表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】追放された令嬢ですが、前世は料理人でした ~辺境で餌付けしていたら、冷徹な旦那様に溺愛されています~  作者: 更田遅筋
第14章 王都に舞い戻る

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
134/141

第134話 暴かれる闇の帳簿

数日後、トマが息を切らせて、わたくしのもとへ駆け込んできた。その顔には、確かな興奮が浮かんでいた。


「奥様。掴みました。商会の取引です」


トマの調査は、見事なものだった。裏通りの仲間たちと連携し、商会の倉庫に出入りする者を、辛抱強く見張り続けたのだ。


「夜中に、覆面をした連中が、商会の裏口から荷を運び込んでいました」

トマは、声を潜めた。


「中身は、わかりません。けれど、明らかに、表の商売とは違う動きです。それに——運び込む先が、商会の、隠し倉庫らしいのです」


隠し倉庫。その言葉に、わたくしの直感が働いた。


「そこに、買い占めた麦が隠されているはずです」

わたくしは、確信した。


「市場に出さず、値を吊り上げるために溜め込んだ麦が。——そして、おそらく、それだけでは、ありません」



わたくしは、トマの集めた情報を一つひとつ丁寧に繋ぎ合わせていった。


商会の取引相手。金の流れ。

荷の動く時刻と経路。前世で、無数の企業の内情を分析してきた経験が、ここで生きた。

断片的な情報も、丹念に並べれば、やがて、一つの像を結びはじめる。


見えてきたのは、想像以上に、根の深い腐敗だった。


商会は、麦を大量に買い占め、隠し倉庫に溜め込んでいた。市場の麦を意図的に枯渇させ、値を何倍にも吊り上げるために。

それだけではない。その莫大な利益を、帳簿には記していなかった。

役人を買収し、税をごまかしていたのだ。庶民から法外な値で巻き上げた金を、商会は一銭も国に納めていなかった。

飢える民を尻目に、私腹だけを肥やし続けていたのだ。


そして、最も、闇の深い部分。商会の隠し倉庫には、麦だけでなく、奇妙な品も運び込まれていた。

トマの仲間が、命がけで覗き見たところによれば。それは、どうやら、かつての滅び派が各地から不正に集めた、財宝の類いらしかった。

神殿から奪われた宝。滅んだ村から、かすめ取られた財。

世界を滅ぼそうとした者たちの血塗られた遺産が、そこに眠っていた。


「やはり、繋がっていた」

「商会は、滅び派の遺した財を隠し持ち、それを元手に、王都の流通を支配している」


世界の滅びを企てた壮大な悪。その亡霊が、商会という器に宿り、今も人々を苦しめている。

ならば、これを断つことは、わたくしたちの旅の、本当の終わりを意味する。神々を救い、世界を救った、その締めくくりとして。

この地上に残った最後の闇を、消し去るのだ。



すべての、絵図が、見えた。


買い占めによる、価格のつり上げ。脱税。

役人の買収。そして、滅び派の不正な財の隠匿。

——これだけの証拠が揃えば。どれほど巧妙に立ち回ってきた商会とて、もう、言い逃れはできない。


けれど、わたくしは慎重だった。証拠は、確実なものでなければならない。

商会は役人を抱き込んでいる。生半可な告発では、揉み消されて終わるだろう。


「アルヴィス様」

わたくしは、彼を見た。


「この件、レオハルト陛下の、お力をお借りしたいのです」


アスタリカの王、レオハルト。彼は、王都を治める若き王と固い友誼で結ばれている。

隣国の王が、後ろ盾となれば。商会に買収された役人とて、簡単には、もみ消せない。


「ああ。レオハルトなら、必ず、動いてくれる」

アルヴィスは、頷いた。


「あの男は、義を重んじる。お前の集めた証拠を見れば、王都の浄化に、力を貸すはずだ」



わたくしは、すぐにレオハルトへ文をしたためた。商会の不正の証拠を、すべて書き記して。


返事は、驚くほど、早かった。


『見事だ、セレスティア殿。これほどの証拠を、よくぞ、揃えた。——王都の腐敗は、隣国にとっても、見過ごせぬ問題。わたしも、正式に、動こう。王都の王と、語らい、商会の不正を、白日の下に、引きずり出す』


その力強い言葉に、わたくしは、確かな手応えを感じた。


包囲網は、整いつつあった。下からは、本物の味を知り商会に背を向けた王都の民。

上からは、隣国の王の正式な後ろ盾。そして、わたくしの手には、商会の悪事を暴く動かぬ証拠。


かつて、たった独りで辺境に追われたわたくしには、何の力もなかった。けれど、今は違う。

料理で繋いだ人々の心。旅で結んだ各国との絆。

前世から受け継いだ知略。そのすべてが、今、一つの大きな力となって巨悪を包み込んでいく。


商会は、もう逃げられない。あとは、この包囲をゆっくりと狭めていくだけだ。


「待っていなさい、バルトロス商会」

わたくしは、夜空を見上げ、静かに呟いた。


「あなたたちが、奪い、溜め込み、隠してきたもの。——その、すべてを。白日の下に、晒してみせます」


決着の時は、刻一刻と近づいていた。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

続きが気になったら、評価とブックマークで応援いただけると執筆の励みになります!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ