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【7/5 7AMに最終話投稿予定】追放された令嬢ですが、前世は料理人でした ~辺境で餌付けしていたら、冷徹な旦那様に溺愛されています~  作者: P作
第11章 動き出す影

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第103話 次なる扉

前宰相を捕らえてから、ひと月が過ぎた。

ヴァルドには、穏やかな日々が戻っていた。


畑は豊かに実り、井戸は清らかな水を湛え、村人たちの顔には笑顔が絶えない。

かつて痩せて凍えていた、この辺境は今や、人々の笑い声が響く豊かな土地に、なっていた。


その変わりようを眺めるたび、胸が温かくなる。

痩せて凍えていた、あの頃が、まるで、嘘のようだ。



ある朝のこと。

ティナが、水鏡を覗きながら声を上げた。


「セラ様! また見つけた! 遠くの地図に。——新しい、白い光が」


その言葉に、わたくしは駆け寄った。

水鏡には、ぼんやりと世界の地図が、映っている。


そして、その、どこか遠くで、ぽつりと白い光が瞬いていた。


「神の声を聞く、新しい仲間……ですね」


「うん。今度は、すごく遠い。海の向こうかも」ティナが、目を凝らした。


「でも、確かに、いる。——わたしたちみたいに、声を聞ける、誰かが」


新たな同志。

まだ見ぬ仲間。

世界には、まだ孤独に声を聞いている者がいる。

——その人を迎えに行く。


それも、わたくしたちの大切な使命だった。



「行きたいです」ティナが、まっすぐに言った。


「その子も、きっと独りで苦しんでる。——わたしが、そうだったみたいに。だから、迎えに行ってあげたい」


「俺も、だ」ダグが頷いた。


「声を聞く力で、苦しんでる奴を放っておけねえ。——一緒に行こうぜ」


二人の成長した姿に、深く頷いた。

かつて、救われる側だった子どもたちが。

今は、誰かを救う側に立とうとしている。

優しさの輪が、確かに広がっていく。


「ええ。——行きましょう。世界中の、声を聞く者たちを、一人ずつ、迎えに」



けれど、それは、ただの仲間集めの旅ではない。

前宰相の儀式によって揺らいだ、“あのお方”の眠り。

それは今も、少しずつ浅くなっている。


ティナの水鏡が時折捉える、世界の奥底の胎動。

——原初の神は、ゆっくりと目覚めへと、向かっている。


「急がねば、なりません」皆に、告げた。


「“あのお方”が、完全に目覚める前に。その絶望の理由を知り、癒す術を見つけ出す。——そのために、仲間の力が、神々の力が、必要なんです」


味、潤い、水、火、風。


五つの珠。


そして、集いはじめた、声を聞く仲間たち。

——それらは、すべて、来たるべきその日のための布石だった。



ふと、わたくしは、これまでの道のりを、思い返した。

凍てつく辺境に嫁いだ日。

痩せた大地と、空っぽの食料庫。

笑わない、冷たい辺境伯。

——あの頃は、すべてが絶望的に見えた。


けれど、あたたかな料理が、何もかもを変えていった。


飢えた土地を実らせ、渇いた砂の国に、潤いを取り戻した。


淀んだ湖の底で、諦めかけた神を救った。

敵国の火の山を鎮め、断崖の国で、忘れられた風の神に、声を届けた。

——そして、孤独に苦しむティナとダグを、仲間に迎えた。


一つ一つは、小さなひと皿。

けれど、その積み重ねが、今、世界を救う大きな力に、なろうとしている。

料理が、人を繋ぎ、神を救い、国を越えた。

——その手応えが、わたくしの胸に、確かにあった。



その夜。

わたくしは、アルヴィスと二人、館のテラスに立っていた。


「長い旅に、なりそうだな」アルヴィスが、夜空を見上げて言った。


「ええ」わたくしは頷いた。


「“あのお方”のもとへ、たどり着くまで。きっと、まだ、たくさんの出会いと別れが、あるでしょう。——でも」


わたくしは、彼の手を握った。

「あなたが、隣にいてくれる。仲間が、ともに歩んでくれる。——それさえあれば、どんな遠い道も、怖くはありません」


アルヴィスが、わたくしの手を握り返す。

その温もりが、何より確かな力をくれた。


「ああ。——どこまでも共にだ」彼は、静かに微笑んだ。


「お前と出会えて。おれの凍った世界は、こんなにもあたたかくなった。——今度は、おれたちが、世界に、そのあたたかさを返す番だ」



見上げれば、満天の星。


その一つ一つが、まるで、まだ見ぬ仲間たちの瞬きのように。

あるいは、救いを待つ神々の灯のように。


——夜空に、輝いている。


味にうるさいだけと笑われた令嬢は、今、世界を救う料理人になろうとしている。

前世の知識と、ハズレと笑われた舌を武器に。

たった、ひと皿から始まった物語は。

——いつしか、世界の運命を左右する大きなうねりへと、育っていた。


まだ見ぬ仲間のもとへ。

眠れる“あのお方”のもとへ。


そして、すべての謎が眠る、世界の核心へ。

なぜ、わたくしは、この世界に転生したのか。


初代辺境伯と原初の神の間に、何があったのか。

そして、神の声を聞く力を持ちながら滅びを選んだ者の、その絶望とは。


——すべての答えは、まだ闇の中にある。

けれど、わたくしは、もう立ち止まらない。


一つずつ謎を解き、一人ずつ仲間を集め、いつか必ず、その核心へたどり着いてみせる。


——声を聞く者たちの本当の物語は、ここから始まる。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

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