第三百八十三話:旅の必需品
「おや、帰って来たのか」
「でぃーとりひさん」
ひとまず部屋に戻って休もうと思っていると、ディートリヒさんと出会った。
リト達の正体を知ったからか、ラウネさんはディートリヒさんにも相談を持ち掛けたらしい。
元々、困っていることはないかと聞かれていたが、本来はこの町の問題は自分達で片付けなければならないと思っていたようだ。
リトに話してくれたのは、友達であるナツキさんの知り合いだったからだろうか?
とにかく、頼ってくれたのなら好都合だ。
「観光業に頼らないビジネスを考え、町を元の静かな町に戻したいということだったな」
「うん。でぃーとりひさん、なにか、あん、ある?」
「すべてを自給自足するのでないのなら、やはり特産品は必要になってくるだろう。私が思いついたのは、薬だ」
「くすり?」
ディートリヒさんは、この孤児院に常備されている薬を見せてもらったらしい。
本来、薬はそこそこ高価で、安いものでは効き目が悪いことが多い。
もちろん、治癒魔法をかけてもらうよりは安上がりだから、軽い症状であれば、薬に頼った方が楽だし、どこにでも必要不可欠なものだ。
特に、旅をしている最中に、怪我や病気にかかった時に、薬があるかないかは生死を分けることもある。
だから、そんな薬が作れるのなら、それは紛れもない強みになる。
ただ、薬を作れる人は専門の知識が必要になるし、材料である薬草などを安定供給できる必要もある。
だから、特産品にできるほどの量を作るのは、なかなか難しいのだが……。
「どうやら、この孤児院のみならず、町で使われている薬には、ラウネ殿が関わっているらしい。薬の材料となる、薬草を調達してくれるのだとか」
「ああ、なるほど」
「何か心当たりがあるのか?」
「らうねさん、しょくぶつ、そだてる、とくい」
「そう言うことか。確かにそれなら、薬の材料を安定させることもできるかもしれない」
育てるのが得意というか、むしろ植物そのものを生み出しそうな勢いだけど、先ほどのアクセサリーの件と一緒に考えると、高い薬効を持った植物を作ることも、恐らくはできるだろう。
それを用いた薬なら、必然的に効果は高くなるし、他の安い薬よりはアピールポイントになるはず。
アクセサリーと違って、薬は庶民でも貴族でも必要になるものだし、需要も高い。
これなら、受け入れられる可能性は十分にある。
「いいあいであ」
「私も旅暮らしが長いからな。薬の重要性は理解しているつもりだ」
そうなってくると、後は取引先の確保が必要になってくる。
リト達は、うまく話しをつけられただろうか?
まだそんなに時間が経っていないし、戻ってくるのはもう少し先になりそうだけど、今のうちに道を作っておくべきだろうか?
「しかし、特産品を作れたとして、どうやって流通させるのだ? 確か、周りの領地からは、流通を止めるぞと脅されているのだろう?」
「あたらしい、みち、つくる」
「ふむ。ニクスらがいないところを見るに、すでに動いているということか? 出遅れたな」
「でぃーとりひさんも、でばん、ある」
「私にできることなら、力を貸そう。何をすればいい?」
「みち、したじゅんび」
計画では、森を切り開き、その先にある川を利用して、別の領地と取引をするという話だった。
正直、まだ取引先も決まっていない中、道を作るのは時期尚早な気がしないでもないけど、別に作っておいて損はない。
元々、今の状況が続いていけば、流通を制限される可能性はあるわけだし、隣の領地と関係ないルートを用意しておくことは、重要だろう。
最悪、全く使われなくても、苦労するのは俺達だけだし、せいぜい、森の魔物達が困るくらいか。
それも、元々間引きはされているみたいだし、その範囲が少し広がるだけである。
なので、早めに着手してもいいだろう。
差し当たって、まず必要なのは、魔物の掃討だ。
いくら道を通しても、魔物が跋扈していたんじゃまともに使えない。
少なくとも、道の予定地の周辺は、間引きをしておく必要があるだろう。
ある程度間引ければ、道を作るのはそう難しくない。
だから、ディートリヒさんには、魔物を倒してほしいのだ。
「なるほど。それは構わないが、具体的にどれくらいの範囲なのだ?」
「んー……」
そう言えば、地図上では見たけど、実際には見たことがないんだよね。
地図上で言うなら、距離はそれなりに離れている。仮に道が敷かれていたとしたら、馬車で三日ほどはかかるだろう。
直線距離で結んだとしても、結構な範囲であり、そのすべてを間引くというのは、あまり現実的ではないかもしれない。
ちょっと考えが甘かっただろうか?
「流石にその範囲をすべてとなると時間がかかるな」
「どれくらい?」
「少なくとも二週間。いや、三週間はかかるかもしれない」
まあ、調査とかも必要だろうし、ディートリヒさんが強くても、それくらいはかかるか。
実際に見てみないことにはわからないけど、魔物の数によっては、もっと時間がかかるかもしれない。
リト達が戻ってくるまでに仕上げたいと考えるなら、もう少し効率のいいやり方が必要になりそうだけど。
「いっそのこと、ブレスでバーッとやっちゃえば?」
「ぶれすで?」
少し考えこんでいると、フェルからそんな提案が出てきた。
なるほど、俺のブレスなら、長距離まで一気に破壊することができる。
なんなら、範囲内に巻き込めば、魔物も一緒に倒せるかもしれない。
まあ、それをやったとしても、結局間引きは必要になるだろうけど、手間を省くという意味では、ありかもしれないね。
「ブレス……そういえば、君はドラゴンだったか」
「うん。ぶれす、とくい」
「頼もしいな。それなら、まずはラウネ殿に許可を貰ってこよう。一応、他人の領地内を整地するのだから」
「そうだね」
本来なら領主の許可が必要になるだろうけど、ラウネさんは今の領主とも繋がりが深いようだし、ラウネさんが許可を出すなら、領主も許可を出すと思う。
そう言うわけで、さっそくラウネさんにお伺いを立てることにした。
「らうねさん」
「おや、どうしましたか?」
「きょか、ほしい」
「まあ」
すでに、領主の家で大まかなことは話し合っていたけど、改めて実行に移すと言われて、少し驚いたようだ。
いくら幻獣でも、瞬時に道を作るとなるとできない者もいる。
今回はたまたま俺や、もしかしたらイグニスさんでもできたかもしれないけど、俺達の正体までは伝えていなかったからね。
でも、驚きこそしたけれど、俺達のことを知っているからか、特に反対することはなかった。
すぐに領主に確認を取ると言って、そのまま家に向かっていった。
「うまく行くといいね」
「うん」
ブレスで道を作るのはいいと思うけど、ある程度計算しないと、いらぬ場所まで破壊してしまう可能性もあるし、調査は必要になる。
果たして、うまい具合に開通できるだろうか。
そんなことを思いながら、ラウネさんの帰りを待った。




