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【7/5 7AMに最終話投稿予定】追放された令嬢ですが、前世は料理人でした ~辺境で餌付けしていたら、冷徹な旦那様に溺愛されています~  作者: P作
第11章 動き出す影

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第102話 それぞれの想い

前宰相を捕らえた後。

王都は、ようやく、落ち着きを取り戻した。

国王は、わたくしたちの働きを大いに称えた。


出頭命令という汚名はすべて晴れ、ヴァルドへの嫌疑も、完全に撤回された。

それどころか——。


「ヴァルド辺境伯夫人、セレスティア。——そなたを、王国の特別な客人として遇する」国王は宣言した。


「今後、王国は、そなたの戦いを全面的に支援する。世界の滅びに抗う、その戦いを」


王国の後ろ盾。

それは、大きな力だった。

アスタリカに続き、母国の王権も。

——確かな味方として、得たのだ。



ヴァルドへの帰り道。

馬車の中は、賑やかだった。


ティナとダグが、王都での出来事を興奮気味に語り合っている。


「ティナの水鏡、すごかったな。敵の動き、全部お見通しだった」


「ダグの地の声だって。地下道のこと、すぐ分かったじゃない」


二人は、すっかり打ち解けていた。

かつて、それぞれの土地で孤独に苦しんでいた子どもたちが。

それが今は、互いの力を認め合い、笑い合っている。


——その姿が、何より嬉しかった。


「二人とも、本当によく頑張りました」

「あなたたちがいなければ、宰相の企みは暴けませんでした。——立派な、わたくしの仲間です」


ティナとダグが、照れくさそうに顔を見合わせた。



「なあ、セラさん」ふと、ダグが真剣な顔になった。


「前宰相が言ってた、あの言葉。——本当の黒幕は、俺たちと同じ、神の声を聞く者だって。あれ、どういうことなんだ」


その問いに、馬車の中が、静かになった。


「……正直、わたくしにも、まだ分かりません」正直に、答えた。


「でも、もし本当だとしたら。——とても悲しいことです。わたくしたちと同じ力を持つ者が。世界を救うのではなく、滅ぼそうとしている」


なぜ、同じ声を聞く者が滅びを望むようになったのか。

そこには、きっと、何か深い理由がある。

わたくしには、それを知る必要があった。


「だからこそ、わたくしは、その人に会いに行きたい」

「そして、できることなら。——その人の心も、救いたいのです」



ヴァルドに戻ると、セバスや村人たちが、温かく出迎えてくれた。

久しぶりの我が家。

そして、あたたかい食卓。


——遠く王都で戦ってきた疲れが、ふっと癒えていく。


その夜。

わたくしは、皆のために腕をふるった。


王都での勝利を祝う、ささやかな宴。

卓には、ごちそうが所狭しと並ぶ。


とろりと煮込んだ、肉のシチュー。

ダグの掘り当てた井戸水で炊いた、つやつやの穀物。

ティナが「いちばん甘い」と選んだ野菜の丸焼き。

そして、蜜をたっぷりかけた焼き菓子。


湯気と香ばしい匂いが、館いっぱいに満ちる。

村の子どもたちが歓声を上げ、大人たちも、杯を交わして笑う。


「やっぱり、セラ様のご飯が、いちばん」

ティナが、焼き菓子を頬張り、頬を緩めた。


「ああ。——この味のために、また頑張れる」

ダグも、シチューをすすり、しみじみと言った。


鉱山で乾物しか知らなかった青年が、今は、こうして、あたたかい食卓を心から味わっている。


その光景を眺めながら、ふと、思った。

ダグが掘り当てた井戸の水。

ティナが選び抜いた、いちばん甘い野菜。

——かつて「嘘つき」と疎まれ、「気味が悪い」と恐れられた、二人の力。


それが今、こうして、あたたかな御馳走に変わり、みんなの笑顔を生んでいる。

誰も、その力を恐れない。

むしろ、ありがとう、と笑いかける。


胸が、熱くなった。


孤独だった、声を聞く子どもたちが、ここに、確かな居場所を見つけたのだ。

家族のように囲む、あたたかな食卓。


その中に、二人は、いる。


——ふと、あの黒幕の影が、よぎった。同じ声を聞く力を持ちながら、何千年も、ただ一人で苦しみ、世界を滅ぼしたいと願うまでに、孤独だった者。もし、あの人にも、こんな食卓があったなら。誰かと笑い合える居場所が、あったなら。——きっと、滅びなど望まなかった。


「……だから、わたくしは」小さく、呟いた。


守りたい。

この、あたたかさを。


そして、いつか、あの孤独な神にも。

——同じ温もりを、届けたい。



宴の後。


わたくしは、アルヴィスと二人、星空を見上げていた。


「いよいよ、だな」アルヴィスが、静かに言った。


「“あのお方”。そして、その背後の、神の声を聞く者。——お前の戦いは、これから、本当の核心に入る」


「ええ」わたくしは頷いた。


「怖くないと言えば、嘘になります。——でも」


わたくしは、隣のアルヴィスを見上げた。

そして、振り返れば、館の窓に灯る温かな明かり。

仲間たちの、笑い声。


「これだけ、たくさんのものを、守るために。——わたくしは、戦えます。どこまでも」


「ああ。——二人で。いや、みんなでだ」



その夜、眠りにつく前。

わたくしは、五つの珠を、そっと手のひらにのせた。

味、潤い、水、火、風。

救ってきた、神々の力。


けれど、今夜は、その重みより、胸を満たす温もりのほうが、ずっと大きかった。


仲間たちの笑い声。

アルヴィスの手の温もり。

村人たちの、はじける笑顔。

——わたくしが守りたいのは、世界などという大それたものより、まず、この目の前の、ささやかな幸せなのだ。


(……必ず、守ってみせます)


どんな戦いが待っていようと、この、あたたかな日常を手放さない。

その、ささやかで強い覚悟こそが、きっと、どんな大きな敵にも立ち向かう力に、なる。


わたくしは、珠を、そっと握りしめた。

明日も、また、みんなのために、台所に立とう。

——そう思いながら、穏やかな眠りに、ついた。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

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