第三百八十九話:舞台を整え
交渉の席が用意されるまでの間、できることをやろうということで、川に港を作るべく、作業員の募集をかけることになった。
元々、この町は様々な技術を持つ人達が集まっているらしいので、建築関連の職業の人もいるだろう。
というか、こんな立派な町を造り上げたのだから、恐らくはそれに携わった人達がいるはず。
その人達が来てくれたら、他の人も自然と集まると思う。
町を盛り立てるためのものだし、断る人はあまりいないだろう。
「わたしたち、やること、ある?」
「流石に、建築まで面倒は見切れん。技術もないしな」
壊すことにおいては多少は協力できると思うけど、作ることに関してはそんなに役に立てないと思う。
いや、重いものを運ぶとか、そう言うことならできるだろうけど、そう言う人手はいるだろうか?
「ああ、君達が、ラウネの言っていた子達かな?」
「うん?」
どうしようか迷っていると、部屋の中に一人の男性が入ってきた。
成人男性にしては若干身長が低いのと、色白の肌と左右で色の違う瞳が特徴的だ。
この人は誰だろうと思ったけど、リトの言葉によって、すぐにその疑問は解消された。
「今の領主か。何の用だ?」
「やあ、ニクス。先日はどうもありがとうね。この町のために、ここまで考えてくれるなんて、とても優しい人達だ」
「礼には及ばんよ」
領主、確かに会っていなかったけど、こんな人だったのか。
病的、とまではいわないけど、結構肌が白いし、もしかして、あまり外に出ていないんだろうか?
あるいは、政務が忙しすぎて、外に出られないだけかもしれない。
せっかく、自分のために作られた町なのに、見て回れないのは可哀そうだね。
「今は、川まで道を繋げて、船での取引を考えてくれているんだってね。少し見てみたけど、よくこんな短期間であれだけの道が作れたね」
「我らにかかればあれくらいは造作もない。ただ、問題はここからだ」
「うん、取引するための設備を整えないといけないね。募集をかけることになったみたいだけど、皆来てくれるかな」
「きっと来てくれますよ。他でもない、あなたの頼みならば」
「そうだといいねぇ」
割と朗らかな性格なのか、そこまで危機感は持っていないように見える。
それとも、そう見えるだけで、内心はひやひやものだったりするだろうか?
まあ、領主のことを第一に考えてくれる人ばかりなこの町なら、いずれにしても心配はいらないとは思う。
後は、何日でできるかという話になるかな。
「そういえば、建材とかは足りるんですか?」
「木材であれば、多少は。なければ取り寄せるしかないですが、今は輸入は難しいでしょうね」
隣の領地との関係性はまだ改善できていないし、港のための建材を、船で運んできてもらうわけにもいかないだろう。
簡単なものであれば、今の手持ちでもなんとかなりそうだけど、そこはどれくらいの規模の取引をしたいかによるかな。
一応、こちらが提示したものは気に入ってくれたみたいだし、取引自体はしてくれると思うけど、規模はそこまで大きくなくていいと思う。
所詮は一つの町が作れる程度の量だし、船を何隻もやってこさせるわけでもないだろうからね。
詳しいことは、建築士に任せた方がよさそうだし、何か手伝えることがあるなら手伝う程度かな。
「とりあえず、少し待っていてください。交渉の席についても、すぐに何とかして見せますから」
そう言って、ラウネさんは去っていった。
何かやりたいところではあるけど、やれることも少なくなってきたし、今は待機でもいいだろう。
最近は孤児院の子供達とも会っていないし、そちらの相手をするのもいいかもしれないね。
そんなことを思いながら、舞台が整うのを待つことにした。
そうして数日が経った。
募集には、多くの人が手を上げてくれた。
この町のため、領主のため、できることは何でもやるということで、とても積極的だったから、やる気は十分だろう。
いつの間にかできていた道に関しては、驚きの表情を見せていたが、すぐに立て直し、皆と建設予定地に向けて、出発していった。
道中の魔物については、結構間引きしたし、ラウネさんに聞いたら、魔物避けの植物もあるらしいから、それを張り巡らせることによって、安全を担保している。
絶対に防ぐ、というものではないけれど、定期的に間引きをしていれば、道で襲われる心配はないだろう。
俺達も何か手伝えないかと聞いてみたが、道を作ってくれただけでもありがたいからと、遠慮されてしまった。
まあ、俺のような子供が、本当に道を作ったと信じているかはわからないけど、それも町の人達の優しさなのかもしれないね。
あるいは、子供が現場に来ることを嫌っただけかもしれないが。
港の建設に関しては、任せておけば何とかなりそうだ。
となると、後は交渉がどうなるかってところかな。
「本当に、私達も一緒にいていいんですか?」
「もちろん。僕では、言いたいことを素直に言えないからね。代わりに言ってもらえたら、凄く助かる」
ラウネさんの頑張りによって、交渉の席はすぐに用意された。
本来なら、こんなに早くは無理だと思うけど、相手も恥をかかされたこともあって、早急に文句を言いたかったのかもしれない。
来るのは相手の領主の息子らしい。
今までにも何度か会ったことはあるらしいけど、どうなるかな。
「そろそろ来ると思いますよ」
「わかった。ラウネも、そばにいてくれると嬉しい」
「もちろん、私はいつでもおそばにおりますよ」
交渉の席だというのに、こちらは七人もいるし、ディートリヒさんに至っては、剣まで持っている。
これでは威圧感を与えかねないとは思うけど、それは相手も承知の上だという。
なにせ、今回の交渉の席を用意した目的は、リトのことも含まれると思っているようだからね。
リトは、以前に、隣の領地からやってきた人を返り討ちにし、険悪なムードを作り上げてしまったから、その謝罪という意味もあると思っているってことだね。
やりこめられるのはだめだけど、謝罪自体は必要だし、これだけいた方がむしろ誠意が伝わるだろう。
実際の目的は違うとしてもね。
「失礼する」
そうして少しすると、応接室の扉が開かれた。
やってきたのは、若い男性と、護衛と思われる男性が二人。
相手が来たということで、こちらも立ち上がり、挨拶をするが、若い男性は、それに応えることもなく、ドカッとソファに腰かけた。
「交渉がしたいという話だったな。それよりも先に、謝罪が先ではないか?」
「それについては申し訳ない。つい、カッと来てしまったようでね」
「カッとしただけで魔法を使われたんじゃおちおち話し合いもできん。確か、やったのは……その子供だな? この町の子供は、ろくな教育を受けていないのか?」
「この子はたまたまこの町に来ていただけで、この町の子ではないけれど、不快な思いをさせたのなら謝罪するよ。申し訳ない」
「そういうものは、子供自身に謝らせるべきだと思うがな」
ぎろりとリトの方を睨む若い男。
ちょっと険悪な雰囲気だけど、大丈夫かな。
俺は、少しはらはらしながら、会話を見守っていた。




