銀髪の魔術師見習い
翌朝、ギルドに足を運ぶと、すでにルナリアが待っていた。
「おはよう! 零! 今日こそ一緒に依頼受けようよ!」
俺の目の前まで駆け寄ってきた。
碧い瞳が朝の陽光を反射して輝いている。動きやすい旅装に身を包み、腰には短めの杖を差している。貴族の血筋を感じさせる整った顔立ちなのに、表情はどこか野性的で活発だった。
「……お前、いつもこんなに元気なのか?」
「当然でしょ!あたしはルナリア・ヴォルテル、魔術師見習い!」
彼女は胸を張って名乗った。
受付嬢が苦笑しながら俺に声をかける。
「零さん、ちょうどいいところに。『魔術師見習いの護衛』という依頼が出ています。ルナリアさんが希望者を探していて……どうでしょう?」
俺は依頼内容を確認した。
内容:リヴェール近郊の遺跡調査への同行護衛。報酬は銅貨45枚。危険度は中程度。
(護衛……俺に戦闘経験なんてないけど、頭でカバーできるかもしれない)
ルナリアが俺の顔を覗き込んでくる。
「ねえ、零。あんたの知識、絶対に役立つと思うの!昨日みたいな魔法陣の最適化、遺跡でもできるでしょ?一緒にいこうよ!」
彼女の勢いに押され、俺は結局頷いていた。
正直、ルナリアの行動力は少し怖い。でも、昨日からの小さな成功が俺に「試してみるか」という気持ちを与えていた。
「わかった。一緒に行く」
「やった! 決まりね!」
ルナリアは飛び上がって喜び、俺の手を掴んでギルドの外へ引っ張り出した。
遺跡までは街道を歩いて二時間ほど。
道中、ルナリアは止まることなく話しかけてきた。
「零って、どこから来たの?名前も見た目もこっちの人じゃないよね。召喚士?それとも異世界人?」
「……まあ、そんなところだ」
「へえ!やっぱり!あたし、召喚された人って初めて会った!どんな世界なの? 魔法はある? 空飛べるの?」
質問が矢継ぎ早に飛んでくる。
俺は適当に答えながら、内心で驚いていた。
現実世界では誰も俺にこんなに興味を持ってくれなかった。
ルナリアは本当に、俺のことを「面白い存在」として見ているらしい。
途中で小さな村を通りかかったとき、ルナリアは突然足を止めた。
「ちょっと待ってて!」
彼女は路地裏に駆け寄り、そこにいた貧しい子供たちに声をかけた。
三人の子供たちが、汚れた服で地面に座っていた。
「みんな、元気? 今日はこれあげるね」
ルナリアはポケットから干し果物を取り出し、子供たちに配った。
さらに小さな魔術を披露する。
指先から淡い光の蝶が飛び出し、子供たちの周りを舞う。
「わあ、すごい!」
「ルナリア姉ちゃん、魔法使いだ!」
子供たちが笑顔になる。
ルナリアは屈んで子供たちの頭を優しく撫でながら、
「ちゃんとご飯食べて、風邪引かないようにね。あたし、また来るから」と明るく言った。
その姿を、俺は少し離れたところから見ていた。
(……あいつ、ただの元気者じゃない)
子供たちに別れを告げて戻ってきたルナリアは、俺の視線に気づいて笑った。
「ごめん、待たせちゃった。……あたし、昔は貴族だったんだけど、今は没落しちゃってさ。母さんと弟がいるの。毎日食べるのもギリギリで……だから、子供たちを見ると放っておけないの」
彼女は照れくさそうに銀髪をかき上げた。
「でも、愚痴じゃないわよ! あたしは自分で何とかするつもり。零みたいに頭のいい人がいれば、もっと上手くいくと思うんだよね」
ルナリアの言葉に、俺は胸がざわついた。
現実の俺は、家族の心配すら鬱陶しく感じて逃げていた。
母親のラインも既読スルー。
でもルナリアは、貧困の中で家族のために行動し、他人にも優しさを分け与えている。
(俺とは、違う……)
「零? どうしたの? 難しい顔してる」
「……いや、何でもない。早く行こう」
遺跡に到着した。
入り口は蔦に覆われ、古びた石柱が並んでいる。
ルナリアは杖を構え、先頭に立った。
「あたしが魔術で道を照らすわ!零は後ろから解析して!」
内部は薄暗く、ところどころに魔物の気配があった。
小型のゴブリン数体が現れたとき、ルナリアは迷わず杖を振り上げた。
「燃えろ!炎の矢!」
小さな火矢が飛んでゴブリンを貫く。
動きは素早くて正確だった。猪突猛進だが、無駄がない。
俺は後方から境界演算システムを使って敵の動きを解析し「右から二体来る!ルナリア、左に回り込め!」と指示を出した。
彼女は即座に反応し、コンビネーションで敵を倒していく。
「零、ナイス!あんたの指示、めっちゃわかりやすい!」
戦闘後、ルナリアは興奮気味に俺の肩を叩いた。
「やっぱりあんたといると効率が全然違う!これからも一緒にやろうよ!」
遺跡の奥で目的の「古代の魔晶石」を回収し、依頼は無事完了した。
帰り道、ルナリアは俺の横を歩きながら、
「零、あんたはここで英雄になれるわよ。絶対に。……あたしも一緒に頑張るから!」
と力強く言った。
その言葉が、妙に胸に刺さった。
現実では価値のない俺が、ここでは——。
誰かに必要とされている。
ギルドに戻り、報酬を分け合うとき、俺は初めてルナリアに小さく微笑み返した。
「なあ、一緒にやろうか」
ルナリアの顔がぱっと明るくなった。
この瞬間、俺の異世界生活に、初めて「仲間」というものが生まれた。




