第三百九十一話:土地の確保
「……確かに効果はあるようだな」
「でしょう? このポーション、どうかな?」
「……検討しておこう。俺の一存だけでは決められん」
そう言って、若い男は腕を組んで黙り込んでしまった。
多分、思ったよりも効果があったから、期待しているのかもしれない。
もちろん、数を用意できるかという問題とかもあるから、これだけで即頷くなんてことはできないだろうけど、もし、このポーションを安定供給できるのだとしたら、戦争ではだいぶ有利になる。
しかも、それをただで手に入られられるとなれば、他の相手との差をつけることもできるしね。
お相手も、ただ単に金稼ぎしたいってわけではないって言うのが、効いてきた感じだね。
「あの様子だと、うまく行きましたかね?」
「さあ、どうだろうね」
その後、念押しにもう一度条件を突きつけた後、彼らは帰っていった。
ポーションの効果は、護衛の身を持って証明できたし、もし本当に戦争の準備をしているなら、喉から手が出るほど欲しいものだと思う。
領主がどう出るかはわからないけど、恐らくは大丈夫だろう。
これ以上の観光地化を防げれば、元のとまではいかなくても、静かな花の都を取り戻せるかもしれない。
先代からの願いが、ようやく叶う時が来たかもしれないね。
「ひとまずは結果待ちですね」
「ええ。その間に、ポーションの量産体制を整えておかないと」
ポーションづくりに必要な材料は、ラウネさんの能力ありきで作られることになる。
基本的には、種から育てるらしいのだけど、収穫の時期も多少はいじれるらしいので、時間はそこまで気にしなくていい。
ただ、育てる面積が少なければ、一度に取れる量は少なくなるわけで、それでは効率が悪い。
薬草以外にも、完成したポーションを入れる小瓶や、作る過程で消費する薪など、必要なものは色々ある。
それらを量産できる体制を整えなければ、いざ要求された時に、満足な量を差し出すことができないかもしれない。
早急に、土地を確保する必要があるだろう。
「宿屋をどうするかって問題もあるな。今の宿屋の数では、足りないのだろう?」
「確かに、それも問題ですね」
これ以上の観光地化を防げたとしても、今の設備を縮小することは難しい。
宿屋関連は、大体隣の領地が利権を握っているようだし、それを縮小するなんて絶対に拒否するだろう。
仮に、ポーションという強みがあるにしても、そこは譲れない一線だと思う。
でも、これ以上宿屋を増やさないのであれば、今の観光客の問題が片付かない。
現状、観光客の数がピークに達する時期は、宿屋から人が溢れ、あぶれた人達は町の入り口で野宿している始末。
厳格なルールによって、花の都の景観は崩されていないけれど、それもマナーの悪い観光客が増えれば、どう転ぶかわからない。
だからせめて、観光客を泊めておくための宿屋を増やすか、そもそもの観光客を減らす必要がある。
ただ後者は、隣の領地的にもやりたくないだろうし、だったら宿屋を増やすしかないけど、花の都の景観は崩せない。
となれば、新たに土地を開拓し、宿屋を建てるしかない。
「なんだか、ほんまつてんとう……」
「仕方なかろう。現状でも、流入を止められないなら、受け皿を用意するしかない。溢れて悪さをされるよりは、管理できる場所に置いておく方がまだましだ」
観光地化したいわけではないが、観光客が来てしまうなら、どうしようもない。
特に、花の都は幻獣にも知られているくらい、有名な観光地になっている。
今更、来ないで下さいと言ったところで無駄だろう。
宿屋の土地に、薬草の土地、色々土地が入用になって来るね。
「また森を消し飛ばすのか?」
「薬草の区画は川の方角でよかろう。重要施設になるだろうし、奥にあった方が都合がいい」
「となると、逆に宿屋は町の入り口側にあった方が便利だろうな」
「二つの土地が必要になるか?」
一応、入り口側は、森に囲まれているというわけではないから、そちらは開拓はまだ容易だろう。
入り口に宿屋を建てるとなると、ちょっと景観的にどうなのかと思わなくもないが、まあ、今も後付けした結果酷いことになっているし、そこらへんは気にしすぎても仕方ない。
人手の問題とかも出てきそうだけど、大丈夫かな。
「まあ、考えていても仕方ない。ひとまず、やってみよう」
「おー」
町の中をいじれない以上、これ以上設備を増やしたいなら、外に作るしかない。
俺達は、手分けして土地の開拓を進めることにした。
俺は薬草畑を作るための土地を確保する方に行ったけど、ここでもブレスは大活躍である。
威力を調整すれば、結構思うがままに土地を確保できるし、後の芽の除去さえなんとかできれば、かなり便利だ。
ちなみに、イグニスさんに聞いてみたが、普通はそんな調整はできないとのこと。
いや、多少ならできるが、そんなに細かくはできないってことらしい。
ブレスは、思いっきり息を吸って、それを吐き出す工程に似ているから、それを調整しようとしても、不発になることがあるから、うまく調整できないのだという。
特に子供は、そこら辺のやり方が曖昧だから、出ないことも多いんだとか。
確かに、俺も最初は苦労した気がするし、ドラゴンのブレスも大変なのかもしれない。
うまく調整できてよかったなと思いつつ、土地の開拓を進める。
そうして、数日頑張っていれば、ようやく畑の形が見えてきた。
「よし、こんなもん」
「ルミエールは凄いねー。私はあんまり役に立てなかった」
「そんなこと、ない」
フェルは主に芽の除去で大いに活躍してくれたし、そんなことはないと思うけどね。
ディートリヒさんも、魔物の間引きに協力してくれたし、お互いに役割分担ができていたと思う。
「後は種を蒔くだけですね」
「その種って、もうあるんですか?」
「はい。種には困りませんでしたから」
そう言って、ラウネさんは袋に一杯に詰まった種を見せてくれた。
本来、種と言っても、その種類の種を用意しなければ、意味がないと思うけど、ラウネさんの場合、種があれば、好きな品種に改良することができるのだという。
例えば、小麦の種を別の花の種にすると言ったように、全く違う種へと変化させることができる。
もはや品種改良なんて域ではない気もするけど、それが幻獣としての能力なんだとか。
戦いが苦手とか言ってたけど、絶対やろうと思えば戦える気がする。
まあ、それは置いておいて、俺のブレスによって現れた芽を使って、種は量産できたらしいので問題はないらしい。
あの芽も、役に立ったのならよかった。
「どれくらいで成長するんですか?」
「うーん、三日は欲しいですね。すぐに成長させることもできますけど、やっぱり、負荷が大きいので」
「三日でも凄いと思いますけど」
その気になれば、全く手入れしなくても育てることもできるらしいが、そこらへんはちゃんとお世話してこそらしい。
確かに、いくら効果が保障されているとはいっても、適当に作られたものでは、効果が落ちたように感じそうだし、ある程度の苦労は必要かもしれない。
この畑の管理は、誰がすることになるだろうか。やっぱり、ラウネさん?
この町全体の花の管理もしているらしいから、ラウネさんの仕事が増えすぎるとまずいかもしれないけど、うまく対処できるだろうか。
俺達がいる間なら、少しは手伝えるけど、ちょっと心配である。
畑に種を蒔きつつ、そんなことを思っていた。




