第三百八十六話:リスクと対策
しばらく待っていると、大きな音が聞こえてきた。
リト達が入ってから、怒鳴り声もよく聞こえていたけど、何かあったんだろうか?
見に行きたいけど、俺達が乱入したら余計にややこしくなりそうだし、ラウネさんもいるから大丈夫だとは思う。
ここは大人しく待つべきか。
「やれやれ、話が通じない連中はこれだから面倒くさい」
「あ、にくす」
そう思って、気になりつつもまた待っていると、リトが帰ってきた。
なんか、若干焦げ臭い。もしかして、燃やした?
「なにやったの」
「なに、ちょっと立場というものをわからせてやっただけだ」
「あれはもはや脅しだと思いますが……」
やってやったという感じのリトに対して、ラウネさんは呆れた様子である。
どうやら、お相手は、乱入してきたリト達に対しても、色々文句を言ってきたようだ。
それに対し、リトは新たな流通ルートが確保できたことを説明し、もう言うことを聞く必要はないと突っぱねたらしい。
あまりに直接的な物言いに、お相手は激怒し、危害を加えようとしてきたから、リトも反撃として軽く燃やしたらしい。
お相手は、覚えていろとどこかで聞いたようなセリフを吐いて出て行ったようだ。
なんか、リトに交渉を任せた俺が間違っていたんだろうか。
子供の姿であれば、相手も少しは話を聞きやすくなるかなと思ったけど、全然そんなことはなかったようである。
「そんなことして、だいじょうぶ?」
「問題なかろう? 流通ルートは確保できたし、それがうまく行けば、もはや奴らに頼る必要もない」
「いや、それはそうだけど……」
確かに、船を使った取引が開始できれば、金銭的な面では何とかなるかもしれない。
ただ、流石にそれだけでこの町を回していくのは難しくないだろうか?
元々、観光客は迷惑だけど、完全に追い出すと財政的に厳しいから、少しは残して、って言う考えだったはずである。
しかし、隣の領地との関係が悪くなれば、そこを通ってくる人々は苦労するわけで、観光客は激減することになるだろう。
それに、観光客を考えないにしても、船での取引が何らかの理由で中止されたりした場合、この町は完全に孤立する羽目になる。
隣の領地の思い通りにさせるのはよくないけど、完全に頼らなくていいと突っぱねるような段階でもないわけだ、
これでは、どこかのタイミングで、町の財政は苦しくなっていくかもしれない。
「ふむ、それは考えていなかったな。むかつく奴だったから、わからせてやろうと思っただけなのだが」
「はは、かっとなると辛辣になるのは相変わらずだな、我が友よ」
「わらいごと、ちがう」
今更、リトの言葉を撤回させることはできない。
仮に、謝罪してこれからも良好な関係を築きたいと言ったところで、今回の出来事を突かれて、余計に無理な要求を突き付けられるだけだ。
これは、思った以上に深刻な事態かもしれない。
「……そう怖い顔をするな。気に入らない奴と仲良くしようとしても、どこかでほころびが出るに決まってる。だったら、初めから頼らない方向で模索した方がいいではないか」
「ひとは、そんなに、あまくない」
そりゃ、嫌いな人とは、距離を置けるならそうしたいに決まってる。
でも、そうできない状況なんていくらでもあるだろう。
今回の件だってそうだ。
ここは陸地の行き止まりに当たる場所で、唯一の通り道は隣の領地である。その隣の領地と関係が悪くなったら、相手は人も、物資も、やろうと思えば止めることができてしまう。
そうならないための新たなルートではあるけど、船は輸送時間が長いし、天候などによっては出せない時もある。
そんな不安定なルートに、町のすべての財政を頼るなんて、どう考えても悪手だ。
気に入らない相手であっても、利益となるなら多少のことは目をつむらなければならない。
リトのように、嫌いな奴は片っ端から皆殺しにすればいいという考えは、人の間では通用しないのだ。
「はぁ、悪かった。そこまで考えが至らなかった」
「たいさく、かんがえる」
「そうだな。とはいえ、どうしたものか」
もう、言ってしまったものはどうしようもない。
下手に謝ることもできない以上、撤回するのは難しいからね。
理想は、隣の領地と対等な関係になることだけど、それが無理ならまた別のルートを開拓するとかかな?
ここが行き止まりでないのなら、他にもルートを考えられるけど、そもそも何で行き止まりなんだろうか?
見た感じ、海に面しているというわけではないし、まだ先に土地はありそうだけど。
「この先に町がないからですね。人は少しずつ時間をかけて、住める領域を拡大してきましたが、それでもまだ大陸の半分以上は未開拓な場所ですから」
「なるほど」
土地はあっても、道はなく、誰かが住んでいることもない。だから行き止まりってことか。
誰もいない場所に手を伸ばしたところで、そこに取引は生まれないし、だったらルートを広げることもできない。
陸路で取引しようってなったら、やっぱり隣の領地を通る必要があるわけか。
まあ、陸路すべてが隣の領地というわけではないだろうし、未開拓な部分を開拓して、無理矢理道を繋げるってことはできるかもしれないけど、そんなの隣の領地の人が黙ってないだろう。
安定した取引をしたいなら、やっぱり隣の領地との取引も必要になってくる。
「その人達は、なんでそんなに急いで観光地化を進めたがってるんですか?」
「それだけこの町が魅力的だったということではないでしょうか? 昔から、しつこく狙ってきていますし」
花の都は、誰が見ても美しく、観光地にすれば間違いなく儲かる金の卵だった。
だからこそ、それをどうにか利用して、甘い汁を吸いたいという連中が、手を出してきたというわけだね。
現状、宿屋関連は大体隣の領地が利権を持ってるみたいだし、飲食店も一部はそうだろう。
観光客が増えれば、それらを利用する人も増えるし、必然的に入ってくる収入も増える。
そりゃ、観光地化を進めたいわけだよね。
でも、本当にそれだけだろうか?
「白竜の、何が言いたい?」
「あいても、みる」
「わざわざ隣の領地に行って、その様子を見てくると? 何の意味がある?」
「なにか、りゆう、あるかも」
ここまで、こちらの事情ばかりで話を進めてきたけど、もしかしたら、相手にも無理を通したい理由があるかもしれない。
その問題を解決できれば、これ以上無理を言ってくることはなくなるかもしれないし、相手の状況を確認するのも、一つの手ではないかと思うのだ。
もちろん、ただ単に甘い汁を吸いたいだけだったらどうしようもないけど、意見くらいは聞いてみてもいいと思う。
「……まあ、今回は我にも責任がある。貴様の好きなようにやるといい」
「ありがと」
さて、そうと決まればさっそく確認をしてこよう。
俺は、ラウネさんに謝りつつ、出発の準備を始めた。




