第三百九十四話:休暇から帰って
第十六章、開始です。
花の都の改善計画は順調に進んでいた。
港の建設、宿屋の土地確保、ポーションの生産など、少しずつではあるが、着実に進んでいる。
流石は、職人を集めた町だけはある。人手不足を感じさせないほどの速度は、見ていて気持ちのいいものだった。
みんなが、領主のために頑張ろうと思っている。
ラウネさんも、何か嬉しいことがあったのか、より一層張り切っている様子だし、これなら俺達が手を貸さなくても心配はないだろう。
ユグドラシルを離れてからすでに一か月以上が経過している。
そろそろ何か進展があるかもしれないし、戻って確認してみてもいいだろう。
そう言うわけで、後のことはラウネさんとディートリヒさんに任せ、ユグドラシルに戻ることにした。
「やあ、お帰り。息抜きはできたかな?」
「おかげさまで」
ユグドラシルに戻ると、いつものようにラスクさんが出迎えてくれた。
俺達が息抜きに花の都に行っている間も、ラスクさんは色々と調べ物をしてくれていたらしい。
なんだか申し訳ないと思いつつも、俺の心の安定に比べたら、全然気にしなくていいと言われた。
俺がアーリヤの生まれ変わりだからというのはあるだろうけど、こんなに優しくされるのは、前世ではありえなかったことだ。
このままだと、どんどん我儘になっていきそうだけど、そこらへんはちゃんと自制していかなければ。
「それはよかった。帝国とかの干渉も気にしてたけど、特にそう言うのもなかったみたいだね」
「それ以外の問題はあったがな。なぜ、休暇中に町の復興の手伝いをしていたのか」
「ああ、そんなことになってたんだ? それはご苦労様だったね」
リトは文句を言うけれど、結構楽しんでいたようにも思える。
あの町が、知り合いの町だったからというのもあるんだろうね。
俺も、なんだかんだ役に立てて嬉しかったし、後で様子を見に行ってみたいところだね。
「そちらは何か進展はあったか?」
「うん、あったよ。説明するね」
そう言って、ラスクさんは懐から紙束を取り出し、読み始める。
俺達が息抜きに行く前、ラスクさんは、帝国に潜入させた部隊からの連絡を待っていた。
帝国が開発した兵器の中に、幻獣の魔石を使ったものがあり、それは恐らく、グウィネが遣わせた幻獣であるということがわかっている。
だからこそ、それを助けるために、その気配を探っていたわけだけど、魔石は砕かれ、様々な場所で兵器に使われているようで、気配が分散し、本体がどこにいるのかがわからなくなっていた。
だからこそ、まずは魔石の欠片を回収し、的を絞ろうと機を窺っていたわけだが、最近になって、兵器の動きが活発になって来たのだという。
以前は、試作品の実験という形で、とある村を滅ぼそうとしていたけれど、その動きが各地で発生したって言うことだね。
帝国本土では回収が難しくても、離れればまだ何とかなる。
だから、ラスクさんは、その兵器の回収を幻獣達に指示していたわけだけど、一筋縄ではいかなかったようだ。
「どうやら、帝国は前に兵器を回収されてしまったことを相当警戒しているっぽくてね。兵器を回収しようとすると、例の拘束兵器を持ちだして、こちらの幻獣を捕まえようとしてきたんだよ」
俺達が回収したロボ、レイヴンは、かなり巨大で、通常の方法で鹵獲されることはほぼない。
しかし、それが回収されてしまったから、これは人間業ではないと、幻獣の存在を疑っているようだ。
まあ、帝国の指揮官の前で、思いっきり人間離れした動きを見せつけてしまったし、神殿の反応も合わせれば、俺が人間ではないことくらいは想像がつくだろう。
もしかしたら、俺が召喚の際に姿を消したアーリヤだと考えて、捕まえようとしている可能性もある。
たとえそう考えていなくても、貴重な魔石の欠片を奪われたんじゃ堪ったものではないし、拘束兵器を追従させるのは当然と言えば当然か。
「まあ、こちらも警戒はしていたから、捕まってはいないけれど、おかげで回収も進んでいないってわけ」
「面倒だな。いっそのこと、遠距離から破壊してしまえばいいのではないか?」
「魔石の回収が目的なのに、それじゃ意味ないでしょ。拘束兵器に関しても、以前の戦いで学習したっぽくて、何か結界のようなもので守られるようになってるし、遠距離での破壊は難しいよ」
「帝国にしては頭がいいことをするな。勇者の入れ知恵か?」
「多分。困ったもんだよ」
下手に近づけば、拘束兵器の餌食になるし、遠くから破壊しようにも、並の攻撃では結界を突破できない。
まさに八方塞がりってわけか。
例の幻獣に関して、多少分かったことはあれど、これではあまり意味がない。
「そう言えば、例の幻獣の正体がわかったかもしれんぞ」
「ほんと? どこ情報?」
「花の都の幻獣からの情報だ。話によると、カラスではないかと言っていた」
「カラスか。そんな幻獣いたかなぁ……」
ラスクさんに話してみても、特に心当たりがないらしい。
ユグドラシルの管理者であるラスクさんが知らないとなると、本当にマイナーな幻獣か、このためだけに作り出した幻獣って言う線が濃厚かもしれないね。
「まあ、何者かはわからないけど、姿が明確になったのはいいことかもしれない。情報ありがとうね」
「これで取り返せたら文句はないんだがな」
魔石を砕かれている以上、まだ生きているのかどうかすら怪しいけど、帝国にとっても、幻獣は貴重な存在だろうし、流石に殺しはしていないと思う。
幻獣自体も、生存力は高いしね。
まあ、幻獣ではなく、魔石の力のみを求めているのなら、怪しいけど、そこは考えたくない。
生きていることを信じて、魔石を回収していくしかないね。
「現状、魔石の回収はできていない。あれを突破するには、かなりの高火力が必要になる」
「つまり、また白竜のの出番ということか?」
「そう言うこと。白竜君のブレスなら、たとえ結界を張られていようが、何とかなると思うんだよね」
一応、他の方法も試しはしてみたらしい。
例えば、俺と同じドラゴンのブレスなら、結界を突破できるのではないかと、やってみたらしいのだけど、やっぱり難しかったようだ。
どうにも、拘束兵器の影響を受けないくらい遠距離で、且つ正確に狙える高火力のブレスを放つことは難しかったらしい。
ドラゴンは、幻獣の中でも最上位に位置する種族ではあるけど、能力が高くても、その制御は大雑把だ。
針の穴を通すような、正確な制御をするような幻獣はあまりおらず、ただ力のままに薙ぎ払う方が得意なのである。
その点、俺は制御に関しては一級品らしく、それは以前のリルルさんの件でも明らかになっている。
だから、俺なら拘束兵器を破壊しつつ、魔石の回収も行えるというわけだ。
「まあ、あんまり帝国の前に白竜君を出したくないという気持ちはあるけど、こうでもしないと、帝国に捕らえられた幻獣は救えない。だから、やってくれないかな?」
「もちろん、まかせて」
リスクはあるかもしれないが、いつまでも帝国に幻獣を渡したままではいけないと思う。
それに、今まで任せっきりにしていた部分はあるし、俺の力が役に立つのなら、喜んで手を貸そう。
そう言うわけで、次に兵器が現れた地点に、向かうことになった。
「わかっているとは思うけど、くれぐれも捕まらないようにね。いざという時は助けに行くけど、捕まらないに越したことはないんだから」
「わかりました」
さて、ここまで休んでいた分、精一杯働くとしよう。
ひとまず、兵器が現れるのを待つために、またしばらくユグドラシルに滞在することになった。




