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【完結】追放された令嬢ですが、前世は料理人でした ~辺境で餌付けしていたら、冷徹な旦那様に溺愛されています~  作者: 更田遅筋
第14章 王都に舞い戻る

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第135話 バルトロス商会の落日

決着の日が訪れた。


レオハルトの働きかけにより、王都の王が正式に動いた。商会の隠し倉庫に、王の兵が踏み込んだのだ。

わたくしとアルヴィス、そしてトマも、その場に立ち会った。


倉庫の扉が開かれた瞬間、誰もが息を呑んだ。


そこには、天井まで届くほどの麦の山が積み上がっていた。市場から消え、人々を飢えさせていた膨大な量の麦。

それが、こうして日の目を見ることなく腐りかけながら、溜め込まれていたのだ。さらに奥には、不正に隠された財宝の数々と、二重帳簿が見つかった。


「これは……ひどい」

踏み込んだ役人さえ言葉を失った。


「これだけの麦があれば、王都の民は、誰も飢えずに済んだものを」


動かぬ証拠だった。もはや商会に、言い逃れの余地はなかった。



商会の主バルトロスが、引き立てられてきた。


恰幅のいい脂ぎった顔の男だった。けれど、その顔は今や青ざめ、引きつっている。

かつて王都の食を意のままに操っていた男の、見る影もない姿だった。


「な、なぜだ」

バルトロスは、わたくしを見て喚いた。


「なぜ、たかが辺境の女が、ここまで……!」


「たかが、辺境の女」

わたくしは静かに繰り返した。


「ええ、そうですね。あなた方が見下し、追い払った女です」


その言葉に、バルトロスの顔が歪んだ。


「思い出していただけますか」

わたくしは、続けた。


「かつて、あなたの商会は、わたくしが辺境で作った品の卸元を執拗に探っていた。本物の食が、あなた方のまがい物の商売を脅かすと、恐れて。——あの時から、わたくしたちの戦いは、始まっていたのです」


バルトロスの目が見開かれた。忘れ去っていた過去の因縁が、今、巡り巡って自らに返ってきたのだ。


「あの頃、あなたは思ったでしょう。追放された令嬢など、辺境で野垂れ死ぬだけだと」

わたくしは静かに言った。


「けれど、わたくしは、生きました。料理で土地を救い、人を救い、やがて世界を救った。そして今、こうして、あなたの前に立っています」


皮肉なものだった。あの日わたくしを追い払い見下した、その慢心こそが、巡り巡って商会自身の命取りになった。

もし、商会が、わたくしを脅威と見なさず放っておけば。あるいは、まっとうな商売をしていれば。

こんな結末は、迎えなかっただろう。けれど彼らは、欲に溺れ、人の食を踏みにじり続けた。

その報いが、今、確かに下されたのだ。



「あなたは、食べ物で人を支配しようとした」

わたくしは、まっすぐに彼を見据えた。


「飢えを金に変え、人々の命を弄んだ。——けれど、食べ物は、本来、人を生かし、笑顔にするものです。それを汚した報いを、受けるのです」


バルトロスは、がっくりと膝をついた。


商会の悪事は、白日の下に晒された。買い占め。

脱税。役人の買収。

そして、滅び派の不正な財の隠匿。そのすべてが明るみに出て、商会は完全に解体されることとなった。

バルトロスをはじめ、不正に関わった者たちは捕らえられ、裁きを受ける。買収されていた役人たちも、ことごとく、その職を追われた。


溜め込まれていた麦は、すべて王都の民に放出された。法外だった食料の値はたちまち元に戻り、人々の食卓に、再びあたたかなパンが並ぶようになった。


そして、滅び派の遺した財宝は、かつてそれを奪われた各地の村や神殿へ返されることになった。奪われたものが、本来あるべき場所へ、還っていく。

それは、世界を救う旅の、本当の意味での後始末だった。



すべてが、終わった後。


わたくしは、王都の広場に立っていた。かつて炊き出しをした、あの場所だ。

今や市場には、本物の食材が活気よく並んでいる。人々の顔には、笑みが戻っていた。


「やりましたね、奥様」

トマが、感極まった様子で言った。


「あなたのおかげで、王都は、救われました」


「いいえ。あなたや、王都の人々、そして、各地の仲間たち。——みんなの力です」

わたくしは、微笑んだ。


アルヴィスが隣に並んだ。「これで片がついたな」彼は、穏やかな目で賑わう市場を眺めた。

「お前が、辺境に来た日から続いていた因縁も。——ようやく、終わった」


「ええ」

わたくしは頷いた。胸に、深い感慨が込み上げる。


世界を救う壮大な旅。その果てに最後に残った人の世の闇。

それを、料理人として確かに断ち切った。剣でもなく、神の力でもなく。

ただ、あたたかな一杯と、確かな知略で。


けれど、わたくしのけじめは、まだ、終わっていなかった。


商会は倒した。けれど、かつてわたくしを無実の罪で断罪し、追放した者たち。

あの人たちとの本当の決着が、まだ残っている。


(……次は、あなたたちの番ね)


王都の空は晴れ渡っていた。けれど、その先に、わたくしは果たすべき最後のけじめを見据えていた。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

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