小さな勝利の積み重ね
ルナリアとコンビを組んでから、数日が経過した。
その間、俺たちはほとんど毎日一緒に依頼を受けていた。
朝、ギルドで顔を合わせるなり彼女が元気よく声をかけてくる。
「零! 今日もよろしくね! あたし、昨日の反省を活かして新しい魔法、練習してきたわよ!」
ポニーテールを跳ねさせ、碧い瞳を輝かせるルナリア。
彼女の行動力は相変わらずで、俺が返事をする前に次の依頼板の前に立っている。
「行商人護衛の依頼がいいわ!零の戦略があれば、絶対に安全にこなせるはず!」
「……お前、ほんとに止まらないな」
俺は苦笑しながらも、結局その依頼を受けた。
最初の依頼は街道沿いの行商人護衛だった。
荷馬車を三台守りながら、隣町まで移動する比較的簡単な仕事。報酬は一人あたり銅貨40枚。
道中、魔物が現れる可能性があると聞いていたので、俺は境界演算システムをフル活用した。
「ルナリア、前方八十メートルに反応あり。魔狼が二匹、茂みに潜んでいる。右から来るぞ」
「了解!」
ルナリアは即座に杖を構え、俺の指示通りに位置を取った。
彼女は本当に動きが速い。猪突猛進に見えて、実は俺の言葉を正確に理解して動いている。
魔狼が飛び出してきた瞬間、俺は叫んだ。
「今!右のやつに『炎の矢』を二連射!左は足止め!」
ルナリアの魔術が炸裂する。
炎の矢が正確に魔狼の急所を捉え、俺が予測した通りにもう一匹が怯んだ隙にトドメを刺した。
「やった!零の予測、完璧!」
戦闘後、ルナリアが俺の背中を勢いよく叩いてきた。
痛いくらいの力だったが、嫌な気はしなかった。
行商人のおっさんが感激した様子で頭を下げてくる。
「ありがとうよ、二人とも! 特にあんた(零)、まるで戦いを読んでるみたいだったぜ。『境界の賢者』って呼んでもいいか?」
「……好きに呼んでくれ」
その日から、ギルド内で少しずつ俺のあだ名が広がり始めた。
二日後、次の依頼は「魔狼の群れ撃退」だった。
リヴェール近郊の農村を襲っている小規模な群れを退治する仕事。報酬は銅貨55枚と少し高め。
現場に着くと、十匹近い魔狼が村の周囲をうろついていた。
ルナリアは杖を握りしめ、目を細めた。
「零、どうする? あたしは突っ込んでいけるけど……」
「待て。無茶するな」
俺は地形を素早く頭に叩き込み、演算システムでシミュレーションを走らせた。
ゲームで培ったAI思考——敵の行動パターン予測、群れの連携崩し、効率的な殲滅ルート。
「ルナリア、まずあの大きな岩の上に登れ。そこで広範囲の『風の渦』を使って狼たちを中央に集めてくれ。俺が魔法陣を設置する」
「わかった! 任せて!」
ルナリアは軽快に岩を登り、魔術を発動させた。
風が渦を巻き、魔狼たちを一箇所にまとめる。
その間に俺は地面に簡易魔法陣を三つ描き、連鎖するように最適化した。
「発動!」
魔法陣が光り、拘束の鎖のような光が魔狼たちを絡め取った。
ルナリアがその隙に次々と炎の矢を撃ち込み、俺も石つぶての魔術で援護する。
五分とかからずに、群れは壊滅した。
村人たちが集まってきて、俺たちに頭を下げた。
「ありがとうございます……! 本当に助かりました!」
「特にあの黒髪の青年、すごかった……まるで戦場を操ってるみたいだった」
ルナリアが俺の隣で胸を張る。
「でしょ!あたしの相棒はすごいんだから!」
その夜、ギルドの酒場で少しだけ祝杯を挙げた。
ルナリアは麦酒をぐいぐい飲みながら、俺に向かって笑顔を向ける。
「零、この数日で本当にすごいわよ。あんたが来る前は、こんなに効率よく依頼をこなせたことなかった。……あたし、零と組めてよかった」
俺は杯を傾けながら、静かに内心で呟いた。
(俺も……ここにいると、生きてる実感がある)
現実世界では、誰とも組まず、一人でゲームをやり、誰にも必要とされなかった。
でもここでは違う。
ルナリアが俺を頼ってくれる。村人たちが感謝してくれる。
ギルドの冒険者たちも、俺のことを「境界の賢者」と呼んで、少し畏敬の眼差しを向けてくる。
この数日で、滞在可能時間もかなり延びていた。
もう現実に戻るのが、遠い出来事のように感じ始めていた。
「零? どうしたの、ぼーっとして」
ルナリアが俺の顔を覗き込んでくる。
「……なんでもない。ただ、少しこの世界が気に入ってきただけだ」
「ふふん、そうでしょう?あたしも零のこと、気に入ってるわよ!」
彼女の明るい笑顔を見ていると、胸の奥が温かくなった。
しかし、そんな穏やかな日々は長く続かなかった。
翌朝、ギルドに緊急の依頼が貼り出された。
【緊急依頼:辺境の村リヴェールへの救援】
内容:大規模な魔獣の群れが接近中。村の壊滅の危機。
報酬:銀貨5枚+特別ボーナス
ルナリアがその依頼を見て、表情を強張らせた。
「……この村、あたしの元領地に近いところ……」
彼女の声が少し震えていた。
俺は依頼書を見つめながら、覚悟を決めた。
小さな積み重ねは、ここで終わりを告げようとしていた。




