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追放された令嬢ですが、前世は料理人でした ~辺境で餌付けしていたら、冷徹な旦那様に溺愛されています~  作者: P作
第3章 王都の腐った食卓

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第21話 断れない招待状

オルランドが惨めに王都へ逃げ帰ってから、半月。


辺境ヴァルドには、つかの間の穏やかな日々が戻っていた。

収穫祭の余韻はまだ人々の顔に残り、村々は活気に満ち、館にも笑い声が絶えない。

バルトロス商会との一件以来、街への販路はかえって強くなり、ヴァルドの品の評判は日に日に広まっていた。


けれど、わたくしは心のどこかでずっと身構えていた。


オルランドの、あの捨て台詞。

——必ず、後悔させてやる。


あれがただの負け惜しみで終わるとは思えなかった。

王家の面子を公衆の面前で潰されたのだ。

彼がこのまま黙っているはずがない。


その予感は、やがて一通の書状となって現実になった。



「奥方様。王都から……正式な、書状が」


セバスが緊張した面持ちで運んできたのは、王家の紋章ではなく、もっと格式高い——王宮そのものの封蝋が捺された、一通の招待状だった。


アルヴィスとともに、その中身を検める。

書かれていたのは、こうだ。


『近く、王宮にて、諸侯を招いての大晩餐会を催す。辺境伯アルヴィス、ならびにその妻セレスティアを、正式に招待する。両名の、変わらぬ忠誠を、楽しみにしている』


「……晩餐会への、招待」


わたくしはその文面を二度、読み返した。

一見、栄誉ある招待。

けれど、その裏に潜むものを、わたくしはすぐに感じ取った。


「これは、罠ですね」


「ああ」

と、アルヴィスも硬い声で頷いた。

「先日の、お前への“連れ戻し”が失敗した。だから、今度は形を変えてきた。——正式な王命としての、招待だ。これを断れば」


「王家への、明確な反逆。諸侯の前で、ヴァルドが王家に背いたと、喧伝される口実になる」


巧妙だった。

個人的な“連れ戻し”は、断っても「夫婦の問題」で済む。

けれど、諸侯を集めた公式の晩餐会への招待を蹴れば、それは政治的な反逆と見なされる。

辺境伯領は、孤立し、追い詰められる。


——行くも地獄、行かぬも地獄。

そう仕向けられている。


「……気は進まんが」

アルヴィスが低く唸った。

「これは、行かざるを得ん。断れば、奴らの思う壺だ」


「ええ。——でも」


わたくしは招待状を置いて、顔を上げた。

胸の奥に、怯えではなく、静かな闘志が灯っていた。


「行きましょう、アルヴィス様。堂々と。逃げも隠れもせず、王宮の真ん中へ。——向こうがその気なら、受けて立ちます」


「……ただ」


わたくしは招待状をもう一度、じっと見つめた。

違和感が、ひとつあった。


「この招待状、オルランド殿下お一人の差し金にしては——少し、手が込みすぎています。あの方はもっと直情的で、こんな回りくどい罠を仕掛ける方ではない。これを書かせた、別の誰かがいる。宮廷の奥に、もっと冷静で、狡猾な頭が」


アルヴィスの目が鋭くなった。

「……黒幕が、いると?」


「断定はできません。でも、用心は必要です。わたくしたちが王都で相手にするのは、おそらく、オルランド殿下だけではない。——宮廷そのものに巣食う、もっと大きな“何か”かもしれません」


書庫で見た、あの古い記録の一文が、ふと頭をよぎった。

“失われし、世界の理が、動き出すであろう”。

まさか、と思いつつ——胸の奥の小さな不安が、消えてくれなかった。


それでも、と、わたくしは顔を上げた。


「ですが、これは好機でもあります」


「好機?」


「ええ。考えてもみてください。諸侯が一堂に会する、王宮の大晩餐会。——これ以上の“舞台”は、ありません。罠だというなら、その舞台を、丸ごとこちらのものにしてしまえばいい。王都中の有力者の前で、ヴァルドの——いいえ、わたくしの料理が本物だと証明する。罠を、最高の宣伝の場に変えてみせます」


アルヴィスが、ふっと口の端をゆるめた。


「……まったく、お前は。窮地すら好機に変えてしまうのだな」


「ふふ。料理人はどんな食材も無駄にはしませんから。——たとえ、それが“罠”でも」



その夜、出立の支度を進めながら、わたくしはふと窓辺で物思いにふけった。


王都。

わたくしがすべてを失った場所。

役立たずと罵られ、婚約を破棄され、捨てられた、あの場所。

二度と戻ることはないと思っていた。


(……皮肉なものね)


捨てられたわたくしが、今度は招かれて戻っていく。

あのときとは、まるで違う立場で。

誇りも、居場所も、隣に立ってくれる人も、すべてを手にして。


「セラ」


いつの間にか、アルヴィスがすぐ後ろに立っていた。

彼はわたくしの不安を読み取ったように、そっと肩に手を置いた。


「何があっても、おれがお前を守る。——王宮だろうと、王太子だろうと関係ない。お前はおれの妻だ。誰にも、指一本触れさせはしない」


その揺るぎない声に、胸の強張りがすっと解けていく。


「……はい。心強いです」


わたくしは微笑んだ。

そう。もう、一人じゃない。

あのとき、たった一人で広間に立っていたわたくしとは違う。


「アルヴィス様。ひとつ、お願いがあるんです」


「言ってみろ」


「王都へ持っていく荷に、ヴァルドの食材を少し積ませてください。魚醤も、燻製も、村の芋も豆も。——もし、向こうで料理を披露する機会があれば、王宮の贅沢な食材ではなく、この辺境の恵みで勝負したいんです」


それはただの料理人の意地ではなかった。

わたくしの料理は、この土地と、人々の想いと共にある。

王都の権力に立ち向かうのなら、わたくしが背負うべきは王宮の華やかさではなく、ヴァルドで掴んだ本物の味だ。


アルヴィスはわたくしの意図を察したように、深く頷いた。


「いいだろう。——お前の戦場には、お前の武器を持っていけ」


その言葉が、何よりも心強かった。


王都で待ち受けているのは、ただの嫌がらせではない。もっと深く、もっと醜い、宮廷の闇そのもの。——その予感に、わたくしは静かに身を引き締めた。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!


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