しにする薬品とすり替えられておりました。これが、その壺です。お調べになれば、どなたの差し金かすぐに分かりましょう」


わたくしが脇に避けておいた壺を掲げると、広間がどよめいた。料理長の顔が蒼白になる。


「妨害を受けてなお、わたくしは勝ちました。——もし、正々堂々の勝負であれば、その差はもっと開いていたでしょうね」


ミレーユは何も言い返せず、ただ唇を噛んでわたくしを睨みつけることしかできなかった。


その、憎悪に歪んだ顔。

可憐な仮面の下から覗いた、醜い素顔。

——化けの皮が剥がれる、その最初の罅が確かに深く入った瞬間だった。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!


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