第三百八十四話:道の開拓
しばらくして、ラウネさんが帰ってきた。
領主は、任せてしまって大丈夫なのかと訝しげな様子だったようだけど、ラウネさんの説得によって、信用してくれたらしい。
まあ、領主にとっては、ラウネさんは生まれた時から育ててくれた親と同じくらい信用している人だろうからね。
ラウネさんのためにも、このプロジェクトは成功させなければならない。
俺達は、さっそく川がある方角へと向かうことにした。
「方角的にはここからまっすぐですね」
このあたりの地理にも詳しいらしいラウネさんと共に、現場に立つ。
周りは森に囲まれており、獣道と思われる道がちらほら見える程度。
ヒノアの大森林ほどではないけど、それなりに広い森みたいだね。
「ここ、かいつう、いい?」
「はい、大丈夫ですよ。森の中に小屋などもありませんし、誰かが住み着いているということもないはずです」
森は、結構重要な資源でもある。
木材としてはもちろん、狩猟目的で入ったり、薬草を採取したり、森は資源の宝庫だ。
森の近くに町があったりするのは、そう言った資源目的で立てられた町だからだと思う。
だから、すべてを薙ぎ払って道を作ろうしている今の状況は、一般的にはあまり歓迎はされない。
それに、植物を司っていそうなラウネさんからすれば、それを破壊する行為でもある。
文句言われても仕方ない状況だけど、ラウネさんは特に反論することはなかった。
それだけ信頼してくれているのかもしれない。
なら、その信頼に応えないとね。
「もとに、もどる」
「私もいるのだが、いいのか?」
「うん。でぃーとりひさん、しんよう、できる」
まあ、ほんとは幻獣の姿を人に見せるのはあまりよくないことらしいけど、ディートリヒさんならいいだろう。
俺は、人化を解除して、元のドラゴンの姿へと戻る。
すっかり人化にも慣れてきたが、やっぱりこちらの姿の方が落ち着くのはあるね。
人化した姿が、前世の姿とはかけ離れ過ぎているというのもあるけど。
後、名前が言えないのがもどかしい。
「……美しいな。これが、君の本当の姿か?」
『うん。驚いた?』
「言葉が違うな。舌足らずなのは、子供だからというわけではなく、人に合わせてくれていたからか」
『ああ、うん』
一応、この姿でも喋ろうと思えば喋れると思うけど、人化していた方が話しやすい。
ちらりとラウネさんの方を見てみると、こちらも驚いているのか、目を見開いていた。
ドラゴンだとは思っていなかったのかもね。
「ドラゴンの、しかも子供ですか? よくここまで……いえ、何でもありません」
『始めていい?』
「はい、お願いします」
許可も出たので、さっそく始めることにする。
最初は控えめに行くつもりだ。
以前のように、全力でやって、いらぬ場所まで破壊してしまっては困るし。
本格的にやるなら、最初にざっと見回って見た方がいいかもしれないけど、そもそもブレスで本当に道が作れるのかの検証もしたい。
とりあえず、三割くらいの力で、やり過ぎないようにして……。
『はぁぁあ!』
喉元に溜めたエネルギーを、一気に吐き出す。
どの属性とも取れないような真っ白な光は、そのまま森を突っ切り、ぽっかりと風穴を開けた。
「すさまじい……ブレスは何度か見たことがあるが、これは……」
「いつ見ても綺麗だよね。私もブレスとか撃てたらいいんだけど」
「ほれぼれするくらい清らかな魔力ですね。破壊されたはずなのに、周りの木々が喜んでいるようです」
それぞれの感想を聞きながら、出来栄えを確認する。
ブレスが通った場所は、跡形もなくなり、ところどころに木々の破片が散乱するのみである。
辺りには、活力に満ちた光が満ち溢れ、なくなった地面からは、すでに芽が出ている場所すらある。
今回は、道にしなくちゃいけないから、芽は除去しなくちゃいけないけど範囲としては、想定内に収まったかな。
ブレスでちゃんと道が作れそうだし、後はちゃんと測量して、綺麗に道を作ればオッケーだね。
「その清らかな魔力、それに、生命力溢れるブレス……もしかして、アーリヤですか?」
『え?』
次の工程を考えていると、ラウネさんの口から、アーリヤの名前が出てきた。
アーリヤ自体は、幻獣の間では有名だし、知っていてもおかしくはないけど、俺のことを最初からアーリヤって呼ぶのは初めてだろうか?
もしかしたら、ユグドラシルからの連絡が来ていたって可能性もあるけど、それなら最初に会った時に反応しているはずだし、知らなかったよね?
アーリヤに似ているとは言われたことはあるけど、そこまで確信持って言えるものなんだろうか。
「アーリヤ、確か過去の戦争で命を落とした偉大な幻獣の名だと聞いたな。ラウネ殿、何か知っているので?」
「ええ、一応。と言っても、私は遠巻きに眺めていただけで直接関わったことはないのですが」
そう言って、ラウネさんは昔話を始めた。
ラウネさんも、幻獣の一体として過去には人々の願いを叶えるために奔走していた時期があるらしい。
アーリヤのことは、噂で聞き、何度かその姿を見たこともあったが、話すことはなく、その活躍を遠巻きに眺めているだけだったという。
例の戦争が起きた折、ラウネさんはアーリヤが亡くなったことを聞き、同時に大地に大きな力が流れ込んだのを感じ取ったのだとか。
それは間違いなく、アーリヤの魂。天に召されず、大地へと還ったアーリヤを不審には思ったが、それ以上のことはせず、各地を転々としながら、旅をした。
その後に出会ったのがナツキさんであり、自分の居場所と定めたこの場所を守ろうとしていたってわけだね。
まあ、それはともかくとして、ここ最近になって、大地からアーリヤの力が抜けていったのを感じ取ったのだという。
だから、アーリヤが再び地上に現れたのではないかとは思っていたようだ。
植物を司るラウネさんは、大地との繋がりを深く感じることができたので、そのことにいち早く気づいたってことだね。
話したことはなくても、その清らかな魔力と慈愛の心は知っていたので、俺のブレスを見て、もしかしたらアーリヤなのではないかと思ったようだった。
まさか、こんなところでもアーリヤの話が出るとは思わなかったな。
「子供の姿なのは、蘇ったばかりだからでしょうか? 本来の姿がドラゴンとは聞いていませんでしたが、なんだか秘密を知った気分です」
『いや、そう言うわけじゃないんだけど……』
ラウネさんは、俺のことをアーリヤだと思っているけれど、実際にはアーリヤの生まれ変わりではあっても、アーリヤの精神ではない。
俺自身は全く関係ない社畜の魂であり、そんな大層な人物ではない。
間違ってはいないんだけど、合っているとも言い難いこの感覚。
どう正したらいいんだろうか?
「……ともかく、そのブレスであれば、道を作るのは容易でしょう。よろしくお願いしますね」
『あ、はい』
ラウネさんは、そう言って先を急かした。
まあ、ここで俺がアーリヤだとかそうじゃないだとかをはっきりさせたところで、別にどうでもいいもんね。
今重要なのは道が作れるかどうかであり、この町が救われるかどうかである。
早いところ、道を作って、リトの帰りを待とう。
そう考えながら、大まかな測量を始めた。




