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追放された令嬢ですが、前世は料理人でした ~辺境で餌付けしていたら、冷徹な旦那様に溺愛されています~  作者: P作
第3章 王都の腐った食卓

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第24話 大晩餐会

晩餐会の夜が、来た。


王宮の大広間はまばゆいシャンデリアの光に満ち、着飾った諸侯や貴婦人たちで埋め尽くされていた。

一年前、わたくしが大勢の前で婚約を破棄され、すべてを失った、まさにその場所。


けれど、今夜のわたくしはあのときとは違う。


辺境伯夫人としての、品のいいドレス。

隣には、凛々しく正装したアルヴィス。

彼に手を取られ、広間へ足を踏み入れた瞬間——ざわり、と貴族たちの視線がいっせいにこちらへ集まった。


「あれが、噂の……?」

「出来損ないと追放された、ルクレツィアの令嬢では」

「それが、なぜ辺境伯夫人に……」


無遠慮な囁きが、あちこから漏れ聞こえる。

好奇と、侮りと、嘲りの混じった視線。

けれどわたくしは、もうそれに怯みはしなかった。

背筋を伸ばし、堂々と前を見て歩く。


その囁きが聞こえたのだろう。

アルヴィスがふと足を止め、広間をぐるりと見渡した。

そして、誰にともなく、けれどよく通る声で言い放った。


「妙な噂が流れているようだ。——だが、訂正しておこう。我が妻セレスティアは辺境ヴァルドを飢えから救い、痩せた大地に再び実りをもたらした。出来損ないどころか、おれが生涯をかけて守るに値する、唯一無二の女だ。侮辱はおれが許さん」


凛とした、領主の宣言。

その威に、囁いていた貴族たちが気まずそうに口をつぐむ。

わたくしは頬が熱くなるのを感じながら、彼の隣でそっと背筋を伸ばした。

——ああ、本当に。この人はいつだってまっすぐにわたくしを守ってくれる。



「これはこれは。辺境伯と、その奥方ではないか」


ねっとりとした声で近づいてきたのは、恰幅のいい中年の貴族だった。

いかにも宮廷で甘い汁を吸ってきた、という風体。

彼はわたくしを上から下まで、無遠慮に眺め回した。


「いやはや、驚いた。出来損ないと評判だった令嬢が、こうして立派に着飾っておられるとは。辺境というのは、よほど人を選ばぬ土地と見える。ははは!」


周囲の貴族たちから追従の笑いが起こる。あからさまな侮辱だった。

アルヴィスの眉がぴくりと動き、その手が拳が握られる。


わたくしはそっと彼の腕に手を添えて制した。大丈夫、と。

そして、にっこりと微笑んだ。


「あら。人を選ばぬどころか、辺境は“本物”しか生き残れない、厳しい土地ですわ。——ところで」


わたくしはちょうど給仕が運んできた、晩餐の皿に目を留めた。


「失礼ですが、このお料理。——ひどい出来栄えですわね」


その一言に、周囲がしん、と静まり返った。



「な……っ、何を言い出すかと思えば!」


中年貴族が目を剥いた。「これは王宮の料理長が腕によりをかけた、最高級の料理だぞ! それをひどいだなんて!?」


「ええ。ひどい、です」


わたくしは臆することなく繰り返した。《美食家の舌》が、その皿の真実を克明に告げている。


「高級な香辛料でごまかしていますが、土台の出汁が雑です。素材の下処理もいい加減。火の入れ方にもムラがある。——何より、この食材。新鮮なものを使ったように見せかけていますが、実際は質の落ちたものを味付けで覆い隠している。本来の値打ちの半分も引き出せていません」


ひと匙口に運んだだけで、《美食家の舌》は、その皿が辿ってきた道のりをすべて見通していた。


いつ仕入れられ、どう保管され、どこで手を抜かれたか。

料理は嘘をつけない。

作り手の怠慢も、食材の経歴も、ぜんぶ味に刻まれてしまう。

そして、この皿に刻まれていたのは——ごまかしと、手抜きと、どこか後ろ暗い食材の出どころだった。


ぴたりと言い当てられ、給仕の顔が青ざめた。マルクの言っていた、横流し。質の悪い食材。それがはっきりと料理に表れていた。


「で、でたらめを言うな! 貴様に何が分かる!」


「分かりますとも。——では、証明いたしましょうか」


わたくしはすっと顔を上げた。広間中の視線がわたくしに集まっている。

これこそ、わたくしが待っていた瞬間だった。罠の舞台をこちらのものにする、好機。


「わたくしに少々厨房をお貸しいただけませんか。今、この場でお見せします。——同じ食材から、“本物”の料理がどういうものかを」


ざわり、と広間が揺れた。

出すぎた真似だと眉をひそめる者。面白がる者。

そして——遠く上座のあたりで、その様子を苦々しげに睨みつける王太子オルランドと、扇で顔を隠したミレーユの姿があった。


「……いいだろう」


意外にも許可を出したのは、上座のさらに奥。

豪奢な椅子に腰掛けた、白髪の——この国の国王その人だった。


その顔色はぞっとするほど悪かった。

頬はこけ、唇は乾き、肌には生気がない。

玉座にもたれかかるその姿は一国の王というより、長く病に臥せった痩せた老人のようだった。

給仕が運ぶ料理にもほとんど手をつけていない。

——食べられないのか、それとも食べる気力もないのか。


それでいて、その目だけは奇妙に爛々と輝いて、わたくしを見つめている。


「辺境伯夫人。そなたの言う“本物”とやら、見せてもらおうではないか。——余の舌が、それを判じてやろう」


思いがけない、国王直々の言葉。わたくしは深く一礼した。


「——ありがたき幸せ。必ずやご満足いただけるものを、お作りいたします」


舞台は整った。

王都の、煌びやかな広間の真ん中で。

わたくしを嗤った者たちに、ひと皿で、思い知らせてみせる。

——その覚悟を、静かに、胸に灯した。

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