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【7/5 7AMに最終話投稿予定】追放された令嬢ですが、前世は料理人でした ~辺境で餌付けしていたら、冷徹な旦那様に溺愛されています~  作者: P作
第12章 海を越えて世界の真実へ

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第113話 統べる者へ続く道

口を開いた男から、わたくしたちは、知りうるすべてを聞き出した。


“統べる者”。前宰相のさらに上に立つ、滅び派の真の頭。

けれど、末端の手の者である男も、その正体までは知らなかった。


「おれたちは、ただ命じられるまま動くだけ。統べる者の顔を見た者はいない」

男は、力なく首を振った。

「ただ……ひとつだけ、聞いたことがある。あの方は、ずっと昔から生きていると。何百年も、いや、もっと昔から」


その言葉に、息を呑んだ。何百年も生きる者。 それは、もはや、ただの人間ではない。



「神の声を聞く者でありながら、滅びを望む者」わたくしは呟いた。

「そして、何百年も生きている。統べる者の正体が、少しずつ見えてきました」


おそらく、統べる者は、初代辺境伯と同じ時代を生きた者。あのお方の絶望を、間近で見た者。 けれど、初代辺境伯が希望を未来に託したのとは、逆に、その者は、絶望に呑まれてしまった。世界を救うことを諦め、いっそ滅ぼすことを選んだのだ。 同じ力を持ちながら、正反対の道を。そう考えれば、すべての辻褄が合う。


捕らえた手の者たちは、王都の騎士団に引き渡すことにした。彼らも、いずれ罪を償い、もし望むなら、やり直す道も、あるだろう。 あたたかなスープに涙した、あの男なら。きっと。


「ありがとう、ございました」引き立てられる間際、あの男が、ぽつりと言った。

「あのスープの味。おれは、一生、忘れません」


その言葉に、静かに微笑んだ。滅びを信じた者の心にも、あたたかさは、確かに届いたのだ。



その夜。館の書庫で、わたくしは、初代辺境伯の覚え書きを、改めて開いた。


色あせた羊皮紙。そこに記された、古い文字。 “神の声を聞く舌は、いつか必ず還ってくる”。その続きを、今のわたくしなら、読み解けるかもしれない。 海の神から聞いた真実を、手がかりに。


ティナも、ダグも、ナギも、アルヴィスも。皆が見守る中、ページをめくっていく。

そして——ある一節に、目が留まった。



「……ここに、書いてあります」

「“あのお方の御心は、ひとりの力では解けぬ。——されど、六つの輝きが揃い、諸々の声が和をなす時。凍てついた御心は、ついに融解せん”」


その古めかしい一節に、皆が、しばし沈黙した。詩のような、伝承のような、その言葉の意味を、わたくしは必死に読み解こうとした。


「六つの輝き……諸々の、声」呟いて

——はっと、息を呑んだ。


「まさか」


胸に下げた珠に触れる。味、潤い、水、火、風、海。 六つの珠。それは、六つの輝き。 そして、諸々の声とは、ティナ、ダグ、ナギ。声を聞く同志たち。


「……これは、わたくしたちのことだわ」

「わたくしが、旅で集めてきた、珠と仲間。それが、そっくり、ここに記されている」


その一節に、皆が、息を呑んだ。


「まさに、お前が、これまで集めてきたものだな」アルヴィスが、呟いた。


知らず知らずのうちに、わたくしは、初代辺境伯が遺した“あのお方を救う鍵”を、ひとつ、またひとつと手繰り寄せていたのだ。



「初代辺境伯は、ここまで見通していた」覚え書きを、抱きしめた。

「神々を救い、仲間を集めよと。そうすればいつか、あのお方の絶望を解けると」


託された希望。何百年も、未来へと繋がれてきた祈り。 それが今、わたくしの手の中で、形になろうとしている。


長い旅だった。凍てつく辺境に嫁いだ、あの日から。 飢えた土地を実らせ、渇いた国を潤し、敵国と手を結び、孤独な同志たちと出会った。その、ひとつひとつが、すべて、この日のための布石だったのだ。


「まだ、足りないものも、あります」

「救うべき神は、まだいるはず。声を聞く仲間も。そして、何より、あのお方の眠る場所を、突き止めなければ」



「行きましょう」皆を、見渡した。

「統べる者を退け、残る神々を救い、そして、あのお方のもとへ。世界の滅びを止める、その日まで」


「ああ」アルヴィスが、頷いた。

「どこまでも、共にだ」


ティナも、ダグも、ナギも、力強く頷いた。



その夜は、ヴァルドの館で、ささやかな宴を開いた。


旅の無事と、新たな仲間ナギを迎えての祝い。卓には、ヴァルドの恵みが所狭しと並んだ。 こっくりと煮込んだ、根菜のシチュー。ナギが「海の幸も負けてない」と持ち込んだ、干し魚の出汁が効いた汁物。 ふっくらと焼けた、麦のパン。山の幸と海の幸が、ひとつの食卓で出会っていた。


「うまい! ヴァルドの飯も、最高だな!」ナギが、頬を緩める。ティナと、ダグが笑う。アルヴィスは、いつものように静かに、けれど確かに目を細めて、スープを味わっていた。


その光景を眺めながら、胸が温かくなった。集った、声を聞く者たち。 守りたい、あたたかな食卓。これこそが、あのお方の凍った心を溶かす力になると。 そう、確信できた。



窓の外には、満天の星。その、ひとつひとつが、まだ見ぬ神々の灯のように瞬いている。


ひと皿の料理から始まった物語は。今、世界の運命を賭けた戦いの核心へと、確かな歩みを、進めていた。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

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