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【完結】追放された令嬢ですが、前世は料理人でした ~辺境で餌付けしていたら、冷徹な旦那様に溺愛されています~  作者: 更田遅筋
第14章 王都に舞い戻る

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第131話 旅の絆を呼び集めて

トマの住まいを出たわたくしは、すぐに動きはじめた。


商会とまともに正面からぶつかっても、勝ち目は薄い。向こうは、金も人脈も、役人とのつながりも握っている。

けれど、わたくしには、商会が決して持っていないものがあった。


旅で結んだ絆だ。


「アルヴィス様。各地へ、文を送ります」

わたくしは、宿の机に向かって羽根ペンを取った。


「わたくしたちが、これまで救ってきた、すべての土地へ」


商会の力の源は、麦の買い占めにある。王都に出回る麦を握り、値を吊り上げて人々を支配している。

ならば、その独占を崩せばいい。商会の手の届かない別の場所から、本物の食材を、大量に運び込むのだ。


幸い、わたくしには、その当てがいくらでもあった。



豊かな実りを取り戻したヴァルド。潤いの戻ったサウディス。

清らかな水の湧くミルディア。海の恵みあふれる群島。

——どこも、かつて、わたくしたちが、神々の力を解き、飢えや渇きから救った土地だ。


そして、それらの土地の人々は、わたくしに深い恩義を感じてくれている。


筆を走らせながら、旅の日々が胸に蘇った。飢えた村で最初のスープを振る舞った日。

砂漠で命の水を分かち合った夜。海辺で新たな同志と食卓を囲んだ時。

——その一つひとつが、今、確かな力となって、わたくしの背を、押してくれる。


「アスタリカへも、文を」

「レオハルト陛下と、ガルム将軍になら、きっと、力を貸していただけます」


かつて敵国だったアスタリカとは、料理を通じて固い同盟を結んだ。あの誇り高き王と将軍は、義理を何より重んじる人たちだ。

王都の窮状を伝えれば、必ず応えてくれる。



文を書き終え、早馬と、ナギの手配する船で各地へ送り出した。


数日のうちに、返事は、続々と届いた。


ヴァルドのセバスからは、「最上の麦を、ありったけ荷車に積んで送ります」と。サウディスからは、滋養あふれる乾物と香辛料。

ミルディアからは、清冽な水で育てた、瑞々しい野菜。群島のナギの仲間たちからは、新鮮な海の幸が。


どの返書にも、ただ食材を送るだけでなく、あたたかな言葉が添えられていた。「あなたのおかげで、村は救われた。今度は、わたしたちが恩を返す番だ」「困っている人がいるなら、迷うことはない。すぐに、送る」——文字の一つひとつから、人々の、心からの感謝が、伝わってきた。


胸がいっぱいになった。旅の途中では、ただ無我夢中で、目の前の苦しむ人を救ってきただけだった。

けれど、その一つひとつが、こうして確かな絆となって、今のわたくしを支えてくれている。


そして、アスタリカのレオハルトからは、こんな返書が届いた。


『あなたの頼みとあれば、断る道理はない。我が国の倉を、開こう。麦でも、肉でも、好きなだけ持っていくがいい。——困った時は、お互い様だ。あなたが、我が国を救ってくれたように』


その文面に、胸が熱くなった。独りでは決してできないこと。

けれど、旅で結んだ縁が、こうして一つに集まれば。商会の独占さえ揺るがすことができる。


「すごい量だな」

アルヴィスが、続々と届く食材の報せに、目を細めた。


「これだけあれば、王都の市場を、丸ごと潤せる」


「ええ」

わたくしは、頷いた。


「商会が、どれだけ買い占めようと、関係ありません。わたくしたちには、世界中から集まる本物の恵みがあります」


商会は、人々の食卓を人質に取った。けれど、その人質を、わたくしたちは別の道から救い出せる。

食べ物で人を支配しようとした者は、食べ物でその足元を崩される。



「でも、ただ食材を配るだけでは、足りません」

わたくしは、考えを巡らせた。


「人々に、思い出してもらわなければ。本物の食べ物の、味を。あたたかな食卓の、喜びを」


商会の支配に慣れきった人々は、諦めている。粗悪な品を高い値で買うことに。

けれど、一度本物の味を知れば。人は、二度とまがい物には戻れない。


それは、前世で経営の仕事をしていた頃に学んだことでもあった。人の心を本当に動かすのは、理屈ではない。

実際に目で見て、舌で味わった確かな体験だ。どれだけ言葉で訴えるより、ひと口の感動が、人を変える。


「炊き出しを、しましょう」

「王都の広場で。集まった食材で、あたたかい料理を振る舞うんです。飢えた人々に、まずは、ひと皿の幸せを」


それは、戦いの始まりの狼煙だった。剣も、神の力も使わない。

ただ、あたたかな一杯で、人々の心を取り戻していく。料理人としての、わたくしの戦い方で。


アルヴィスが、ふっと笑った。

「お前らしいな。——いいだろう。おれも、手伝う」


王都の空に、かすかな希望の匂いが漂いはじめた。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

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