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追放された令嬢ですが、前世は料理人でした ~辺境で餌付けしていたら、冷徹な旦那様に溺愛されています~  作者: P作
第3章 王都の腐った食卓

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第25話 ミレーユの挑戦

国王の許しを得て、わたくしが厨房へ向かおうとした、その時だった。


「——お待ちになって」


甲高い声が広間に響いた。扇を手にした、ミレーユだった。

彼女はしゃなりと進み出ると、勝ち誇ったような笑みを浮かべて、わたくしの前に立ちはだかった。


「セレスティア様。あなた、ずいぶんと自信がおありのようですわね。宮廷の料理を“ひどい”だなんて、よくも言えたものです」


「事実を申し上げただけですわ」


「まあ、こわい。——でしたら、こうしませんこと?」


ミレーユは扇で口元を隠し、ちらりと上座のオルランドを見た。何か、示し合わせたような、その視線。


「ただ、あなたが一人で料理を作って『おいしいでしょう』と言うだけでは芸がありませんわ。それでは自慢にしかなりません。——だから、勝負をいたしましょう。あなたと、宮廷の料理長で。どちらの料理が優れているか、皆様に判じていただくんです」


ざわ、と広間が沸いた。料理対決。公衆の面前での、真っ向勝負。


「宮廷の料理長は、この国で最も腕の立つ料理人。それに、あなたが勝てるとお思い? もし負ければ——その思い上がった鼻もへし折れるというものですわ。ほほほ」


それは明らかな罠だった。


ミレーユの息のかかった料理長。その料理長を公の場で勝たせ、わたくしに恥をかかせる。

「辺境伯夫人は大口を叩いたが、宮廷の料理長に負けた」

——そう諸侯の前で印象づける、わたくしを貶めるための筋書き。



アルヴィスがわたくしの耳元で低く囁いた。


「……断ってもいい。明らかに仕組まれている。料理長とやらが、公正に裁かれる保証もない」


確かにその通りだった。

審判がミレーユ側に買収されていれば、どんなに良い料理を作ろうとわたくしの負けにされる。

受けるにはリスクが大きすぎる勝負。


けれど。


わたくしはミレーユの勝ち誇った顔を見つめた。

そして、広間中の固唾を呑んで見守る貴族たちの顔を。

さらに——病み衰えながらも、じっとこちらを見つめる国王の顔を。


(……いいえ。これは好機だわ)


逃げれば「やはり口だけだった」と侮られる。

けれど、受けて勝てば——この王都中の有力者が集まる場で、わたくしの料理が本物だと証明できる。

ミレーユの鼻を明かし、宮廷の腐敗に最初の楔を打ち込める。


審判が買収されている?

——ならば、その審判すらねじ伏せるほど、圧倒的な料理を作ればいい。

誰の目にも、誰の舌にも、文句のつけようがないほどの本物を。


「——お受けいたします」


わたくしはにっこりと微笑んだ。


ミレーユの顔が一瞬ひるんだようにこわばった。

きっと断るか、しどろもどろになると踏んでいたのだろう。

こんなにもあっさりと受けて立つとは。


「ただし」

わたくしは続けた。

「使う食材は、わたくしが持参したものを遣わせていただきます。——辺境ヴァルドの恵みを」


「辺境の食材ですって? ……ふん、好きになさい。どうせ貧しい田舎の粗末な食材でしょう。宮廷の最高級食材を使う料理長に勝てるはずが——」


「ええ。それで構いません」


わたくしは静かに、しかし確信を持って言い切った。


「最高級の食材を雑に扱った料理。——そして、素朴な食材を丁寧に真心込めて仕上げた料理。どちらが“本物”か。皆様の舌に判じていただきましょう」



ミレーユの呼びかけに応じて、広間に一人の男が進み出てきた。


宮廷料理長。

でっぷりと太った体に高価そうな装いをまとい、いかいにも尊大な顔つきをしている。

彼はわたくしを鼻で笑った。


「これはこれは。辺境の奥方様が、料理でこの私に挑むと? ……身の程知らずもいいところだ。私は五人の王に仕えてきた、宮廷一の料理人。田舎で芋でも焼いていた素人とは格が違うのですよ」


その尊大な物言いに、《美食家の舌》がひとりでに彼の“腕”を見抜いていた。


立ち居振る舞い、指先の使い方、漂わせる雰囲気。

——なるほど、確かに基礎はできている。

けれど、それだけ。

長く権力に守られ、本気で腕を磨くことを忘れた、“過去の人”の手だ。

プライドばかりが肥え太り、肝心の味への探求心はとうの昔に枯れている。


(……この人は怖くない)


わたくしは確信した。

腕の善し悪し以前に、この人はもう料理を“愛していない”。

横流しに加担し、手を抜き、地位にあぐらをかく。そんな手から人の心を打つ一皿が生まれるはずがない。


「ええ、格が違いますわ」

わたくしはにっこりと微笑んだ。

「——お料理に向き合う、心が」


料理長の顔がぴくりと引きつった。


こうして王宮の大広間で、辺境伯夫人セレスティアと宮廷料理長による、前代未聞の“料理対決”が行われることになった。


審判は晩餐会に集った諸侯と貴婦人たち。

そして——その頂点に座す、国王その人。


ミレーユは自信満々に扇を揺らしている。

仕組まれた勝負。買収された審判。圧倒的に有利な料理長。負ける要素など何もないと思っているのだろう。


けれど、わたくしの胸にあったのは不安ではなく、静かな闘志だった。


(……見ていてください、ミレーユ様。それから、オルランド殿下も)


腕まくりをして、わたくしは厨房へと向かう。


(あなた方が“粗末”と侮る、この辺境の恵みが。——あなた方の“最高級”を、完膚なきまでに打ち負かすところを)


運命の料理対決。その火蓋が今、切られようとしていた。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!


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