幕間:交易先の確保
主人公の保護者、リトの視点です。
新たな取引先の開拓。それは、とても難しい要望だった。
花の都は、行き止まりの領地であり、先には開拓もされていない森が広がっていた。
そこを切り開き、川まで繋げて、そこから船を出して、隣の領地を介さずに取引をする。
隣の領地にすべてを持っていかれるくらいなら、新たな取引ルートを開拓して、そこに身をゆだねるというのは、いい選択ではあるが、そもそも、取引先が見つかるかという問題があった。
なにせ、花の都は、隣の領地以外とはほとんど交流を持っていない。
貴族なら、社交パーティでもやって、交流を深めるものかもしれないが、あそこの領主は、引きこもりだからな。
交流があったとしても、せいぜい一、二回会った程度だろう。
そんな状況で、未知のルートを開拓してくれる取引先など、普通は見つからないと思う。
だが、そこは勝算があった。
なぜなら、船で行けそうな港町に、心当たりがあったからだ。
「まさか、こんな形で戻ってくるはめになるとはな」
「ここは、レヴィアの町か。案外近かったのだな」
やってきたのは、レヴィアが作り上げた港町。
日々、多くの貿易船が行きかう場所であり、各地から集まる珍しい品が店に並ぶ場所でもある。
船で来るにはそこそこ遠いが、隣の大陸を相手にしているようなこの港なら、それくらいの距離は訳ないだろう。
それに、ここなら知り合いもいるし、ちょうどいいと思ったのだ。
「しかし、本当に話をつけられるのか? まだ、何を売るかすら決まっていないんだろう?」
「そこは貴様の出番だ、イグニス。貴様の威圧なら、大抵の相手は言うことを聞く」
「脅すのか。まあ、それが一番手っ取り早いが」
本当なら、我がやりたいところだが、今はまだ、成長しきっていないこともあって、本来の姿になれない。
だが、イグニスであれば、そこらへんは問題なく、役割を果たすくらいはできるだろう。
連れてきていてこれほどよかったと思う時はない。
「だが、ここはレヴィアの町だろう? あまりでかい顔をすれば、怒られるのではないか?」
「ふむ。確かに、いきなり脅すのはまずいか」
レヴィアは温厚だし、町の人々にそこまで干渉することはないが、自分の縄張りで、知り合いとはいえ他の幻獣がいいように暴れまわったら嫌だろう。
そこまで大事にするつもりはないが、まずは正攻法で、話し合いから始めてもいいかもしれない。
こういうやり方はあまり好みではないが、レヴィアの機嫌を損ねるのも本意ではないし、ここは従っておくか。
「いいだろう。まずは話し合いから始めよう」
「よし、では、商会に行ってみるか」
まずは船を持っている商会を探す。
この町であれば、港の近くに大抵揃っているので、そのあたりを探ってみよう。
「はぁ、花の都への取引ですか?」
「そうだ。やってくれないか?」
「うーん、花の都は確かに有名ですが、交易路などはなかったはずですよね? どうやって行くんです?」
「そこはすでに道を作った。問題はない」
「はぁ、では、何を取引してくれるので?」
「そこはまだ決まっていないが、貴様らにも有益なものではあるだろう」
「ふぅむ……」
適当な商会に入って、話をする。
だが、反応はあまり芳しくなかった。
まあ、全く未知の航路、商品もわからないでは、確かに渋る気持ちもわかる。
せめて、Sランク冒険者ニクスとしての姿であれば、多少は耳を傾けてくれたかもしれないが、今は子供の姿だ。むしろ、本気で捉えられているかどうかすら怪しい。
結局、その商会は首を縦には振らず、追い出されてしまった。
これだから、話が通じない奴は困る。
「ダメだったな」
「やはり、威厳が足りんか? 元の姿であれば……」
「次は私が話してみるか?」
「我よりは効果がありそうだ。やってみろ」
「いいだろう」
気を取り直して、次はイグニスが話をしてみることにする。
イグニスの容姿は、人間としてはそこそこ老けて見える。それでいて、衰えを感じさせない筋肉もある。
歴戦の戦士と見られても不思議はないし、登録はしていなくても、Sランク冒険者並みの威厳くらいはあるだろう。
これで話を聞いてくれるなら、話は早いのだが……。
「うーむ、やはりだめか」
「なぜだ」
期待していたが、次に入った商会でも追い出されてしまった。
やはり、未知の交易ルートというのと、商品が決まっていないというのがネックらしい。
見切り発車してきたのが悪いが、これはよくない流れだ。
「どうしたものか……んっ? あれは」
悩んでいると、ふと視線の先に見知った姿が目に入った。
あれは確か、白竜のがちょっかいをかけていた子供ではなかったか?
あちらの方角は海岸だな。白竜のの話通り、また、ゴミ拾いでもしているってことだろうか。
「……試してみるか」
子供相手に話しても無駄だとは思うが、一応は知り合いである。
まあ、この姿では会ったことがないから、我の知り合いではないが、白竜のが目をかけるくらいなら、少しは話を聞いてくれる可能性もある。
そう思って、追いかけると、そこには漁師風の男と話す子供の姿があった。
あれは……奴の知り合いだって言う漁師だったか?
確か、レヴィアが助けた船長の船に乗っていたとか言う。
今は現役を退いているらしいが、奴なら、船も操れるはず。
少しは、可能性が見えてきただろうか。
「おい、ちょっといいか?」
「ん? なんだい嬢ちゃん」
「話がある」
我は、白竜のと知り合いだということを話しつつ、取引について話す。
白竜と直接言ったわけではないが、白竜のの知り合いと聞いて、驚いた様子だった。
だが、こちらが困っていると見ると、真剣に話を聞いてくれた。
「……なるほど、花の都に向けて、船を出してほしいと」
「そう言うことだ。できるか?」
「うーん……俺はもう引退した身だからな。他の仲間に声をかければ、出してくれるかもしれないが、見返りなしには動かないと思うぞ」
「なんだ、見返りがあれば動くのか?」
「そりゃ、儲けにならなきゃ漁師なんてやってられないさ」
「なら、こいつはどうだ?」
我は、こっそりと一部を幻獣に戻し、羽を一本取る。
フェニックスの羽は、死者すらも蘇らせると言われるくらいの再生力があり、一時期はそれ目当てで追い回されたほどの貴重品だ。
転生できる我からしたら、そこまでのものではないが、人間どもからしたら、喉から手が出るほどのものだろう。
「こいつは……ちょ、ちょっと触ってみてもいいか?」
「ああ」
男は、丁寧に羽を受け取ると、穴が開くほどに凝視し始めた。
今の時代だと、フェニックスの羽自体知らない奴もいると思うが、こいつはどうやら知っていたらしい。
これの価値がわかっているなら、あるいは。
「ほ、本当にいいのか? これは……」
「それが何かわかって言っているつもりだ。やってくれるか?」
「わ、わかった。漁師仲間に掛け合ってみる。その代わり、こいつは貰うぞ?」
「構わん。やってくれ」
そう言って、慌てた様子で漁師の男は去っていった。
さて、これで話が進むといいんだが。




