表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【7/5 7AMに最終話投稿予定】追放された令嬢ですが、前世は料理人でした ~辺境で餌付けしていたら、冷徹な旦那様に溺愛されています~  作者: P作
第11章 動き出す影

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
100/122

第100話 前宰相の足掻き

宮廷での捏造が暴かれてから、数日。


王国は、大きく動いた。


捕らえた文官たちの証言と密書から、前宰相が王都に張り巡らせていた繋がりが、次々と明らかになっていった。


協力者の貴族、買収された役人。


——その根は、思いのほか深かった。


「これで、奴の王都での足場は、ほぼ断ち切れました」国王の御前で、報告する。


「あとは、前宰相本人を捕らえるのみ。——ですが、あの男のことです。必ず、最後の抵抗を、仕掛けてくるでしょう」



その予感は、的中した。


ある夜。


ティナの水鏡が、不穏な動きを捉えたのだ。


「セラ様……来てる。たくさんの人が。王都の外れに集まってる」ティナが、青ざめた。


「武器を持った人たち。それに——あのヴェルナーも、いる」


ヴェルナー。


前宰相の腹心。


鉱山で、ヴァルドで対峙した、あの男。


それが手勢を率いて、王都に現れた。


「最後の賭けに出る気ですね」目を、細めた。


「足場を失った前宰相が。残った戦力をすべてつぎ込んで。——力ずくで、形勢をひっくり返そうとしている」


ティナが、さらに水鏡を覗き込み、青ざめた。


「セラ様……数が、多い。すごく多い。宮廷の衛兵だけじゃ、とても足りない。——前宰相、王都の外から、傭兵まで、かき集めてる」


その言葉に、場が緊張した。


敵の規模は、こちらの想定を上回っていた。


このままでは、王宮が包囲され、押し切られかねない。


——けれど、わたくしは慌てなかった。


こういう事態を見越して、手を打ってあったからだ。



ダグが、地面に手を当てた。


「……ああ。聞こえる。大勢の足音。それと——地下だ。古い隠し通路を通って、王宮に近づこうとしてる奴らもいる」ダグが、目を見開いた。


「このままだと、奴ら、地下から王宮に侵入するぞ」


正面の手勢は、囮。


本命は、地下からの奇襲。


——またしても二段構えの策。


けれど、こちらには、ダグの地の声と、ティナの水鏡がある。


敵の企みは、すべて見えていた。


「アルヴィス様。地下道の防衛を。わたくしは、地上の対応を」


「分かった。——気をつけろ」


王宮の衛兵たちと連携し、迎撃の態勢を整えた。


ダグの案内で、地下道に伏兵を配置し、ティナの水鏡で、敵の動きを逐一把握する。


前宰相の奇襲は、こちらに筒抜けだった。


「待った」ダグが、坑道の壁に拳を押し当てた。


「水鏡で見えにくい、地下の暗がりは、俺に任せろ。——壁を叩いた音の、跳ね返りで分かる」


こんこん、と、ダグが岩壁を叩く。


その反響に、じっと耳を澄ます。


「……来てるのは、十三人。先頭が二人、少し離れて、後続が固まってる。——三つ目の角の、向こうだ」


地の声を聞く力は、足元を崩すだけではない。


岩の反響を読めば、闇の中の敵の数も、位置も、隊列までも、手に取るように分かる。


——闇は、もはや、敵の味方ではなかった。


「来ます。——ダグさんの言うとおり」ティナも、水鏡で裏づけた。


その声を受け、衛兵たちに合図を送る。


敵が角を曲がった、その瞬間、待ち構えていた衛兵たちが、一斉に躍り出た。


不意打ちのつもりが、逆に待ち伏せされていた敵。


混乱する足元を、ダグが地の声で崩し、体勢を崩したところへ、アルヴィスの剣が走る。


峰打ちで、次々と当て身を決めていく。


殺さず、捕らえる。


——それが、わたくしたちの流儀だった。


地下道の手勢は、あっけなく取り押さえられた。


けれど——地上の敵は、桁違いだった。


王宮を、ぐるりと取り囲む、おびただしい数の、傭兵たち。


宮廷の衛兵だけでは、明らかに、数で、劣勢。


じりじりと、包囲の輪が、狭まっていく。


「ふはは! どうした、辺境伯夫人!」物陰から、ヴェルナーの嘲笑が響いた。


「いくら、お前たちの力が優れていても。——この数の差は、覆せまい!」


その勝ち誇った声に、わたくしは、静かに微笑んだ。


「ええ。——わたくしたちだけ、ならば」


その時だった。


王都の城門の方角から、突如、地響きのような馬蹄の轟きが近づき——夜闇を裂いて、一団の騎兵が、敵の背後へと雪崩れ込んだ。


「——待たせたな、料理の御仁!」


豪快なその声は、ガルム将軍だった。


アスタリカの精鋭を率い、王都の近くで、この時を待っていたのだ。



「な、なぜ、アスタリカの兵が、ここに……!?」ヴェルナーが、絶叫した。


「陛下の勅書があります」告げた。


「アスタリカの精鋭が、王国の要請に応じ、王都の防衛に加わる。——正式に許された、同盟の助太刀です。ガルム将軍には、レオハルト陛下の護衛として、王都の近くで待機していただいていました。足場を失った敵が、最後に数で押すことは、読めていましたから」


他国の兵が、勝手に王都を侵すのではない。


王国の要請に応じた、合法の助力。


——敵の二段構えを、さらに上回る一手だった。


ガルム将軍の精鋭に背後を突かれ、傭兵たちの包囲は一気に崩れた。


挟み撃ちにされ浮足立つ敵を、アルヴィスと衛兵たちがたたみかける。


——前宰相の最後の賭けは、もろくも崩れ去った。


「ぐっ……! なぜだ。なぜ、我らの動きが、ことごとく……!」


縄を打たれたヴェルナーが、悔しげに呻いた。


「あなた方は、影で動くことに慣れすぎたのです」静かに、告げた。


「けれど、世界には。その影を、すべて照らし出す光がある。——わたくしたちの、力が」



ヴェルナーは、捕らえられた。


けれど、肝心の前宰相の姿は、どこにもなかった。


手勢を、囮にも奇襲にもつぎ込みながら。


当の本人は、またしても、姿をくらませている。


「……逃げ足だけは、相変わらず速いですね」わたくしは、ため息をついた。


「だが、もう追い詰めた」アルヴィスが言った。


「王都の足場も、戦力も失った。——奴に残された場所は、もう、ほとんどない」


その通りだった。


前宰相は、もはや裸同然。


あとは、その逃げ込んだ先を突き止め、捕らえるだけ。


「ティナ。——前宰相の行方を、追えますか」


「やってみる」ティナが、水鏡を覗き込む。


けれど、すぐに、その顔が曇った。


「……だめ。また、あの黒いもやが。前宰相のいる場所だけ、すっぽりと隠れてる」



黒いもや。


——水鏡を弾く、術具の力。


前宰相は、その術具を使って、ティナの追跡から逃れている。


やはり、あの男は。


滅びを望む者たちの力を、その身に深く宿しているのだ。


「……ですが、いずれ、必ず見つけ出します」わたくしは、決意を新たにした。


「あの男を捕らえ。その口から、“より大きな黒幕”の正体を、聞き出す。——それが、世界を救う、次の一歩です」



戦いの後。


わたくしは、ガルム将軍に、深く頭を下げた。


「本当に、助かりました。——あなたが来てくれなければ、危ういところでした」


「なに、礼には及ばん」ガルムは、豪快に笑った。


「困ったときは助け合う。——それが、絆ってもんだろう。あんたが、俺たちに教えてくれたことだ」


その言葉が、胸に染みた。


料理で繋いだ、国を越えた縁。


それが今夜、確かに命を救う力になった。


一人では、たどり着けなかった場所に、わたくしは立っている。


——皆のおかげで。


「何を、考えている」アルヴィスが、隣に並んだ。


「ここまで来られたのは、皆のおかげです」微笑んだ。


「前宰相を捕らえれば、きっと、すべての謎に近づける。待っていてください。あなたの背後にいる本当の敵を。——必ず、その正体を暴いてみせます」


前宰相との決着は、もう、目前に迫っていた。


そして、その先に待つ、本当の敵の影も。


——少しずつ、その輪郭を現しはじめていた。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

続きが気になったら、評価とブックマークで応援いただけると執筆の励みになります!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ