第三百九十三話:意外な情報
それからしばらくして、隣の領地からの返答が来た。
返答としては、条件を飲むとのこと。
あの領主の息子がうまくとりなしてくれたのだろう。思ったよりも、スムーズに事は進んだようだ。
これで、これ以上この町の開発に口を出されることはない。
まあ、完全に手を引いたわけではないかもしれないけど、これで何とかなりそうだ。
「思いの外、うまく行きましたね」
「そうだね。みんな、ありがとう」
領主の家に集まって、今回の結果を祝う。
まあ、これ以上開発されないとは言っても、まだ始まったばかりではある。
観光客が全く途絶えるということではないし、ポーションの生産も始まったばかりだ。
これから、残った問題を解決していき、うまく花の都を存続させなければ、これまでの苦労が無駄になってしまう。
領主やラウネさんには、ぜひ頑張ってもらいたいところだね。
「本当に、なんてお礼を言ったらいいか」
「礼など要らん。我は、ナツキのためにやっただけのことだ」
「それでも、町のために頑張ってくれたのは変わらないだろう? 本当にありがとう」
領主は俺達に深く頭を下げた。
ほんの息抜きのために来ただけの場所だったけど、思いのほか長居してしまって、俺もびっくりしている。
でも、なんだかんだ楽しかったし、息抜きとしてはちょうどよかったのかな。
「何かお礼を渡せたらいいんだけど、何がいいかな」
「別にいらん。強いて言うなら、この町を潰すようなことだけはするなよ」
「それはもちろん」
ナツキさんが、子供のために作り上げた町。
まさに、今の領主のために作られた町が、その代で潰れたら悲しすぎる。
せめて、港が完成するまで、あるいは戦争が終結するまで、見守っていた方がいいだろうか?
「ふふ、不思議だね。君と話していると、お父さんのことを思い出すよ」
「ナツキの?」
「うん。変わり者だったけど、とても優しい人だった。動物とも話せたみたいで、よく窓から話しかけていたのを見たことがあるよ」
「動物と?」
領主の言葉に、リトが訝しげに眉を顰める。
ナツキさんは、リトと知り合いだったけれど、別に何か特殊な能力を持っていたというわけではないらしい。
強いて言うなら、身体能力が高く、何でも一人でこなすような人だったというくらい。
動物と話すと言ったような、面白いエピソードはなかったとか。
「おい、それはいつの話だ?」
「えっと、僕がまだ成人する前の頃だよ。確か、ラウネもその時一緒にいたよね?」
「はい」
領主が成人する前というと、少なくとも数十年前ってことか。
子供だったから、見間違えた、という可能性もありそうだけど、ラウネさんも見ているとなると、その可能性は薄い気がする。
となると、その話していた動物というのは、一体何なんだろうか?
「あなたなら、ご存知なのでは?」
「知らん知らん。我がナツキと最後に会ったのは、この町ができて間もない頃だぞ」
どうやら、ラウネさんは、その動物がリトのことだと思っているようだけど、リトは知らないという。
確かに、幻獣の姿で会った、というなら、動物と話していたと見えてもおかしくはないけど、ニクスと名乗っていた以上、その時のリトは人の姿だったはずだし、そもそも幻獣の姿で姿を現すことは稀なリトが、いくら知り合いとはいえ姿を現すとは思えない。
とすると、その動物とは、一体誰だろうか?
「……確認ですが、その、ニクスさんは、カラス、ですよね?」
「は? 違うが」
「……では、あれはいったい……」
領主の前だからか、ラウネさんは少し言葉を濁しながら聞いたが、それは的外れなものだった。
カラスと聞くということは、その動物はカラスだったってことだろう。
しかし、リトは鳥ではあるけど、カラスとは程遠い見た目である。間違えるはずがない。
なんだかおかしな方向に進んできたな。
「おい、ちょっとこっちにこい」
リトは、ラウネさんを引っ張って部屋の隅に移動する。
俺も気になったので、その近くに寄って一緒に話を聞いた。
「一応聞くが、そのカラスとやらは幻獣だったんだな?」
「はい。人の言葉を喋っておりましたし、気配を見ても、幻獣で間違いないかと」
「そいつは、ナツキに何を喋っていたんだ?」
「遠目で見ていた程度ですので、詳しいことは……ただ、楔がどうとか言っていた気がします」
「楔だと?」
ここにきて、楔の話が出てきた。
楔というと、今までの調査で、アーリヤの夫である神、グウィネが指示を出した幻獣が、世界各地に楔を打って回っていたという結論が出ている。
その幻獣が楔について話していたのなら、そのカラスこそが、グウィネが遣わせた幻獣なのかもしれない。
となると、この町の近くにも、楔があるんだろうか?
それらしき気配は感じなかったけども。
「私はてっきり、あのカラスこそがニクスさんだと思っていましたが」
「我はフェニックスだ。カラスではない」
「それはそれは、大物ですね。人としての成りは可愛らしいのに」
「わけあってこの姿になっているだけだ。本来の姿ではない」
「それは失礼しました」
花の都に楔があるのかどうかはわからないけど、これは割と重要な情報かもしれない。
グウィネが遣わせた幻獣がカラスだというなら、帝国に囚われているのも恐らくはそうだろう。
思えば、鹵獲したロボもレイヴンという名前だったし、関連性はあるとみていいかもしれない。
「みんな、どうしたの? 内緒話?」
「貴様には関係のないことだ。気にするな」
「そう? それならいいけど」
領主も気になっているのか、話しかけてきた。
これ以上、ここで話を続けるのは難しいだろう。
しかし、思ったものとは違う幻獣が出てきたな。
レイヴンの魔石を見る限り、割られてなお、かなりの魔力を秘めていた。
それほどの力を持つ幻獣が、カラスのような小さな幻獣とは、意外である。
いやまあ、姿がカラスなだけで、実際は俺より大きいとかもあるかもしれないけど、領主が見てただの動物と思っていたなら、大きさはそこまでではない気がする。
「カラスの幻獣か、一体何者だろうな」
話を終え、領主の家から出て、考え込む。
リトも、カラスの幻獣には心当たりがないらしい。
マイナーな幻獣なのか、それとも、今回のためだけにグウィネが新たに作り出した幻獣なのか。
正体を掴むきっかけにはなりそうだけど、結局のところ、それは今帝国に囚われている状況。
助けるべき姿が明確になっただけでも前進かもしれないが、核心に迫るようなものでもない。
一体、今その幻獣はどこに囚われているんだろうか。
結構経ったし、もしかしたら、ラスクさんが情報を掴んでいるかもしれないね。
やっぱり、戻った方がいいのかな。
花の都の行く末を心配しつつ、カラスの幻獣のことも気になっていた。
今回で第十五章は終了です。数話の幕間を挟んだ後、第十六章に続きます。




