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追放された令嬢ですが、前世は料理人でした ~辺境で餌付けしていたら、冷徹な旦那様に溺愛されています~  作者: P作
第3章 王都の腐った食卓

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第22話 王都へ続く道

王都への旅は、馬車で五日の道のりだった。


一年前、わたくしが捨てられるように辺境へ向かったのと、まったく逆の道。

あのときは絶望に沈み、一人きりで震えていた。

けれど今は——隣に、アルヴィスがいる。


「……何を、考えている」


向かいに座るアルヴィスが、ふと口を開いた。


「いえ。ちょうど一年前、この道を逆向きに通ったな、と。あのときはお先真っ暗で、泣きそうだったんですけれど」


「今は?」


問われて、わたくしは少し考えてから、微笑んだ。


「今は……不思議と、怖くありません。これから王宮で何が待ち受けているか分からないのに。きっと、隣にあなたがいてくださるから、ですね」


その言葉に、アルヴィスはふっと目を逸らした。

耳の端がほんのり赤い。

氷の死神と恐れられる男の、こういう不器用な反応が、わたくしはたまらなく好きだった。



旅の道中は穏やかだった。


野営の夜、わたくしは持参した食材で簡単な料理をこしらえた。

焚き火を囲んで二人で食べる、素朴な夕食。

けれどそれは、王宮のどんな豪華な晩餐よりも、あたたかく満たされる時間だった。


「……うまいな」


ぽつりと、アルヴィスが言う。

彼がわたくしの料理をこうして素真に「うまい」と言ってくれるようになったのは、いつからだろう。

出会った頃のあの凍りついた無表情を思えば、まるで別人のようだった。


「アルヴィス様。お行儀が悪いですけれど、外で食べるごはんって、どうしてこんなに美味しいんでしょうね」


「お前と、食べているからだろう」


さらりと言われて、今度はわたくしの頬が熱くなった。


「……アルヴィス様。最近、そういうことをさらっと仰いますよね。出会った頃はあんなに無口だったのに」


「……お前が、おれを変えたんだ」


彼は焚き火に視線を落としたまま、ぽつりと言った。

「お前と過ごすうちに、言葉が……自然と出るようになった。昔は誰かに何かを伝えたいと思うことすら、なかったからな」


その言葉に、胸がきゅうっと締めつけられた。

この人の凍りついた心が、少しずつほどけていく。

その変化に自分が関われていることが、たまらなく嬉しかった。


夜空には、満天の星。

パチパチと爆ぜる、焚き火の音。

穏やかで、優しくて——できるなら、このままずっと続けばいいと思えるような、そんな旅路。


けれど、王都が近づくにつれて、その穏やかさは少しずつ影を帯びていった。



王都の手前の、最後の宿場町に着いたとき。

わたくしはその変わりように、言葉を失った。


一年前——わたくしの知っている王都周辺は、王国でもっとも豊かで、活気あふれる土地だった。

市場は物で溢れ、人々は華やかに着飾り、食堂からはひっきりなしに良い匂いが漂っていた。


それが、どうだろう。


通りを行く人々の顔はどこか青白く、生気がない。

市場に並ぶ品は目に見えて貧相になり、値段ばかりがやけに高い。

立ち寄った食堂で出された料理も——《美食家の舌》が即座に見抜いた。

質の悪い食材を、雑な技術で、ごまかしながら使っている。

かつての王都の食の華やかさは見る影もなかった。


「……ひどい。一年で、こんなにも」


わたくしは思わず呟いた。


立ち寄った食堂の親父が、わたくしたちが残した料理を見て、力なく頭を下げた。


「……すいませんね、こんな味で。昔はうちも、もう少しまともなもんを出せたんですがね」


彼は疲れた顔で、ぼやくように続けた。

「いい食材がまるで入ってこなくなっちまって。仕入れ値ばっかり上がって、味は落ちる。客も離れる。……宮廷があんなふうじゃ、しょうがねえのかもしれませんがね」


「宮廷が?」


「ええ。なんでも、王宮の食がここ一年ですっかり落ちぶれたって噂で。王様の御膳ですらひどいもんらしい。上がそうなりゃ、下も右へ倣えだ。食材を扱う商人も目利きをしなくなる。良いもんを作る職人から順に、食えなくなって辞めていく。……国全体の食卓が、まるごと痩せていくみてえでさあ」


その言葉が、ずしりと胸に響いた。

一軒の食堂の仗きは、この国全体の縮図だった。


これが、わたくしが去った後の王都。

宮廷の食が腐れば、それを真似る貴族の食卓も乱れ、やがて街全体の“食”の水準が、坂を転がるように落ちてっていく。

食は土地の健やかさを映す鏡。

この痩せた空気は、王都という心臓そのものが静かに病みはじめている証だった。


「アルヴィス様。これは……思っていたより、根が深いかもしれません」


「ああ」

アルヴィスも厳しい顔で、通りを見渡した。

「辺境が豊かになる一方で、王都がこれほど衰えているとは。……何かがこの国の中心で、確実に狂いはじめている」


一年前、わたくしを切り捨てた、煌びやかな王都。

その輝きが、こんなにも脆く崩れかけている。


胸に、複雑な思いがよぎった。

ざまぁ、と笑うにはあまりに痛々しい光景。

けれど同情するには、彼らがしたことはあまりにひどかった。


「……行きましょう」


わたくしは前を見据えた。


「この目で確かめます。王宮でいったい何が起きているのか。——その中心に、何が巣食っているのかを」


明日には、王都。

そして、運命の大晩餐会が待っている。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!


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