表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】追放された令嬢ですが、前世は料理人でした ~辺境で餌付けしていたら、冷徹な旦那様に溺愛されています~  作者: P作
第13章 世界の始まりへ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
117/141

第117話 眠れる場所への糸口

統べる者を救う。そう決めたものの。


肝心の、その居所も、あのお方の眠る場所も、まだ何もわかっていなかった。手がかりは、初代辺境伯の日誌と覚え書き。

けれど、そこにも、具体的な場所までは記されていない。


「焦っても、仕方ない」

アルヴィスが、言った。


「一つずつ、糸を手繰るしかない」


その通りだった。わたくしは、もう一度、これまでに集めた断片を並べ直してみることにした。



救ってきた神々の記憶。覚え書きの伝承。

日誌の記述。


それらを卓に広げ、皆で囲んで考える。ふと、あることに気づいた。


「ねえ、ティナ。あなたが、初めて水の声を聞いたのは、どこ?」


「えっと……ミルディアの泉。すごく古い泉だった」


「ダグさんは?」


「俺は、鉱山のいちばん深いところだ。古い坑道の奥」


「ナギは、群島のいちばん深い海。みんな、共通してる」

わたくしは、呟いた。


「“古く”て、“深い”場所。世界の根源に近い場所で、声は、強く響く」


それは、料理で言えば、一番出汁の出る場所だ。素材の、最も深いところ。

雑味のない、純粋な旨味が湧き出す、源泉。世界の声もまた、きっと、最も古く、最も深い場所から湧き出している。

ならば、その源泉を、たどっていけば。


「あのお方の眠る場所も、きっと、世界で、いちばん古くて、いちばん深い場所」

わたくしは、確信を込めて言った。


「そこに、すべての声の源がある」



『——ほう。気づいたか』


ふいに、あの声が、頭の中に響いた。統べる者だ。

けれど、今度は、襲撃の気配はない。ただ、語りかけてくるだけ。


「……統べる者。あなた」


『感心したのだ。お前は、存外聡い』

その声には、どこか、面白がるような響きがあった。


『自力で、そこまでたどり着くとはな。よかろう。その見立て、間違ってはおらぬ』


なぜ、肯定するのか。訝しんだ。

けれど、統べる者の声には、あの底知れぬ疲弊と、かすかな期待のようなものが、滲んでいた。



『お前が、本気で、あのお方を救えると思うなら、来るがいい。世界の中心。すべての声が生まれ、還る場所。——“始まりの淵”へ』


「始まりの、淵……」


『だが、忘れるな』

声が、低くなる。


『そこへ至る道は、生半可な覚悟では越えられぬ。幾多の試練が、お前たちを阻むだろう。そして、その果てで、わしが待っている』


声が、遠ざかる。統べる者は、わたくしたちを、導いている。

敵でありながら、まるで試すように。あるいは——救いを求めるように。


(……やっぱり。あの人は)


わたくしは、確信を強めた。本当に、すべてを無に還したいだけなら、わたくしたちを淵へ招く必要などない。

放っておけば、いい。なのに、わざわざ道を示し、「来い」と言う。

それは、心のどこかで、まだ、誰かに止めてほしいと、願っている証ではないか。倒れる前のわたくしが、誰かに気づいてほしかったように。



「セラ。罠かもしれん」

アルヴィスが、警戒した。


「敵の言葉だ。鵜呑みには、できん」


「ええ。でも」

わたくしは、頷いた。


「あの声には、嘘はなかった、と思います。それに、どのみち、あのお方の眠る場所へは、行かなければならない。なら、統べる者の待つ、その場所こそ、わたくしたちの、目指す場所です」


罠か、否か。それでも、進むしかない。

世界を救うために。そして、統べる者を救うために。



その夜。出立の準備を進めながら、わたくしは厨房に立っていた。


長い旅になる。試練が待つ、という道。

だからこそ、皆の力になるものを、作りたかった。滋養があり、日持ちがして、食べれば心まであたたまるもの。


ヴァルドの燻製肉。乾燥させた根菜。

木の実と蜂蜜を固めた、携行食。前世の知識を総動員して、旅路を支える保存食を、こしらえていく。


燻製肉は、薄く削げば、噛むほどに旨味が滲む。乾燥根菜は、湯を注ぐだけで、滋味深い汁になる。

木の実と蜂蜜の塊は、ひと欠片で、疲れた体に力が戻る。どれも、見た目は地味だけれど、極限の旅で、心と体を支えてくれる、頼もしい味方だ。

手早く、確実に。けれど、一つひとつに、心を込めて。


「いい匂いだ」

アルヴィスが、厨房を覗いた。


「お前の作るものは、どんな時も、人をほっとさせる」


「そう、でしょうか」


「ああ。きっと、統べる者にも、届く」

その言葉に、わたくしは、微笑んで頷いた。



支度は、整った。


行き先は、世界の最も深い場所。——“始まりの淵”。

あのお方が眠り、統べる者が待つ場所。


長い旅だった。凍てつく辺境に嫁いだ、あの日。

誰にも必要とされず、ハズレスキルと笑われたわたくしが。今は、こんなにも頼もしい仲間と、世界の命運を賭けた旅に出ようとしている。

けれど、迷いは、なかった。


「行きましょう」

皆を、見渡した。


「すべてを終わらせ、すべてを救うために。わたくしたちの、最後の旅が、始まります」


ティナが、ダグが、ナギが。そして、アルヴィスが、力強く頷いた。

世界の根源へ。料理という希望を携えた旅が、今、新たな一歩を踏み出した。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

続きが気になったら、評価とブックマークで応援いただけると執筆の励みになります!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ